権威の正体と権威の交代。DeNA「ウェルク」問題から見えてくること
インターネットの問題ではなく、社会の権威構造の変化が生み出した
世の中にはさまざまな権威が存在しています。権威を辞書で調べると「他の者を服従させる力」とあり、これら様々な権威に共通していることは「誰かを評価し選ぶ立場」であることです。
例えば、東京大学は非常に大きな権威ですが、その東京大学には毎年多くの高校生が受験をします。またノーベル賞も世界最高峰の権威ですが、ノーベル賞の検討委員会は全世界から研究者なり、政治家なり、小説家なり、アーティストを評価し選びます。そして、選ばれた人はめちゃくちゃ喜び、国をあげて祝福するわけです。
また、IOC(国際オリンピック委員会)も世界的な権威の一つです。IOCは開催都市を「評価し選ぶ立場」にある機関だからです。開催都市に選ばれれば大きな利益がある(と少なくとも昔は思われていた)からこそ、立候補した都市だけでなくその国までも招致活動を行うわけで、IOCに選ばれるために各都市は様々な努力が必要です。
東京オリンピックにおいてはIOCの委員に多額の賄賂が渡されてたり、エンブレムのデザインがパクリだったり、会場の建設費が膨大になっているなどの問題でもうグダグダになっています。
そんな中でもIOCは東京をあの手この手で支援してくれています。それは世界の各都市が「お金ばっかりかかってオリンピックやってもいいこと無いよね」と思われると、立候補する都市がなくなってしまいます。
そうすると、都市を選ぶ立場から、逆にオリンピック開催を選んでもらう立場に変わるわけです。そうなるとIOCの権威は失墜し、利権も発生しない。もちろんIOCの委員も美味しい思いができなくなる。
今回、IOCが東京大会が無事に開催されるように頑張って支援しているのは、別に東京のためでも、善意でも無く、自分たちの権威を保ち、立場を守るためなのです。(念のためですがIOC委員全員が賄賂を受け取っているとか、そういうことを言いたいわけではありません)
そして、この評価し選ぶ立場と、評価され選ばれる立場というのは時代の流れや、テクノロジーの進化により、変化することが度々おこります。例えば、高度成長期の前あたりまでは、石炭会社は大学生の人気就職先ランキングでもトップ10に入るほどの人気業界でしたし、業界の権威もそれなりにありました。
しかし今はその陰はもはやありません。それは、主力のエネルギーが石炭から石油に変わり、多くの石炭会社が苦境に追い込まれ、就職先としても取引先としても選ばなくなってしまったからです。新聞の権威が落ちてきているのは、情報をインターネットで得る人が増え、新聞が選ばれなくなってきたからです。
このように、時代の変化やテクノロジーの進歩により、評価し選ぶ側だったのが、評価され選ばれる側に変り、権威が失われることが度々起こります。
グーグルは世界的にも権威をもつ組織になりました。少なくともインターネット業界で最も権威を持つ組織と言っても過言ではありません。それはグーグルが世界中のWEBサイトを「評価し選ぶ立場」であるからです。
検索したときに自分のサイトがどこに表示されるかは大きな問題です。ましてWEBサービスを展開している企業にとって、グーグルにどう評価されるか(=どこに表示されるか)は死活問題となります。だからこそ、DeNAが運営する「ウェルク」はグーグルに評価され選ばれるために、様々な対策を講じ、その中で行き過ぎた施策が問題となったわけです。
昔は多くの人に情報を届けようと思うとマスメディアに評価をされ取材先に選ばれる必要がありました。しかし、インターネットが発達し簡単に検索ができる時代は、WEBサービスを展開する企業にとってはマスメディアではなくグーグルに評価される必要があります。
今回のウェルクの問題はテクノロジーの進化により、権威の構造が変わりつつあり、その過程で起こった問題なのです。これは何もインターネットだから起こった問題という単純な話ではなく、権威に評価され選ばれるための努力が間違った方向でなされたことが問題なのです。
実際、まだテレビの影響力があった時代、発掘あるある大事典で納豆を題材にしたテーマでヤラセがあり、番組が打ち切りになったことがありました。そのように考えると、ウェルクはPV(ページビュー)欲しさにグーグルに評価され選ばれるために努力し、業界・企業は広告宣伝のためマスメディアに評価され選ばれるために努力をしているわけで、それらの努力が間違った方向に行くことが問題ということは共通しています。
今回のウェルクの問題はインターネットの問題ではなく、社会の権威構造の変化が生み出したことが要因で起こった新しい問題です。権威の交代が起きるとき、権威側にいた人たちは必死に守ろうとします。
マスメディアにとってインターネット界の権威であるグーグルは非常に脅威であり、情報収集の手段がインターネットの検索に置き換わると、マスメディアは選ばれにくくなり、自分たちの権威は低下します。
WEBのニュースサイトでは様々な確度から問題が掘り下げられていたのに、テレビ・新聞は「インターネットは情報が曖昧で信用できない」という方針一辺倒を貫いていたのは、マスメディアの権威を守るためには仕方ないスタンスだったのでしょう。
