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「みずほ」のガバナンス改革は進むか!?佐藤社長が期待するあの社外取締役

日立で取締役会改革を積極的に取り組んだ川村前会長。そして日立は?
 「ガバナンス面は完成した。現場では他のことに煩わされないで収益を高めるムードが高まっている」。みずほフィナンシャルグループ(FG)が2014年6月に委員会設置会社に移行して1年。15日、社長の佐藤康博は決算会見の席上で改革の手応えを示した。

 【異例の決断】
 現在最終年度を迎えた3カ年の中期経営計画の策定段階からガバナンス体制の強化は佐藤の視野に入っていた。だが、背中を押したのは皮肉にも反社会的勢力への融資問題だ。13年に金融庁から2度にわたる行政処分を受けたことで、結果的にメガバンクの中で最も早く委員会設置会社に移行することを決めた。

 当時、異例の決断が話題を呼んだ。指名委員会と報酬委員会は全員社外取締役で構成する。佐藤は「私の首は彼らに預けているということ。ここまでの覚悟を持たないと、みずほが旧3行時代から引きずっているイメージを払拭できない」と不退転の覚悟を示した。

 【人選こだわる】
 「銀行は特殊な業界。銀行経験者でなければ業務がわからない」。競合他社からはこうした指摘も少なくなかったが、社外の意見を取り入れ、規制業種にありがちな「ムラの論理」にとらわれない発想を吹き込むことを佐藤は狙った。
 
 社外取締役の人選にはこだわった。元経済財政政策担当大臣の大田弘子、元昭和電工会長の大橋光夫、そして佐藤が三顧の礼で迎えた、元日立製作所会長の川村隆。「川村さんは歯に衣を着せない発言をする」(みずほ関係者)。日立を瀕死(ひんし)の状況から電機業界の“優等生”に復活させた川村への佐藤の期待は大きい。

 組織を見直すことで取締役会は一変する。「これまでは海外で支店を開くのにも取締役会の決議が必要だったが(そうした執行に近い話は外して)、今後のみずほのあり方など大きな課題を侃々諤々(かんかんがくがく)に議論している」。
 
 【組織に新風】
 3メガの中では三菱UFJフィナンシャル・グループ三井住友フィナンシャルグループと収益面で差をつけられている。追う立場のみずほは先行する2メガと差別化して、どこに向かうのか。「近視眼的に収益を追うことでみずほの信頼が高まるのか。収益力を高める必要はあるが、数値が目的化するのはおかしいという議論もある」(佐藤)。ガバナンスの変化は組織に新風を確実に吹き込む。
 
 執行ラインへの権限委譲により「計画に対する強いコミットメントと緊張感が高まっている」と佐藤は現場の変化を強調する。役員報酬制度も改定し、変動報酬の比率を高めた体系を導入する。「ガバナンスが完成した」今、来年度から始まる新中期経営計画で佐藤は「みずほの未来」を果たしてどう描くのか。(敬称略)
 
 そしてその日立のガバナンスは機能しているか

 日立製作所の基本理念に“和”の1字がある。結束と相互理解を大切にする創業時の精神で、実に日立らしい考え方だ。ただ、この理念は今の取締役会では通用しない。月並みな計画や成果が報告されると、外国人取締役が猛然と異議を唱え、和の弊害とも言うべき“なれ合い”を打破する。

 【国際的な目線】
 最近、中西宏明会長兼最高経営責任者(CEO)ら経営陣3人は外国人取締役から、こんな指摘を受けた。「情報通信の世界は大きく変化し、巨大企業が減収減益に陥っている。日立はどう対処しているのか」。

 中西は一瞬、たじろいだ。グローバル企業の経営陣は意見を主張し合い、周囲を説き伏せるのが一般的だ。外国人取締役の感覚からすると、中西の回答に対し残る2人が追従することは許されない。主体性に乏しい人物と判断され、問題視される恐れもあるからだ。

 中西は言う。「外国人は『借り物の意見では本当のリーダーシップは生まれない』と考えている。この時は幸いにして3人の意見が異なっていた」。外国人取締役は国際的な目線で問題を提起すると同時に、経営者の資質にも目を光らせ、強いリーダーを育てる。

 日本流経営の代表格だった日立。東京電力やNTTグループの設備投資に依存し、国内市場だけで稼げた時代が長く続いた。その日立がなぜ外国人取締役を取り入れることになったのか。

 【取締役会が一変】
 転機は2009年。国内製造業で過去最大の当期赤字を計上し、瀕死(ひんし)の重傷を負った。生き残るには海外に活路を求めるしかない。それには国際競争で戦い抜いた外国人経営者の知恵が不可欠だった。

 「経営を革新するため、必要以上に多様性を取り入れた」。会長兼社長に緊急登板した川村隆(現相談役)は当時をこう振り返る。取締役会は一変した。特に俎上(そじょう)に上がったのが利益水準の低さだ。日立は11年度から全社的なコスト削減活動に注力し利益創出に努めたが、営業利益率は5%前後にとどまった。「活動で利益率は上がったのか」―。米3MでCEOを務めたジョージ・バックリーは愚直な改善活動への評価ではなく、明白な成果を求めた。

 ライバルの米ゼネラル・エレクトリック(GE)は2ケタの利益率をたたき出す。外国人取締役は海外勢に劣る収益力に疑問を呈し、中西らが回答に窮する場面も出てきた。「日本人だけだと紳士的な会議だったが、外国人が加わり議論が伯仲するようになった」。中西は手放しで喜ぶ。

 【和の理念】
 激論を交わす取締役会で、じっと耳を傾けている人物がいる。社長兼最高執行責任者(COO)の東原敏昭だ。いずれ中西が一線から退けば、東原の時代が来る。「川村相談役が言うラストマン(最終責任者)の意味が分かってきた」。こんなことを漏らすようにもなった。外国人取締役が求める高い目標は、東原が負うことになる。

 目標を達成するにはどうすれば良いか。成長速度を上げたい外国人取締役の考えと、末端の従業員の意識を一つにまとめるしかない。まさに和の理念だ。国際競争を戦い抜く意識をみなに共有させることが、次のラストマンの責務になる。(敬称略)

 日刊工業新聞では現在、「ガバナンス改革・企業の選択」を連載中
日刊工業新聞2015年05月12日/22日 1面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
取締役の最重要テーマは何か。経営トップを決めることである。その点において日立でも、まだ社外も含め取締役会の意見が尊重されるわけではない。東原氏を社長に昇格させる時も、川村さんと中西さんが2人で相談して決めて、取締役会が追認した格好だ。それでも1年前から東原さんを含め3人の候補を、社外取締役の人たちに、「この中から選びますから」と事実上宣言していた点がかなりの進歩である。米国のように外部からプロ経営者を連れてくるようなことは、日本でほとんどないし、これからも馴染まないだろう。その中で、取締役会が経営トップの人事にどこまで、どういう形で関与していくかは、日本企業のガバナンス改革の大きなポイントになる。

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