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重工メーカーにとって射出成形機は毎日の栄養分か

住友重機械は重点事業に。三菱重工は売却
重工メーカーにとって射出成形機は毎日の栄養分か

独「デマーグ」ブランドの射出成形機(中国での展示会で撮影、2014年)

 住友重機械工業は2018年3月期から3年間の次期中期経営計画で、射出成形機などプラスチック機械分野の売上高目標を17年3月期見込み比25%増の1000億円に設定する。スマートフォン(スマホ)関連向けの旺盛な需要が一段落した中、自動車関連や容器向け需要を取り込み、成長軌道を描く。生産現場の効率化も進め、営業利益率は17年3月期見通しと同水準の10%を維持する。

 17年3月期の同分野の売上高は800億円の見通し。自動車や容器関連は日系メーカー各社が注力分野に定めている。住重は得意とする精密性や生産性の高い射出成形機の技術を生かして、他社と差別化する。

 サービス面も要員を増やすほか、欧米など海外の現地サービス拠点でもサービス教育を拡充する。「地道にサービス力を高めてユーザーの評価を得る」(別川俊介社長)方針だ。

 08年に買収した独デマーグとの共同開発製品の投入も加速する。双方の得意技術を生かした製品を投入するほか、生産面でもそれぞれの利点を互いに活用して生産性を高める。 すでに住友重機械工業の千葉製造所(千葉市稲毛区)では、デマーグの知見を生かした生産改善の取り組みを進めている。今後はIoT(モノのインターネット)採用も進め、生産現場の効率化を推進する方針だ。

 住重の射出成形機は国内市場でトップシェアを誇る。電動機は小型、中型を得意としている。油圧は型締め力2000トン以上の大型機もラインアップに持つ。

日刊工業新聞2016年12月29日



スマホ特需終了、車シフトも再編の動き


 射出成形機の2016年は、出荷台数の中心を占める型締め力100トン未満の小型機が振るわず、苦戦が続く年となった。スマートフォン(スマホ)の好調に伴う画面の導光板や筐体(きょうたい)、レンズといった樹脂製品向けの旺盛な需要、いわゆる「スマホ特需」がなくなり、各社は自動車関連へのシフトを進めている。一方で業界再編の動きも出てきた。

 小型機を得意とする住友重機械工業とファナックにとって、16年は向かい風の状況が続いた。台数が稼げるスマホ向けがなくなったことに加え、11月まで円高が続き、輸出関連が価格面で競争力を持てない状況が続いた。米アップルの「アイフォーン」や中国スマホの人気が落ち着いた今、「もうスマホ特需はない」(平岡和夫住重常務執行役員)という“数”が見込めない中で、次の一手が求められる。

 住重は千葉製造所(千葉市稲毛区)の生産や物流などの効率化で利益を確保していく考えだ。ただでさえ射出成形機は利幅が少ない製品。今後は利益を確保できる体質づくりとIoT(モノのインターネット)に対応するなどの付加価値で対応していく。ファナックは「需要がゼロになるわけではない。目先の数字でどうこうしない」(内田裕之副社長)と長期的な視野で地道に販売やサービスを整えていく。

 また、大型機を得意とする宇部興産が三菱重工業の射出成形機事業を買収した。宇部興産や日本製鋼所は、売上高1000億円を超える海外勢と戦うためには再編が必要という姿勢。日系メーカーは30社以上がひしめくプレーヤー過多な状況でもあり、今後も業界内で買収や海外事業での提携などが起こる可能性は高い。
(文=石橋弘彰)

日刊工業新聞2016年12月15日より一部抜粋



六笠友和
六笠友和 Mukasa Tomokazu 編集局経済部 編集委員
住友重機械にとってプラスチック製品をつくる射出成形機は、きょうのお米です。本業と呼ぶべき造船やプラントといった足の長い仕事と違い、量産機をたくさん売って、てきぱき回収できる射出成形機はきょうを生きる栄養でしょう。こうした補完関係を築くのは経営の常套手段ですが、スマホ部品をつくるような電動の中小型機を優先し、国内最大手までになった戦略の巧みさがうかがえます。 同じ重工大手に三菱重工業があります。1月1日付で射出成形機部門を宇部興産に売却しました。重工会社然とした大型機に集中し、射出成形機としては足の長い仕事が多かったようにみえます。特殊なサイズの機械ゆえに市場は限られ、際立った成長を想定しずらかったように思います。内部で成長(=住友重機械)と外部に売却(=三菱重工)という好対照の結末になりました。

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