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グローバルシステムに変貌した栗田工業のIoT水処理監視

世界各国400以上のローカルキャリアとローミング可能
グローバルシステムに変貌した栗田工業のIoT水処理監視

工業用水の施設

 栗田工業は2013年12月、遠隔監視で水処理薬品の注入量を自動制御する水処理管理サービス「S・センシング」を立ち上げた。従来、海外はデータ収集に用いる通信規格の制約から中国や東南アジアなどに限られていたが、3年目を迎えてIoT(モノのインターネット)ベースのシステムに刷新し、本格的なグローバル展開を可能にした。

 S・センシングは、顧客の工場設備にセンサーを取り付け、稼働状況や水質計測値などのデータを自動収集・解析し、水処理を生産性向上につなげるのが狙い。計測、解析、制御、監視を組み合わせシステム化し、リアルタイムで最適な水処理の実現を目指す。国内顧客を想定し事業化したが「急速に拡大する海外市場への対応と、ソリューションとして付加価値を高めることが課題になった」(大澤公伸栗田工業ケミカル事業本部技術統括部門機器部長)という。
世界各国の工場に対応する水処理管理サービス「S・センシング」の全体概要図


 グローバル展開には、世界各国に対応する安定した通信環境の整備と確立が必要だ。言語の違いを超え、直感的に扱える画像操作環境(GUI)も考慮し、情報通信技術(ICT)基盤に東芝のクラウド遠隔監視サービスを採用、S・センシングは16年9月、新システムに生まれ変わった。

 世界共通データ収集端末として、第3世代移動通信システム(3G)回線を利用する「S・センシングGW」を導入。搭載した英ボーダフォン製SIMは「世界各国400以上のローカルキャリア(通信事業者)とローミング(相互接続)が可能」(永野和俊東芝インダストリアルICTソリューション社IoTコンサルティング&事業開発部主幹)だ。

 この機能により、顧客の工場がどこにあってもデータを収集・蓄積し、それを解析して水質変動に合わせた最適な薬品注入を実現する。顧客もインターネット上のポータル画面で、自社工場の計測データや水処理の状況をいつでも確認できる。
顧客が工場の計測データや水処理の状況を確認するポータル画面(イメージ)


 センサーやデータ収集端末の設置・調整は、専門的スキルが求められる。だが、限られた人材で世界各国の工場に対応するのは非現実的。このため、導入したS・センシングGWは監視対象となる10数種類の設備・機器ごとにテンプレート(ひな型)を用意し、ケーブル接続以外は端末側のひな型選択だけで済むようにした。

 S・センシングは一部海外を含め、これまで約1000事業所に導入された。システム刷新により当面、30カ国・1万事業所への拡大を目指す。さらに「収集したデータの自動解析にとどまらず、ビッグデータとAI(人工知能)を組み合わせた故障予知や予防保全も視野に入っている」(同)とする。
日刊工業新聞2017年1月9日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
栗田は世界トップクラスの水処理薬品企業を目指し、日本、アジア、欧州に北米を加えた世界4極体制の確立を図る。15年初にはドイツの化学品メーカー、BKジューリニ(BKG)から水処理薬品事業を買収するなどグローバル展開を加速し、S・センシングが有力な武器になりそうだ。 (日刊工業新聞第二産業部・青柳一弘)

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