「主要都市で最も魅力に欠ける」名古屋、観光で逆襲なるか
「産業県」のイメージが強い愛知県で観光振興の取り組みが熱を帯びてきた。きっかけは名古屋市が6月に実施した独自調査。国内主要8都市中、名古屋市は最も魅力に欠け、「市民推奨度」も低いとの結果が出た。愛知県と名古屋市はそれぞれに観光振興プロジェクトを推進している。2027年のリニア中央新幹線開業に向け、他の地域からも人を呼び込む知恵が求められる。
名古屋市は6月、国内主要8都市の住民を対象に「都市ブランド・イメージ調査」を実施した。その結果、買い物や遊びでその都市を訪問したいかという「訪問意向」で名古屋市は1・4ポイントと8都市中最下位。最も魅力に欠ける都市を一つ選ぶ質問でも名古屋市が全体の30%を集め、最上位だった。
一方、現在住む都市に訪れることを友人や知人に薦めたいかを問う「推奨度」でも名古屋市は12・2ポイントと最も低かった。調査結果を要約すれば、名古屋市は「行きたいと思わないし、住民もお薦めできない街」ということになる。
「市民からは『もう少し(名古屋を)楽しくしてちょうよ』と言われる」。河村たかし市長は現在、自身が提唱する名古屋城天守閣の木造復元に執念を燃やす。3月には竹中工務店を復元事業の優先交渉者に決定。22年7月の復元完成を目指し、市議会などと議論している。
名古屋城天守閣は1945年5月の空襲で焼失したが、戦後に再建を望む声が市民らから上がり、59年に鉄骨鉄筋コンクリートで再建された。「二度と焼失しないように」との願いが込められているのは有名な話。しかし最近ではコンクリートの耐震性能の不足も指摘されている。河村市長は「誇りになるものが必要だ」とし、木造復元を観光振興プロジェクトの目玉にしようとしている。
一方の愛知県。大村秀章知事は名古屋市の今回の調査について、「愛知県民に調査すれば違う結果になると思う。県民は愛知に誇りを持っている」と疑問を投げかける。「(愛知県は)住みやすい。歴史も伝統も、技術も産業もある」。
一方で知事も「(県民は)自分たちをアピールするのはうまくないのかな」と語り、地域の魅力を県外に強く発信することの必要性を説く。
愛知県は14年の製造品出荷額等で38年連続日本一。トヨタ自動車をはじめ自動車や航空機、工作機械など、産業の集積度では他の地域を圧倒する。その反面、観光地としての認知度は高くない。県は16年2月にまとめた「あいち観光戦略」で、「草の根の情報発信力が不足している」と分析。20年をめどに、県外からの来訪者数を14年比約3割増の5000万人に増やし、20年の観光消費額を同約4割増の1兆円に引き上げる目標だ。
今後、愛知県や名古屋市は観光地としての魅力を高められるか。県がPRに力を入れるコンテンツが「武将観光」だ。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の「三英傑」など戦国武将の約7割が愛知県にルーツがあるとされる。戦国武将のゆかりや史跡、忍者などの観光資源を生かし、周遊ルートを作る方針だ。味噌かつやひつまぶしといった「なごやめし」をはじめとする食文化のブランド化も進めたい考え。
愛知県の官公庁街や近代建築物などは映画やテレビドラマのロケ地として使われることも多く、県は「愛知県フィルムコミッション協議会」を組織している。県観光振興課の渡邉宗徳課長は「撮影支援で愛知の知名度向上につなげたい」と話している。
一方、観光客の増加に大きく寄与すると期待されるのが17年4月開業予定のテーマパーク「レゴランド」。運営会社のレゴランド・ジャパン(名古屋市港区)は年間200万人の来場者を目指しており、中部を代表する集客力を持つ施設となりそうだ。
レゴランドの立地する金城ふ頭(同港区)では、施設開業に向けた再開発が進む。市は金城ふ頭駅と名古屋駅を結ぶ鉄道「あおなみ線」(15・2キロメートル)について、レゴランド開業直前の17年3月から両駅間の直通列車を走らせる計画だ。従来は各駅停車のみで24分かかっていたが、直通列車では17分に短縮される。
このほか金城ふ頭では、歩行者デッキや商業施設の設置も計画。市住宅都市局の伊藤剛史臨海部拠点整備係長は「金城ふ頭だけでなく、市全体ににぎわいを広げたい」と話す。
27年のリニア中央新幹線開業に向けたまちづくりでは、名古屋駅の再開発に加え、市中心部の交通手段を多様化する方針だ。輸送量の多いバス車両や専用道を組み合わせ、効率的な人の輸送を目指す「バス高速輸送システム(BRT)」をベースにした新たな路面交通手段の導入を検討。16年度内に可能性を見定める。
ただ、観光政策を進める上で県と市の足並みは必ずしもそろっていない。9月上旬には26年の夏季アジア競技大会開催都市への共催立候補の準備を進める過程で大会開催費の負担割合を巡って行き違いが生じ、名古屋市が共催立候補を一時は撤回する事態となった。結局は県と市が2対1の割合で開催経費を負担すると決定、無事に開催都市にも決まったが、双方の方向性の違いが露呈した。
今後は27年にリニア中央新幹線の東京―名古屋間開業が控えるほか、45年の東京―大阪の全線開業は最大8年間前倒しされる予定。現状の「住みやすい」という評価にとどまることなく、県と市が一丸となって地域の魅力発信に力を入れる必要がありそうだ。
