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鉱山機械の買収が相次いだ1年。締めは日立建機が276億円で

「顧客の期待はコストに向いている」(辻本社長)
鉱山機械の買収が相次いだ1年。締めは日立建機が276億円で

会見する日立建機の辻本社長

 日立建機は21日、鉱山機械向けサービス事業を展開する米H―Eパーツ(デラウェア州)を2億4000万ドル(約276億円)で買収すると発表した。豪州や米国で保守サービス事業を拡大する。資源価格の低迷で鉱山機械の需要の冷え込みが続いている。鉱山機械の消耗部品を提供する豪ブラッドケンのTOB(株式公開買い付け)も実施していて、買収で同事業の高収益化を進める。

 同日都内で会見した辻本雄一社長は「顧客の期待はコストに向いている」とし、鉱山機械や建設機械をより長期利用するための保守サービスの需要が高まるとの見方を示した。H―Eパーツの顧客基盤を共有して相乗効果を創出する。

 H―Eパーツのサービス網を活用して、長期の稼働機を取り込み、鉱山機械用部品の取り扱いの拡充も見込む。鉱山機械市場は厳しいが、中長期的には回復する見通しで事業体制を強化する。また同社の営業利益率が日立建機よりも高く、今後10%台に乗るとみており、利益面の改善につなげる。

 H―Eパーツは鉱山機械向け保守サービスが売上高の約6割を占める。地域別の売上高では豪州が約4割、米国が約3割を占める。

日刊工業新聞2016年12月22日



コマツ、米キャタピラーと匹敵へ


コマツはジョイ・グローバルを買収(大橋コマツ社長㊧)

コマツはジョイ・グローバルの買収=左が大橋社長)

 コマツと日立建機が鉱山機械市場の回復を見据えて布石を打った。コマツが鉱山機械メーカーの米ジョイ・グローバルを、日立建機は鉱山機械の消耗部品を提供する豪ブラッドケンをそれぞれ買収する。資源価格の下落に伴って鉱山機械も低調な需要が続く状況だが、成長に向けた投資を決断した。利益率の高い部品・サービス事業を拡大できることに、買収の“うまみ”がある。

 コマツにとっては鉱山機械事業を米キャタピラーと同規模に拡大する買収だ。大橋徹二社長は顧客目線を徹底して重視し、事業規模に対する意欲を口にしないが、ジョイの収益構造は魅力だ。

 ジョイの売上高のうち、同事業が76%も占める。鉱山機械が思うように売れなくても、安定してキャッシュフローを生み出せる。両社の鉱山機械の品ぞろえが補完関係を築けることも大きい。

 一方、日立建機はブラッドケンを傘下に収めることで、今後5年間の売上高で約200億円の相乗効果を創出することを狙う。自社の販売網を通じてブラッドケンの部品を提供するとともに、稼働機のデータも共有してブラッドケンの事業を拡大する。

 辻本雄一社長は「鉱山機械の需要は非常に低迷しているが、中長期的に成長する」との見方を示す。鉱山機械の部品・サービスの営業利益率が約20%と高く、買収を通じて保守サービスの需要の取り込みを強化する。

 コマツと日立建機の当面の課題が買収先の経営の立て直しだ。低調な鉱山機械市場の影響を受けて、ジョイ、ブラッドケンともに業績が落ち込んでおり、前期は当期赤字だった。

 新興国の経済成長などにより資源価格の回復が見込まれるが、鉱山機械の需要が底打ちする時期が遅れれば、両社の経営に悪影響を与える可能性がある。

 市場の先行きがなかなか見通しにくい中で攻めの一手を打った両社。買収先が進める経営改善への関与のスタンスも、買収効果を早期に引き出すカギとなる。
(文=孝志勇輔)

日刊工業新聞2016年12月14日


明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
日立グループの視点から言えば、日立建機は悩ましい存在。収益を上げていた3、4年前も日立製作所の川村元社長は「コマツに比べいろいろ見劣りする」と話していた。一部には完全子会社化するという構想もなかったわけではないが、フロントの営業力を生かすには独立性を持たせた方がいい。ただ収益の低迷が続けば、日立グループにおけるガバナンスの見直しもありえる。

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