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米1年ぶりの利上げへ。ドル高、それとも円高?

トランプ政権、経済運営難しく。
 米連邦準備制度理事会(FRB)が13―14日(現地時間)の米連邦公開市場委員会(FOMC)で1年ぶりの利上げに踏み切るのが確実な情勢になっている。ドル高円安の基調が続き、輸出産業を中心に日本経済には追い風になるとの見方が支配的だ。市場の関心はすでに2017年以降に移っているが、ここにきて金融政策の行く手を阻む「トランプリスク」を懸念する声もある。

 「利上げに完全に道が開けた」と市場が受け止めたのが2日発表の米雇用統計だ。11月の非農業部門就業者は前月比17万8000人増加し、予想にほぼ一致。労働市場の需給が逼迫(ひっぱく)する中で失業率は4・6%と9年ぶりの低水準となり、民間部門の平均時給は前年同月比で2・5%上昇した。

 米利上げは政府支出の拡大や減税を中心とするトランプ米次期大統領の公約と合わせ、日本企業にとってはプラス。慎重な姿勢を崩さない企業の設備投資が活性化する環境も整う。

 一方、副作用もある。米国が利上げに踏み切れば日米金利差が拡大し、ドル高円安と同時に新興国の通貨安を招く。アジアや南米などから資金流出の懸念はくすぶる。新興国の経済減速が現実のものとなれば、新興国で事業を拡大してきた日本企業の重しになる。

 国際金融協会の調べでは新興国市場から11月だけで外国人投資家が242億ドルの資金を引き揚げた。これは13年6月以降では最大の流出額だ。

 すでに利上げ幅や来年以降の利上げペースにマーケットの材料は移っている。利上げ幅は0・25%で17年に2回、18年に3回との見方が支配的だが、景気過熱に伴い、FRBは利上げペースを速めようとする可能性が高い。

 トランプ氏が公約通り財政支出の増加に踏み切れば、需要喚起による物価上昇でFRBはインフレ抑制へ利上げせざるをえない。FOMCで投票権を持ち、利上げに慎重なニューヨーク連銀のダドリー総裁ですら「財政支出が拡大するなら、利上げペースを速めるだろう」と述べている。

 一方、利上げに伴うドル高は、米国の多国籍企業や製造業に打撃を与える恐れがある。トランプ次期政権は、米製造業の復活を掲げており、ドル高はいずれトランプ政権の難題となる。FRBとの間に摩擦も生じかねない。

 トランプ氏の基本姿勢は金融引き締めに反対で、ドル安を歓迎する。「仮に金利を上げて、ドルが過度に強くなり始めれば、非常に大きな問題をいくつか抱えることになる」と過去に発言。新政権の発足が決まったことで12月の利上げが阻止されるのではとの観測が広まったほどだ。

 新政権下ではFRBの独立性が維持されるかがすでに焦点になっている。共和党はFRB監査法案をすでに議会に提出。政府監査院にFRBの金融政策決定を監査させる目的だ。トランプ次期政権下で政府からFRBへの圧力が強まり、柔軟な金融政策を阻めば、米経済の先行き不透明感は増す。

《専門家はこう見る》



【ニッセイ基礎研究所経済研究部主任研究員・窪谷浩氏】
 12月の利上げはほぼ確実。大統領選でトランプ氏勝利後、予想外に好転している足元の金融環境も利上げを後押しするだろう。そのトランプ氏は積極財政を打ち出している。景気対策で金融政策の比重が大きかった分、財政政策が補完するような形になれば、17年はFRBも利上げを実行しやすくなるだろう。

 ただ、トランプ氏の政策は実現性で課題が多い。今後、議会との折衝でどこまで現実路線に修正されるかが懸念材料になる。さらに17年は欧州の大統領選挙など政治イベントも多い。資本市場からリスク回避の動きが連動すれば、利上げ判断が慎重になる可能性もある。

【日本総合研究所調査部主席研究員・牧田健氏】
 利上げは確実に行われる。トランプ氏の政策は選挙戦での公約段階。FRBが政策金融の見通しを変えることは現段階ではないだろう。むしろ、今回の注目点は経済見通しと金融政策の見通し、特に17年の利上げの回数がどの程度になるのかにある。

 市場は来年2回くらいの利上げがあるとの見通しを織り込み済みだが、それでも金利上昇やこれに伴う円安はリスクとしてある。為替が一時的に1ドル=115円を超える可能性はあるが、円安になっても日本企業の輸出が増える状況にはない。当面はドル高のままだが、保護主義的な政策を採れば、1ドル=100円くらいに迫るリスクはある。
日刊工業新聞2016年12月7日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
今後のメーンシナリオとしては17年前半までは米国も利上げペースを速めることなく低金利を維持していくため、緩やかな円安が続く可能性が高い。とはいえ、マーケットは単純ではない。第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストは「すでに12月利上げは織り込み済み。FOMC当日のイエレン議長の会見での先行きの見通し次第では円高に振れる可能性もある」と指摘する。その場合、影響を受けるのは日銀だ。9月に金融政策の枠組みを変更したばかりで当面は現状維持が濃厚だった。12月は企業の賃上げの行方を左右する局面だけに、市場で円高シナリオが頭をもたげれば、緩和圧力は強まる。

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