(文=田鹿倫基)
例えば、東京大学は非常に大きな権威ですが、その東京大学には毎年多くの高校生が受験をします。またノーベル賞も世界最高峰の権威ですが、ノーベル賞の検討委員会は全世界から研究者なり、政治家なり、小説家なり、アーティストを評価し選びます。そして、選ばれた人はめちゃくちゃ喜び、国をあげて祝福するわけです。
また、IOC(国際オリンピック委員会)も世界的な権威の一つです。IOCは開催都市を「評価し選ぶ立場」にある機関だからです。開催都市に選ばれれば大きな利益がある(と少なくとも昔は思われていた)からこそ、立候補した都市だけでなくその国までも招致活動を行うわけで、IOCに選ばれるために各都市は様々な努力が必要です。
東京オリンピックにおいてはIOCの委員に多額の賄賂が渡されてたり、エンブレムのデザインがパクリだったり、会場の建設費が膨大になっているなどの問題でもうグダグダになっています。
そんな中でもIOCは東京をあの手この手で支援してくれています。それは世界の各都市が「お金ばっかりかかってオリンピックやってもいいこと無いよね」と思われると、立候補する都市がなくなってしまいます。
そうすると、都市を選ぶ立場から、逆にオリンピック開催を選んでもらう立場に変わるわけです。そうなるとIOCの権威は失墜し、利権も発生しない。もちろんIOCの委員も美味しい思いができなくなる。
今回、IOCが東京大会が無事に開催されるように頑張って支援しているのは、別に東京のためでも、善意でも無く、自分たちの権威を保ち、立場を守るためなのです。(念のためですがIOC委員全員が賄賂を受け取っているとか、そういうことを言いたいわけではありません)
時代とともに評価し選ぶ立場は変わる
そして、この評価し選ぶ立場と、評価され選ばれる立場というのは時代の流れや、テクノロジーの進化により、変化することが度々おこります。例えば、高度成長期の前あたりまでは、石炭会社は大学生の人気就職先ランキングでもトップ10に入るほどの人気業界でしたし、業界の権威もそれなりにありました。
しかし今はその陰はもはやありません。それは、主力のエネルギーが石炭から石油に変わり、多くの石炭会社が苦境に追い込まれ、就職先としても取引先としても選ばなくなってしまったからです。新聞の権威が落ちてきているのは、情報をインターネットで得る人が増え、新聞が選ばれなくなってきたからです。
このように、時代の変化やテクノロジーの進歩により、評価し選ぶ側だったのが、評価され選ばれる側に変り、権威が失われることが度々起こります。
グーグルは世界的にも権威をもつ組織になりました。少なくともインターネット業界で最も権威を持つ組織と言っても過言ではありません。それはグーグルが世界中のWEBサイトを「評価し選ぶ立場」であるからです。
検索したときに自分のサイトがどこに表示されるかは大きな問題です。ましてWEBサービスを展開している企業にとって、グーグルにどう評価されるか(=どこに表示されるか)は死活問題となります。だからこそ、DeNAが運営する「ウェルク」はグーグルに評価され選ばれるために、様々な対策を講じ、その中で行き過ぎた施策が問題となったわけです。
昔は多くの人に情報を届けようと思うとマスメディアに評価をされ取材先に選ばれる必要がありました。しかし、インターネットが発達し簡単に検索ができる時代は、WEBサービスを展開する企業にとってはマスメディアではなくグーグルに評価される必要があります。
努力が間違った方向に
今回のウェルクの問題はテクノロジーの進化により、権威の構造が変わりつつあり、その過程で起こった問題なのです。これは何もインターネットだから起こった問題という単純な話ではなく、権威に評価され選ばれるための努力が間違った方向でなされたことが問題なのです。
実際、まだテレビの影響力があった時代、発掘あるある大事典で納豆を題材にしたテーマでヤラセがあり、番組が打ち切りになったことがありました。そのように考えると、ウェルクはPV(ページビュー)欲しさにグーグルに評価され選ばれるために努力し、業界・企業は広告宣伝のためマスメディアに評価され選ばれるために努力をしているわけで、それらの努力が間違った方向に行くことが問題ということは共通しています。
今回のウェルクの問題はインターネットの問題ではなく、社会の権威構造の変化が生み出したことが要因で起こった新しい問題です。権威の交代が起きるとき、権威側にいた人たちは必死に守ろうとします。
マスメディアにとってインターネット界の権威であるグーグルは非常に脅威であり、情報収集の手段がインターネットの検索に置き換わると、マスメディアは選ばれにくくなり、自分たちの権威は低下します。
WEBのニュースサイトでは様々な確度から問題が掘り下げられていたのに、テレビ・新聞は「インターネットは情報が曖昧で信用できない」という方針一辺倒を貫いていたのは、マスメディアの権威を守るためには仕方ないスタンスだったのでしょう。
(文=田鹿倫基)