【愛知県トップの集客施設は意外にも…】(日刊工業新聞電子版へ)
(文=名古屋・杉本要、同・一色映里奈)
調査に衝撃、最上位
名古屋市は6月、国内主要8都市の住民を対象に「都市ブランド・イメージ調査」を実施した。その結果、買い物や遊びでその都市を訪問したいかという「訪問意向」で名古屋市は1・4ポイントと8都市中最下位。最も魅力に欠ける都市を一つ選ぶ質問でも名古屋市が全体の30%を集め、最上位だった。
一方、現在住む都市に訪れることを友人や知人に薦めたいかを問う「推奨度」でも名古屋市は12・2ポイントと最も低かった。調査結果を要約すれば、名古屋市は「行きたいと思わないし、住民もお薦めできない街」ということになる。
「市民からは『もう少し(名古屋を)楽しくしてちょうよ』と言われる」。河村たかし市長は現在、自身が提唱する名古屋城天守閣の木造復元に執念を燃やす。3月には竹中工務店を復元事業の優先交渉者に決定。22年7月の復元完成を目指し、市議会などと議論している。
名古屋城天守閣は1945年5月の空襲で焼失したが、戦後に再建を望む声が市民らから上がり、59年に鉄骨鉄筋コンクリートで再建された。「二度と焼失しないように」との願いが込められているのは有名な話。しかし最近ではコンクリートの耐震性能の不足も指摘されている。河村市長は「誇りになるものが必要だ」とし、木造復元を観光振興プロジェクトの目玉にしようとしている。
アピールするのはうまくない
一方の愛知県。大村秀章知事は名古屋市の今回の調査について、「愛知県民に調査すれば違う結果になると思う。県民は愛知に誇りを持っている」と疑問を投げかける。「(愛知県は)住みやすい。歴史も伝統も、技術も産業もある」。
一方で知事も「(県民は)自分たちをアピールするのはうまくないのかな」と語り、地域の魅力を県外に強く発信することの必要性を説く。
愛知県は14年の製造品出荷額等で38年連続日本一。トヨタ自動車をはじめ自動車や航空機、工作機械など、産業の集積度では他の地域を圧倒する。その反面、観光地としての認知度は高くない。県は16年2月にまとめた「あいち観光戦略」で、「草の根の情報発信力が不足している」と分析。20年をめどに、県外からの来訪者数を14年比約3割増の5000万人に増やし、20年の観光消費額を同約4割増の1兆円に引き上げる目標だ。
頼りは武将と食文化
今後、愛知県や名古屋市は観光地としての魅力を高められるか。県がPRに力を入れるコンテンツが「武将観光」だ。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の「三英傑」など戦国武将の約7割が愛知県にルーツがあるとされる。戦国武将のゆかりや史跡、忍者などの観光資源を生かし、周遊ルートを作る方針だ。味噌かつやひつまぶしといった「なごやめし」をはじめとする食文化のブランド化も進めたい考え。
愛知県の官公庁街や近代建築物などは映画やテレビドラマのロケ地として使われることも多く、県は「愛知県フィルムコミッション協議会」を組織している。県観光振興課の渡邉宗徳課長は「撮影支援で愛知の知名度向上につなげたい」と話している。
一方、観光客の増加に大きく寄与すると期待されるのが17年4月開業予定のテーマパーク「レゴランド」。運営会社のレゴランド・ジャパン(名古屋市港区)は年間200万人の来場者を目指しており、中部を代表する集客力を持つ施設となりそうだ。
レゴランドの立地する金城ふ頭(同港区)では、施設開業に向けた再開発が進む。市は金城ふ頭駅と名古屋駅を結ぶ鉄道「あおなみ線」(15・2キロメートル)について、レゴランド開業直前の17年3月から両駅間の直通列車を走らせる計画だ。従来は各駅停車のみで24分かかっていたが、直通列車では17分に短縮される。
このほか金城ふ頭では、歩行者デッキや商業施設の設置も計画。市住宅都市局の伊藤剛史臨海部拠点整備係長は「金城ふ頭だけでなく、市全体ににぎわいを広げたい」と話す。
27年のリニア中央新幹線開業に向けたまちづくりでは、名古屋駅の再開発に加え、市中心部の交通手段を多様化する方針だ。輸送量の多いバス車両や専用道を組み合わせ、効率的な人の輸送を目指す「バス高速輸送システム(BRT)」をベースにした新たな路面交通手段の導入を検討。16年度内に可能性を見定める。
ただ、観光政策を進める上で県と市の足並みは必ずしもそろっていない。9月上旬には26年の夏季アジア競技大会開催都市への共催立候補の準備を進める過程で大会開催費の負担割合を巡って行き違いが生じ、名古屋市が共催立候補を一時は撤回する事態となった。結局は県と市が2対1の割合で開催経費を負担すると決定、無事に開催都市にも決まったが、双方の方向性の違いが露呈した。
今後は27年にリニア中央新幹線の東京―名古屋間開業が控えるほか、45年の東京―大阪の全線開業は最大8年間前倒しされる予定。現状の「住みやすい」という評価にとどまることなく、県と市が一丸となって地域の魅力発信に力を入れる必要がありそうだ。
【愛知県トップの集客施設は意外にも…】(日刊工業新聞電子版へ)
(文=名古屋・杉本要、同・一色映里奈)
日刊工業新聞2016年12月15日