ニュースイッチ

ユーグレナ・出雲社長が信じる「459回挑戦したら99%成功する法則」

「ミドリムシみたいなくだらない仕事なんてやめた方がいい」という大合唱の中で、500社目に運命の出会い
 まず、私がなぜミドリムシに関わるようになったのかを話したい。

 私はサラリーマンの父と専業主婦の母、それに弟の4人家族で、極めて普通の家庭に育った。当時はまさか自分が起業するとはまったく想像していなかった。

 大学に入って18歳で初めて海外にいった。本当はアフリカに行きたかったが、金がかかるため、バングラデシュを選んだ。そこで何か土産を持って行こうと思い、『カロリーメイト』をたくさんトランクに詰めて持っていた。世界には食べ物に困っている人が10億人もいると聞いていたからだ。

 しかし、実際に行ってみたら、お腹がすいて困っているという子供など一人もいなかった。いなかったが、食事は毎日カレーライスと豆のスープばかり。肉、魚、卵など動物性たんぱく質や野菜、フルーツが不足していた。問題はハラペコではなく栄養失調だった。

 帰国して食べ物についていろいろと調べた。一般的に植物が持つ栄養素と動物が持つ栄養素、両方を併せ持つ生物はほとんどいない。ところがミドリムシは植物と動物の両方の性質を持つとても珍しい生き物だということが分かった。ミドリムシで栄養失調の問題が解決できると考えた。

 たとえば、当社が商品化しているミドリムシ1g(5粒)に含まれているビタミンAは、梅干し50gに入っているビタミンAと同量。牛レバー50gに含まれているビタミンB12は、ミドリムシ1gに含まれている量と同じだ。

 このほかミドリムシ1gで、イワシまるまる1匹分の葉酸、ウナギの蒲焼き50g分のDHA、アサリ50g分の亜鉛など、さまざまな動植物に含まれる栄養素59種類を摂取できる。しかも、これらの食糧を10億人に簡単に届けることは輸送や保存面でも不可能だが、ミドリムシであれば簡単に10億人に届けることができる。

 さらに、ミドリムシからできる油は飛行機に使える。原油からジェット燃料は作れるが、一般的な植物油からは飛行機の燃料は作れない。石油ではなくミドリムシで飛行機を飛ばすことができれば、日本がエネルギー輸出国になる可能性だってある。

 ところが他の人は「ミドリムシ」というと「青虫」だと思う人ばかりで話がかみ合わない。「ミドリムシ」は虫ではない。また、大量培養が難しかった。栄養満点だけど、量が足りない。研究室の実験レベルの量しか培養できず、極めてコストが高いという問題があった。

 ここで、起業を志す学生さんに言いたいことは、第一に仕事でも研究でも「くだらないものなんてない」ということだ。私は起業する前に銀行で働いていたが、同僚たちは札束をATMに補充する仕事や上司に頼まれたコピー仕事を「くだらない」と言ってやりたがらなかった。

 しかし、ATM補充作業は「きょうはゴトウ日(5と10がつく日)だから多めに詰めよう」「雨の平日だから少なめにしよう」など、さまざまな要素を勘案して面白く仕事をしたし、コピー作業もいかに大量のコピーを短時間にこなせるかと頭をつかってやり遂げた。

 そうすると「あいつは出来る」となり、面白い仕事、わくわくする仕事がどんどんくるようになった。仕事も会社も、くだらないと思ったらダメだ。

 「そんなミドリムシみたいなくだらない仕事なんてやめた方がいい」。起業して以降、さまざまな会社にミドリムシを売り込んできたが、会う人、会う人にそんなことを言われた。しかも当時は月給も10万円しかない。しかし、私たちは「ミドリムシ」をくだらないと考えなかった。

 忘れもしない2008年5月に500社目となる伊藤忠商事にやっと「そんなに言うなら買うよ」となった時は感無量だった。1社決まると次々に大企業が集まった。人もどんどん増えて、昨年東証マザーズに社員38人で上場できた。

 ミドリムシはくだらなくない。「くだらないと思わない」というのが出発点だ。

 もう一つ重要なのが、誰がリーダーなのかを決めなければならないということ。
漫画の主人公に例えると、1989年までは「ドラゴンボール」の主人公「孫悟空」のような人物がリーダーだった。「修行する」「強くなる」「敵を倒す」「もっと強い敵が出てくる」そうすると「修行する」「強くなる」「敵を倒す」「もっと強い敵が現れる」。
 
 これをずっと繰り返す。インフレの時代は、このような人物がリーダーだった。
しかし今、日本で必要とされているリーダーは「ワンピース」の「ルフィー」ではないか。本人が強くなって敵を倒すという話ではない。本人より遙かに優秀な料理人、航海士、剣術の使い手などを同じ仲間に巻き込んで、目的地まで一緒に行こうよという人がリーダーだと思う。

 当社も同じで、私は「ミドリムシで地球を救う」と夢を語り続ける発信する人。相手がどんなに偉くても、子どもでも、同じ真剣さで同じ内容の話をする。私より遙かに優秀な研究者、マーケティング、総務、財務の責任者とチームを組んで「地球を救う仕事」をしていると自負している。

 そこで、リーダーになりたいと思っている人に言いたい。一番を狙っている人にしか、優秀な人はついてこないということだ。例えば日本で一番高い山は富士山と誰でも答えられるが、2番目は分かりますか。あるいは3番目は。2番は南アルプスの北岳だが、一般的に北岳など誰も知らない。要は一番でなければ人はついてこない。

 ところで「私はお金がないから、一番になれるわけない」、あるいは「才能がないから」「頭が良くないから」「人脈がないから」。こう考える人がいかに多いことか。しかしお金があっても、才能があっても、頭が良くても、一番になれない人はいる。

 つまり、これらのものは「1番になる」上で必要不可欠ではない。

 では何が必要か。私が開発した法則ではないが、「たとえ、成功率が1%であったとしても」「2回挑戦したら、成功率は1.99%になる」という法則がある。3回挑戦したら、成功率は2.9701%になり、4回目は3.940399%、5回目は4.90099501%に成功率が上昇する。そして、50回挑戦すると39.4994%と成功率は3分の1に、100回挑戦したら63.3968%と成功率は3分の2になる。

 ここからが今日私が一番皆さんに言いたいことです。

 私も伊藤忠さんに500回目で出会った。とにかく試行回数を増やす。何回もやるということが、一番になるかならないかの最大の分かれ目だ。あの京都大学の山中伸弥先生も同じことを言っている。皆さんも山中先生も私も同じ人間。違うのは何回やったかだ。

 私には2018年までにミドリムシをつかったジェット燃料で羽田から石垣島行きの旅客機に乗る夢がある。成功するまで500回でも1000回でも挑戦するつもりだ。皆さんも目標に向かって、458回でやめないよう挑戦し続けてほしい。
2013年07月04日「キャンパスベンチャーグランプリ東京」10周年記念セミナーより
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
出雲さんと会うといつも元気になる。この話は講演で聞いた人も多いと思う。それでも繰り返し話すのは、出雲さんが本気で信じているからだろう。500社目に伊藤忠からオッケーが出たのは偶然ではない。

編集部のおすすめ