「投資先から評価得る努力が必要」(三菱商事社長)
垣内威彦氏インタビュー。個々の会社の成長第一に
投資先の収益力を最大限引き出すため、事業投資から「事業経営」にかじを切った三菱商事。垣内威彦社長は「投資先の価値を高めてより良い会社にすること」が欠かせないと話す。垣内社長に、同社が進む今後の針路を聞いた。
―「事業経営」という言葉を戦略の一つに掲げた狙いは。
「従来の事業投資は、原料や製品の仲介取引(トレード)を主な目的に行っていた。しかし、持続的に事業を成長させていくには、投資先の価値を高めてより良い会社にすることが重要となっており、当社にはその機能が強く求められている。今後5年、10年先を見通しても、その流れはより強くなるだろう。そこで、個々の会社の成長を第一に考える方針を決めた」
―事業経営を進める上で重要な点は。
「出資先の会社が抱える経営課題を、どれだけサポートできるかという能力が問われる。当社は、投資先が時代に応じて抱える課題について、いろいろな回答を出せる会社でありたい。そのヒントや答えは、経営に携わることで見えてくる。それを実践するためには、謙虚な姿勢を持って経営に取り組み、投資先から課題解決に貢献できる評価を得る努力が必要だ」
―2017年2月をめどにローソンを子会社化します。
「コンビニエンスストアはBツーC(対消費者)ビジネスの最先端にいる業態で、消費経済に伴うすべてのモノを扱える。当社が子会社化してローソンと共同歩調をとり、物流システムの強化や新規サービス投入を加速することで、ローソンの一層の成長を実現できる」
―具体的には。
「ローソンの海外展開をはじめ、地方のスーパーマーケットとの提携拡大やヘルスケアサービスの強化などでサポートできる。コンビニは物流の観点で十分な拠点を持っており、店舗を起点にさまざまなサービスを提供できる可能性を持っている」
―ローソンとミニストップが経営統合するとの観測もあります。
「当社としては、店舗数の拡大だけを目的とする統合に興味はない。それよりも、ローソン店舗の機能を進化させていくことに力を注ぐ」
―三菱自動車が日産自動車の傘下となりました。今後の三菱自との事業への影響をどう見ていますか。
「三菱自動車とは、アジアを中心に製造や販売を担っているが、今後も基本的に変化はないだろう。カルロス・ゴーン会長(日産社長)も、三菱自動車は彼らのマネジメントを貫徹してほしいと強く言っている。三菱自動車への出資比率を高める予定はなく、今後も人材の派遣などを含めて従来同様に全力でサポートしていく」
(聞き手=土井俊)
ノルウェーのサケ養殖会社セルマックに1500億円、シンガポールの農産物商社オラムに1300億円―。
三菱商事は2014―15年、食品原料分野で相次いで1000億円以上の巨額投資に踏み切った。背景には、世界の食料需要に対する調達力の強化に加えて、社会・環境に配慮したサステナビリティー(持続可能性)を伴った原料供給という、“量”と“質”の両面を追求する狙いがある。
「経済価値と社会価値、環境価値を含めた三位一体でビジネスモデルを追求する覚悟が、当社のミッションの中核を成している」。常務執行役員兼生活産業グループ最高経営責任者(CEO)の京谷裕は、サステナビリティーの取り組みの重要性を強調する。
食品に対する消費者のニーズが多様化する中、生産者による環境保護や食の安心・安全への対応を求める動きが広がっている。
三菱商事は1969年に鶏肉生産会社を設立以降、自ら食肉生産に携わることで安全な原料調達を進めてきた。今回の出資を通じて畜産分野と同様の取り組みを、水産・農産品にも広げる格好だ。
セルマックはサケ生産量で世界3位、オラムはナッツやコーヒーなどの主要取扱品で世界1―3位のシェアを持ち、各業界でトップクラスの企業だ。
また、サステナビリティーの取り組みについても「業界の中で先進的」(京谷)とされる。例えば、オラムは原料調達地のアフリカで、農家に肥料や農薬を提供し、安心・安全を担保した高品質な作物を生産してもらう取引方式により、他社製品との差別化に成功している。
ただ、両社は生産に秀でる一方で、「いかに高く売るかが弱い」(同)ことが課題だ。そこで三菱商事は、自社の日本やアジアの販売網とコンビニエンスストアのローソンといった小売り事業の基盤を活用して、両社の販売力強化を支援する。両社の商品を「(小売り業者などの)消費者に近い分野に売る」(同)ことで、消費者が求める商品の開発と販売拡大につなげる。
商社の食品原料事業は、従来の調達から加工、生産へと時代のニーズに応じて領域を拡大してきた。それは、原料の安定供給に対して商社の責任範囲が広がっている結果であり、京谷は「終わりなきゴール」と表現する。
