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消防車の電動化「車両単独ではなくシステムの防災体制が必要に」

モリタ会長インタビュー「プロとして考えないといけない」
消防車の電動化「車両単独ではなくシステムの防災体制が必要に」

近未来型消防車をイメージした「Habot―mini(ハボットミニ)」

 消防車国内最大手モリタホールディングスが従来のアジア中心ではなく、世界市場を見据えた海外事業展開に舵(かじ)を切った。年初に買収したフィンランド消防車大手ブロント・スカイリフトを通じ、世界でモリタのはしご車を拡販。2018年度までの3カ年計画は成熟市場の国内はシェアアップし、海外はシナジー創出で大きく飛躍する計画。中島正博会長に展望を聞いた。
            


 ―ブロント買収の狙いは何ですか。
 「消防車に限らず当社の事業は成熟市場の国内が主体だ。海外はアジア中心になっていたが、今回の買収が大きなステップになる。ブロントの高所消火・救助向け消防車はブームを用いる。当社が手がけるはしご車とは構造が全く異なる。それぞれに特徴があり、消防戦術にも大きく影響する。先進国でのバッティングはないが、新興国は混在していて両方持つことが強みとなる」

 ―ブロントの販売ネットワークをどう生かしますか。
 「バス製造が起点のブロントはいくつかの変遷を経て、高所作業車を応用したブームタイプの消防車を80年代に投入した。今はブームを使った消防車と高所作業車を手がけ、欧米・アジアやアフリカ、オセアニアに販路を持つ。この販路を使い、中東・アフリカでモリタのはしご車を複合的に拡販する。日本から輸出する」

 ―はしご車以外で協業する分野は。
 「ブロントは消防車に載せるポンプを他社から調達している。今後、モリタのポンプで欧州規格を取得し、供給する方針だ。海外向けはしご車には外資系シャシーが必要。中国向けなどですでに扱うほか、ブロント経由の調達も可能だ。中国には両社にそれぞれ販路があり、すみ分ける」

 ―消火器や自動消火設備などの施策は。
 「日本で伸ばす。消火設備が無い施設はまだまだ多いが、設置意識が高まっている。消火性能に優れた独自の自動消火設備は伸びている。消火器市場は近年、年500万―550万本市場にまで戻ってきた。偵察用ドローンなども扱っている」

 ―車両の電動化、自動運転の流れは消防車にも影響しますか。
 「電動の消防車も将来は出てくると思う。多様な災害へ対処するため、持続的に動力が確保できるかなどがポイント。シャシーメーカーと一緒にどこまで新しい提案ができるのか、プロとして考えないといけない。塵芥(じんかい)車だと静かで渋滞のない夜中に走れることが利点だが、消防車のメリットはつかみ切れていない。将来は車両単独の機能ではなく、システムとして動く防災体制が必要になると考える」
(聞き手=大阪・松中康雄)
日刊工業新聞2016年12月22日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
世界では日米独などがはしご車、北欧はブームが多く、欧州や中国、新興国は両タイプ混在状態。ブロントはブームタイプで世界トップ。はしご車は高機能・高性能で、ブームは低価格と伸ばせる高さで勝る。はしご車で競合の独マギルスにブームはなく、独メッツはブーム車をOEM調達しており、ブロント買収は有効な一手。国や自治体相手の受注活動は年単位の時間が必要。世界展開は17年から本格化するため、18年度の成果に注目だ。 (日刊工業新聞大阪支社・松中康雄)

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