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液晶再編につながる?ジャパンディスプレイとシャープが車載向けに必至なワケ

市場の成長と収益性は魅力。一方で韓・台勢が攻勢、車メーカーは安定的な供給体制を注視
  中小型ディスプレー業界で車載分野の存在感が高まっている。車のIT化の進展に伴い1台に搭載するディスプレー数が増え、市場拡大が確実視される。供給安定性などが求められる車載ディスプレーは参入障壁が高い一方、長期間にわたって安定的に収益を確保でき“うま味”も多い。車産業の集積がある日本での地の利を生かし、車載ディスプレーで覇権を握れるか。ジャパンディスプレイ(JDI)シャープの中小型ディスプレー2社の戦略に注目が集まる。

 【“つながる車”へ】
 米テスラモーターズが2013年に発売した電気自動車(EV)「モデルS」。随所に先端技術を詰め込んだこのモデルSで、特に目を引くのは車載ディスプレーだ。ハンドル奥には計器類などをデジタル表示する液晶、運転席と助手席の間には17インチの大型液晶が存在感を示す。

 先進運転支援システム(ADAS)や、常時インターネットに接続される“つながる車”の実現を目指し車のIT化が進む。車内で取り扱う情報が飛躍的に増えるためディスプレーの役割は高まる。調査会社のIHSグローバルによると14年に8837万枚だった車載ディスプレー出荷数は、19年に57・6%増の1億3925万枚まで拡大する。

 JDIとシャープは車載ディスプレー事業の成長を目指しアクセルを踏み込む。JDIは、伝統的に強い欧州市場を深耕しながら、日米の市場開拓に取り組む。14年6月には米デトロイトに拠点を設けるなど営業体制を強化しており、足元では「特にトヨタ自動車と独フォルクスワーゲン(VW)向けのシェアが上がっている。また米ビッグスリーとの取引拡大にも手応えを得ている」(柳瀬賢ヴァイスプレジデント第6ビジネスユニットビジネスユニットマネージャー)。

 車載ディスプレー事業は鳥取工場(鳥取市)に集約しており、開発・生産・品質管理の一体的な運営を実現している。このため信頼性や供給安定性を確保した上で、「先端製品をいち早く提供できる」(柳瀬マネージャー)のが強みだ。同社の車載事業の15年3月期の売上高は約750億円(全社売上高の約10%)。次期社長となる有賀修二取締役は「3年後に車載事業の売上高2000億円を目指す」と話す。

 シャープは中小型ディスプレー事業の収益を安定させるため、車載を含む非コンシューマー向けの売上高比率を14年度の14%から21年度は40%まで高める考え。中でも車載向けを重視しており、「ディスプレーをただの表示器から高機能デバイスに変える」(方志教和専務)と技術革新をけん引する方針を掲げる。

 【自由な形状可能】
 高視認性や異形状、狭額縁などの液晶技術と、自社製のセンサーデバイスなどを組み合わせて車載ディスプレー分野で新たな価値創造を目指しており、円形やドーナツ形などの自由な形状をつくれる「フリー・フォーム・ディスプレイ(FFD)」、画像センサーと連携したセンターミラー用ディスプレー、ジェスチャーセンサーと組み合わせたタッチレスインターフェースなどの提案を始めている。

 同じ中小型ディスプレーでもスマホ向けと車載向けでは、全くビジネスのやり方が異なる。車載向けでは耐久性などで高い信頼性が求められるほか、長期の安定供給体制が必要になる。多品種少量生産への対応も不可欠だ。一方、一度採用されれば取引関係は長期にわたり、急なコストダウン要求もない。ディスプレーメーカーにとり車載事業は、変動の激しいスマホ向けをカバーし業績を下支えする縁の下の力持ちになり得る。

 中小型ディスプレー業界では日本と韓国、台湾、中国のメーカーがシェアを競う。これらの国・地域の中で、乗用車メーカーだけで8社がひしめく日本には、サプライヤーを含めた車産業の集積がある。IHSグローバルの早瀬宏シニアディレクター上席アナリストは「車ビジネスの独自文化を肌でわかっている日本のディスプレーメーカーは優位な立場にある」と指摘。車載ディスプレーのシェア(14年)でも1位にJDI(20・0%)2位にシャープ(15・5%)がつける。

 【台・韓勢も本腰】
 ただ台湾のイノラックスやAUO、CPT、韓国LGディスプレイが車載分野に本腰を入れ始めた。商社のUKCホールディングスは、台湾メーカーの車載ディスプレーを取り扱っており、「コスト競争力が評価されて、ティア1(1次)車部品メーカーからの引き合いが増えている」(福寿幸男社長)と話す。今後、日本勢が競争優位を保つには、ティア1や完成車メーカーに対して、ディスプレーによってIT化を促進するような踏み込んだ提案が求められている。

 また安定供給力が厳しく問われるだけに、シャープを巡っては危機的な経営状態が足を引っ張る要因になる。ある業界関係者は「シェア低下の傾向があり、ティア1から敬遠されるケースが見受けられる」と証言する。シャープは、将来にわたって供給責任を果たせるという根拠を、明確に示す必要がある。
日刊工業新聞2015年05月25日 電機・電子部品・情報・通信面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
もうシャープを含め液晶各社は10年前から車載向けを強化すると言っている。結局、先進技術のうけは良いがコモディティーにならないと、採用は進まない。そうなれば結局、コスト競争力が問われる。今のところスマホのアップルのような「特別」は存在も出てきそうにない。ルネサスの経営再建の際は、日系の大手自動車メーカーが出資して支援したが、自動車側にとってサプライヤーの選択肢が多い方がよいケースもある。

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