インタビュー連載「燃費と闘う」8年前の初回は日産、そして新シリーズも日産から
好評企画が毎年続くのは、自動車業界の歴史が燃費競争の歴史だからだ
1886年、独ダイムラーとベンツによりガソリンエンジンの原型となる内燃機関の自動車が誕生した。それから約130年、自動車産業は「燃費との闘い」の歴史でもある。日刊工業新聞では今から8年前の2007年に開発担当役員に聞く「燃費と闘う」シリーズをスタートさせ、以降、毎年、主要メーカーが登場する好評企画になっている。今年も連載が始まったが、奇しくも第1回も同じ日産自動車だった。当時と今ではさして環境車の顔ぶれは変わらない一方で、新しい潮流も出てきた。2つのインタビューを比較し、日産、そして自動車業界の燃費競争を考察する。
2007年2月8日付・山下光彦副社長インタビュー
―ハイブリッド車(HV)の自社開発を打ち出しました。日本の新燃費基準ではHVを普及させる意図も感じます。
「HVは段階的に車種を増やすつもりでいるが、10年先の環境技術を見通すのは難しい。最初は原価が高いので、商品ニーズと技術を勘案してFR(後輪駆動)の高級車から販売する」
―HVの商品化では電池技術の優位性を強調していますが。
「リチウムイオン電池はもう十数年開発をやってきた。薄型化できるラミネート型はNECさんとの協業技術(合弁会社を設立予定)。今の材料でのコスト低減は限界もあるが、構造そのものから見直す。ただ自社で技術を囲い込むとコストも下がらないので、将来は外販も考える」
―電池の大容量化でプラグインHVや電気自動車(EV)への展開も見えてきます。
「リチウムイオンは急速充電が得意でプラグインでも活用できる。やはり実用化の課題はコスト。例えば『マーチ』クラスで200キロメートル走行できるEVは値段が相当高くなる。今、首都圏のドライバーの平均走行距離は1日18キロメートル以下。20キロメートルのEVは地域間のコミューター用途としてありえるが、クルマの楽しみはそれだけではない。EVとプラグインHVの用途も別だと考えている」
―プラグインHVの開発は、トヨタ自動車のようなEVモードを組み合わせたパラレル方式ですか。
「システムの簡単さからいえばそうだろう。EVが主体のプラグインHVは開発に時間がかかる」
―燃料電池車(FCV)の研究開発では仏ルノーと共同で過去5年間で約850億円投資しました。次の投資計画は。
「開発は出遅れたがキャッチアップできたと思う。車両単体の性能や耐久性などは今の内燃機関の自動車の7―8割ぐらいのレベルにきた。(次の投資は)微妙な時期。今後は水素インフラ整備など1社では相撲をとれない段階になってくる」
―2009年に適応される米カリフォルニア州のZEV(排出ガスゼロ車)への選択肢は。
「EVとFCVの二つを考えている。日産の販売台数ならFCVで約200台。200台なら社用車でもいい。CARB(加州大気資源局)が車種の台数をどうカウントするかだが、EVで10倍売る必要があればそれはかなり難しい。まだ折衝中で明確になっていないが、プラグインHVも認められる可能性もある」
―米でディーゼル車は普及しますか。
「米のHVユーザーからは長距離運転であまり燃費効果がないという声を聞く。トルク性能も高く、意外とすぐに先入観を変えられるかもしれない。バイオ燃料のようにインフラも地域を限定すれば問題はない」
(聞き手=明豊)
2015年5月22日付・平井俊弘常務執行役員インタビュー
―環境戦略の基本は。
「電気自動車(EV)と低燃費車の普及が環境戦略の大方針だ。EVを軸とした戦略はぶれずに進め、従来のエンジンは『ダウンサイジングターボ』、電動車両はハイブリッド車(HV)に力を入れる。メーカーの押しつけではなく客に価値を提供して普及させる」
―従来エンジンの開発アプローチは。
「ダウンサイジングターボで小排気量にすることをベースに燃焼自体の効率も上げる。最新成果を商品化第1弾として昨年一部改良したSUV『ジューク』に盛り込んだ。地道な取り組みだが、熱効率40%以上を目指し改良を進めている」
―EVは電池がカギを握ります。
「航続距離400キロメートルを視野に入れた電池の開発が着実に進んでいる。電池の革新とインフラの整備でEVは確実に普及する。パワー半導体の開発も進めインバーターの改良も進めている」
―HVで競合に後れをとっています。
「SUV『エクストレイル』のHVに搭載した1モーター2クラッチ方式を柱に普及する。ミニバン『セレナ』に搭載したマイクロハイブリッドシステムも進化させる。システムが小さいため車体の骨格を変える必要がなくスペースも広くとれる。普及という点ではこちらの方が勢いがある」
―新タイプのHVは。
「日産の強みはEV技術だ。EVの構成要素である電池とモーターとインバーターの技術がある。だからHVでも選択肢に幅ができる。例えば『レンジエクステンダー』や『シリーズ式ハイブリッド』のようにエンジンで発電した電力を使ってモーターで駆動するタイプでは競争力のあるシステムができる。HVは日本を除き普及していない。“EVライク”な価値を付加してHVを世界で普及させる」
―アライアンスも活用しています。
「地域に固有な環境技術はアライアンスを使う。例えばディーゼルエンジンはルノーと連携し、ディーゼル主流の欧州では日本車の中でも競争力がある。日産の自前の技術はEVでありガソリンエンジンでありHVだ。そこは自前で磨きをかける」
【記者の目/2強猛追、自信の表れ】