多様化する消費者ニーズに応えつつ、自社の機能を進化させることで、今後もゴールに向かって走り続ける。
(敬称略)
―「事業経営」という言葉を戦略の一つに掲げた狙いは。
「従来の事業投資は、原料や製品の仲介取引(トレード)を主な目的に行っていた。しかし、持続的に事業を成長させていくには、投資先の価値を高めてより良い会社にすることが重要となっており、当社にはその機能が強く求められている。今後5年、10年先を見通しても、その流れはより強くなるだろう。そこで、個々の会社の成長を第一に考える方針を決めた」
―事業経営を進める上で重要な点は。
「出資先の会社が抱える経営課題を、どれだけサポートできるかという能力が問われる。当社は、投資先が時代に応じて抱える課題について、いろいろな回答を出せる会社でありたい。そのヒントや答えは、経営に携わることで見えてくる。それを実践するためには、謙虚な姿勢を持って経営に取り組み、投資先から課題解決に貢献できる評価を得る努力が必要だ」
―2017年2月をめどにローソンを子会社化します。
「コンビニエンスストアはBツーC(対消費者)ビジネスの最先端にいる業態で、消費経済に伴うすべてのモノを扱える。当社が子会社化してローソンと共同歩調をとり、物流システムの強化や新規サービス投入を加速することで、ローソンの一層の成長を実現できる」
―具体的には。
「ローソンの海外展開をはじめ、地方のスーパーマーケットとの提携拡大やヘルスケアサービスの強化などでサポートできる。コンビニは物流の観点で十分な拠点を持っており、店舗を起点にさまざまなサービスを提供できる可能性を持っている」
―ローソンとミニストップが経営統合するとの観測もあります。
「当社としては、店舗数の拡大だけを目的とする統合に興味はない。それよりも、ローソン店舗の機能を進化させていくことに力を注ぐ」
―三菱自動車が日産自動車の傘下となりました。今後の三菱自との事業への影響をどう見ていますか。
「三菱自動車とは、アジアを中心に製造や販売を担っているが、今後も基本的に変化はないだろう。カルロス・ゴーン会長(日産社長)も、三菱自動車は彼らのマネジメントを貫徹してほしいと強く言っている。三菱自動車への出資比率を高める予定はなく、今後も人材の派遣などを含めて従来同様に全力でサポートしていく」
(聞き手=土井俊)
食品原料事業で巨額投資、三位一体を追求
ノルウェーのサケ養殖会社セルマックに1500億円、シンガポールの農産物商社オラムに1300億円―。
三菱商事は2014―15年、食品原料分野で相次いで1000億円以上の巨額投資に踏み切った。背景には、世界の食料需要に対する調達力の強化に加えて、社会・環境に配慮したサステナビリティー(持続可能性)を伴った原料供給という、“量”と“質”の両面を追求する狙いがある。
「経済価値と社会価値、環境価値を含めた三位一体でビジネスモデルを追求する覚悟が、当社のミッションの中核を成している」。常務執行役員兼生活産業グループ最高経営責任者(CEO)の京谷裕は、サステナビリティーの取り組みの重要性を強調する。
食品に対する消費者のニーズが多様化する中、生産者による環境保護や食の安心・安全への対応を求める動きが広がっている。
三菱商事は1969年に鶏肉生産会社を設立以降、自ら食肉生産に携わることで安全な原料調達を進めてきた。今回の出資を通じて畜産分野と同様の取り組みを、水産・農産品にも広げる格好だ。
セルマックはサケ生産量で世界3位、オラムはナッツやコーヒーなどの主要取扱品で世界1―3位のシェアを持ち、各業界でトップクラスの企業だ。
また、サステナビリティーの取り組みについても「業界の中で先進的」(京谷)とされる。例えば、オラムは原料調達地のアフリカで、農家に肥料や農薬を提供し、安心・安全を担保した高品質な作物を生産してもらう取引方式により、他社製品との差別化に成功している。
ただ、両社は生産に秀でる一方で、「いかに高く売るかが弱い」(同)ことが課題だ。そこで三菱商事は、自社の日本やアジアの販売網とコンビニエンスストアのローソンといった小売り事業の基盤を活用して、両社の販売力強化を支援する。両社の商品を「(小売り業者などの)消費者に近い分野に売る」(同)ことで、消費者が求める商品の開発と販売拡大につなげる。
商社の食品原料事業は、従来の調達から加工、生産へと時代のニーズに応じて領域を拡大してきた。それは、原料の安定供給に対して商社の責任範囲が広がっている結果であり、京谷は「終わりなきゴール」と表現する。
多様化する消費者ニーズに応えつつ、自社の機能を進化させることで、今後もゴールに向かって走り続ける。
(敬称略)
日刊工業新聞2016年12/6日/16日「挑戦する企業・三菱商事編」より