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「お~い茶畑」 伊藤園が危機感を募らせる年300ヘクタール茶園が減少する現実

茶葉需要が増えているのに産地が縮小。自ら理想的な産地作りに乗り出す
 「お〜いお茶」のブランドで知られる伊藤園は、緑茶飲料のトップメーカー。その同社が、九州を中心に茶産地育成事業に取り組んでいる。宮崎、大分、鹿児島、長崎の4県6地区で原料茶葉を育てる大規模茶園を拡大している。高齢化と後継者不足で担い手がいなくなった農地を集約し、大規模機械化茶園として運営する。
 
 茶産地育成事業による茶園面積は、契約栽培分と合わせて現在、約940ヘクタール。2015年度は1000ヘクタールに拡大する見込みだ。中長期的にはさらにこの2倍、2000ヘクタールを目指している。

 【毎年300ha減少】
 「茶産地育成事業を通じて日本農業の再生に貢献したい」。茶産地育成の新産地事業に関し、荒井昌彦農業技術部部長は語る。「茶園は毎年約300ヘクタール減少している。茶葉の需要が増えているのに産地が縮小しているため、原料を安定調達する仕組みが必要になった。そこで新しく、理想的な産地を作ることを決めた」。

 茶園減少に歯止めがかからないのは、農家の高齢化が原因だ。茶園は水田などと違って傾斜地にあることが多く、機械で省人化することが困難。農業者の高齢化が進むにつれて、全国で作り手のいなくなった耕作放棄地が増える。

 耕作放棄地の中から自治体が茶の栽培に合った農地を選び出し、土木機械を導入して、機械化メリットが生かせる大規模茶園を開発。伊藤園はその茶園造成をサポートするとともに、生産した茶葉を全量、買い取って農家に安心感を与える。茶葉生産に関する技術やノウハウも提供する。

 【18年に200haへ】
 新規茶園の面積は大分県で130ヘクタール、鹿児島県で410ヘクタールなど。大分県は臼杵、杵築、宇佐3市の大規模茶園を18年までに200ヘクタールへ増やす計画だ。他の産地でも大規模化が進む。「有休農地は点在している場合が多く、そのままでは機械化のメリットが出ない。農地中間管理機構(農地バンク)ができてからは集約がやりやすくなった」と荒井部長は話す。

 茶産地育成事業は「エコプロダクツ大賞」の、農林水産大臣賞も受賞している。地元農業生産法人を通じて、地域の雇用創出に貢献している点を評価。茶園で働く作業者はブドウなど他の作物からの転入組や、新規参入の若者も多い。ある地域では就業者の平均年齢が、一気に17歳も若返ったという。茶の栽培は野菜に比べ病虫害にかかりにくく、収穫時期も春から夏までと長いメリットもある。

 【衛星画像も利用】
 茶園でとれた茶葉は、伊藤園の「お〜いお茶 緑茶」や「お〜いお茶 濃い茶」などの看板商品に採用されている。「農家側からみれば、自分が作った茶葉が店頭で見かける商品に採用されていることで、生産の励みにもなる」と同社。茶葉品質向上のため、栽培技術の開発にも力を入れている。長崎大学などと共同で、ITを駆使した茶葉管理システムを開発。畑に特殊センサーを設置して、芽の成長度合いや色合いを検知、数値化し、人工衛星から送られる茶園全体の画像も加味して品質が最適になるよう、収穫時期を調節する。茶畑を細かく見回る手間が省けるため、栽培にかかる人件費を4分の1に大幅削減できるという。

 「大規模茶園を安定的に経営できるので後継者が育ちやすく、農業経験のない人や学生が茶作りに参加することも増えている。法人として休日がきちんと取れるようになったことも、理由の一つ」(荒井部長)。産地からも「従業員の2割が20代の若者。実力のついた者にはどんどんのれん分けしたい」などの声が出ている。伊藤園の事業は、日本農業のイメージも変えようとしている。
日刊工業新聞2015年03月23日 モノづくり面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
静岡在住の「ニュースイッチ」ファシリテーターの加藤百合子さんに、茶園の減少を聞いたことがある。多くの人を危機感を共有しないと。

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