日本では人気のHVだが海外でなかなか普及しない。その現状を日産が打開するという姿勢をみせたのは正直意外だった。日産はEVに傾斜し、HVでトヨタ自動車やホンダに後れをとった。HV2強ですら海外の普及で苦戦している。2強に追いつくだけでなく自らがHVの海外への扉を開くという。相当の自信の表れだろう。EVライクなHVが見物だ。
(聞き手=池田勝敏)
2007年2月8日付・山下光彦副社長インタビュー
―ハイブリッド車(HV)の自社開発を打ち出しました。日本の新燃費基準ではHVを普及させる意図も感じます。
「HVは段階的に車種を増やすつもりでいるが、10年先の環境技術を見通すのは難しい。最初は原価が高いので、商品ニーズと技術を勘案してFR(後輪駆動)の高級車から販売する」
―HVの商品化では電池技術の優位性を強調していますが。
「リチウムイオン電池はもう十数年開発をやってきた。薄型化できるラミネート型はNECさんとの協業技術(合弁会社を設立予定)。今の材料でのコスト低減は限界もあるが、構造そのものから見直す。ただ自社で技術を囲い込むとコストも下がらないので、将来は外販も考える」
―電池の大容量化でプラグインHVや電気自動車(EV)への展開も見えてきます。
「リチウムイオンは急速充電が得意でプラグインでも活用できる。やはり実用化の課題はコスト。例えば『マーチ』クラスで200キロメートル走行できるEVは値段が相当高くなる。今、首都圏のドライバーの平均走行距離は1日18キロメートル以下。20キロメートルのEVは地域間のコミューター用途としてありえるが、クルマの楽しみはそれだけではない。EVとプラグインHVの用途も別だと考えている」
―プラグインHVの開発は、トヨタ自動車のようなEVモードを組み合わせたパラレル方式ですか。
「システムの簡単さからいえばそうだろう。EVが主体のプラグインHVは開発に時間がかかる」
―燃料電池車(FCV)の研究開発では仏ルノーと共同で過去5年間で約850億円投資しました。次の投資計画は。
「開発は出遅れたがキャッチアップできたと思う。車両単体の性能や耐久性などは今の内燃機関の自動車の7―8割ぐらいのレベルにきた。(次の投資は)微妙な時期。今後は水素インフラ整備など1社では相撲をとれない段階になってくる」
―2009年に適応される米カリフォルニア州のZEV(排出ガスゼロ車)への選択肢は。
「EVとFCVの二つを考えている。日産の販売台数ならFCVで約200台。200台なら社用車でもいい。CARB(加州大気資源局)が車種の台数をどうカウントするかだが、EVで10倍売る必要があればそれはかなり難しい。まだ折衝中で明確になっていないが、プラグインHVも認められる可能性もある」
―米でディーゼル車は普及しますか。
「米のHVユーザーからは長距離運転であまり燃費効果がないという声を聞く。トルク性能も高く、意外とすぐに先入観を変えられるかもしれない。バイオ燃料のようにインフラも地域を限定すれば問題はない」
(聞き手=明豊)
2015年5月22日付・平井俊弘常務執行役員インタビュー
―環境戦略の基本は。
「電気自動車(EV)と低燃費車の普及が環境戦略の大方針だ。EVを軸とした戦略はぶれずに進め、従来のエンジンは『ダウンサイジングターボ』、電動車両はハイブリッド車(HV)に力を入れる。メーカーの押しつけではなく客に価値を提供して普及させる」
―従来エンジンの開発アプローチは。
「ダウンサイジングターボで小排気量にすることをベースに燃焼自体の効率も上げる。最新成果を商品化第1弾として昨年一部改良したSUV『ジューク』に盛り込んだ。地道な取り組みだが、熱効率40%以上を目指し改良を進めている」
―EVは電池がカギを握ります。
「航続距離400キロメートルを視野に入れた電池の開発が着実に進んでいる。電池の革新とインフラの整備でEVは確実に普及する。パワー半導体の開発も進めインバーターの改良も進めている」
―HVで競合に後れをとっています。
「SUV『エクストレイル』のHVに搭載した1モーター2クラッチ方式を柱に普及する。ミニバン『セレナ』に搭載したマイクロハイブリッドシステムも進化させる。システムが小さいため車体の骨格を変える必要がなくスペースも広くとれる。普及という点ではこちらの方が勢いがある」
―新タイプのHVは。
「日産の強みはEV技術だ。EVの構成要素である電池とモーターとインバーターの技術がある。だからHVでも選択肢に幅ができる。例えば『レンジエクステンダー』や『シリーズ式ハイブリッド』のようにエンジンで発電した電力を使ってモーターで駆動するタイプでは競争力のあるシステムができる。HVは日本を除き普及していない。“EVライク”な価値を付加してHVを世界で普及させる」
―アライアンスも活用しています。
「地域に固有な環境技術はアライアンスを使う。例えばディーゼルエンジンはルノーと連携し、ディーゼル主流の欧州では日本車の中でも競争力がある。日産の自前の技術はEVでありガソリンエンジンでありHVだ。そこは自前で磨きをかける」
【記者の目/2強猛追、自信の表れ】
日本では人気のHVだが海外でなかなか普及しない。その現状を日産が打開するという姿勢をみせたのは正直意外だった。日産はEVに傾斜し、HVでトヨタ自動車やホンダに後れをとった。HV2強ですら海外の普及で苦戦している。2強に追いつくだけでなく自らがHVの海外への扉を開くという。相当の自信の表れだろう。EVライクなHVが見物だ。
(聞き手=池田勝敏)