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東芝、原発特損でメモリー事業の分社・上場論も

設備投資で手を抜けばシェア争いに敗れる
東芝、原発特損でメモリー事業の分社・上場論も

右から綱川社長、平田政善代表執行役専務、畠澤守執行役常務

  東芝の経営再建が暗礁に乗り上げている。米国の原子力発電設備事業に関連して数千億円規模の減損損失を計上する可能性があると27日発表した。19日には東京証券取引所から特設注意市場銘柄の指定期間延長の決定を受けたばかり。市場からの資金調達が事実上できない状態が続いており、財務健全化への道は遠い。悪影響は半導体メモリー事業にも広がる。設備投資を継続できなければ競争力を失いかねない。

 原発設備事業での巨額損失は、好調な半導体事業の先行きも曇らせそうだ。半導体事業は主力のメモリーが好調で、17年3月期の業績予想を上期で3回、通期で1回、上方修正した際の立役者だ。

 最大市場であるスマートフォンの大容量化や、クラウド利用の増加によるデータセンター向け、フィンテック(金融とITの融合)など新分野の伸長が、メモリー需要を押し上げている。好調な環境は17年度上期までは続く見通しで、「賭ければ勝利が確実な市場」(半導体装置メーカー首脳)との声がある。

 一方、両翼の片方であるはずの原子力事業は、これまでと今回の相次ぐ減損で、経営の柱たりえない状況が鮮明になった。16年4―9月期の全社の営業利益率が3・7%なのに対し、半導体事業の利益率は9・8%。半導体の利益が全社の底上げに使われているのが実情だ。東芝幹部は「好調なメモリー事業は今や東芝の中心になっている」と漏らす。
              


 東芝はNAND型フラッシュメモリー市場で、韓国サムスン電子に次ぐ2位につけている。両社は現在、大容量化など性能向上が可能な3次元構造NAND(3DNAND)で設備投資を加速しており、手を抜けばシェア争いに敗れてしまう。

 NANDにおける3D製品の生産比率を17年度に50%まで引き上げるほか、量産を始める48層品に加え、17年に64層品の量産も視野に入れる。17年度は新たな製造棟の着工も予定。集中投資で一気呵成(かせい)に競争優位性を高める。

 先行するサムスンは14年に量産を開始。市場で現状9割以上のシェアを握る。メモリーの最大の武器となるコスト競争力でも、一段優位な立場だ。しかし東芝で半導体事業を統括する成毛康雄副社長は「遅れは半年程度ではないか」と、追い上げに自信をみせる。

 その根拠の一つが、積み上げてきた生産技術力。「どうすれば歩留まりが上がるのかがつかめてきている」(成毛副社長)。15年からは人工知能(AI)技術を四日市工場に導入し、ビッグデータを活用した歩留まり改善を実施。一定の成果が見えてきた。調査会社IHSテクノロジーの南川明主席アナリストは「大規模工場では世界でもほぼ初めての取り組み。うまくいけば立ち上げ期間を相当短縮できる」と評価する。

 ただサムスンも増産投資を積極化させている。17年までに2兆円超を投じ、京畿道華城工場や京畿道平沢工場で3D構造NANDの生産ライン新設を計画。矢継ぎ早に手を打つ。

 東芝は生産面で協業する米ウエスタンデジタルとの合計で、18年までに約1兆4000億円を投資する計画を打ち出した。しかし東芝本体の財務が脆弱(ぜいじゃく)な今、原発設備事業がより悪化すれば、投資もままならない状況に陥るだろう。

 そこで現実味を帯びるのが、メモリー事業の分社、上場論だ。とはいえ稼ぎ頭が抜けてしまえば、東芝本体が存続できない。分社して半導体メモリー市場で勝ち抜く道を取るのか、東芝の稼ぎ頭として残るのか。判断の日は近い。
7月に完成した東芝四日市工場(三重県四日市市)の新棟

            

日刊工業新聞2016年12月28日「深層断面」の記事に加筆・修正
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
もうポートフォリオうんぬんではなく、今の「東芝」という会社の形、ガバナンスは大きく変わらざるを得ない。原発も他社との再編の動きが加速する。

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