百年前の論文にうなり、百年後の人類をうならせる

【2】イグ・ノーベル賞受賞者に聞く。「科学のフロンティアはあちこちにある」

  • 1
  • 2
北海道大学教授・中垣俊之氏
 北海道大学の中垣俊之教授は粘菌に迷路を解かせ、2008年と2010年にイグ・ノーベル賞を受賞した。自身の論文引用数の少なさに衝撃を受けた経験を持つ。だが百年前の論文にうなり、百年後の人類をうならせる研究を目指す。

ー粘菌が原始的な知能をもつことは驚きでした。一方でそれが何の役に立つのかと批判されませんでしたか。
 「中高生向けの講演会で『それで世間に通るのか』と質問されたことはある。一方で『こういう面白い研究こそ、もっとやってほしい』と伝えに来てくれる人も少なくない。研究者は自分が面白いと思ったことを信じるべきだ。面白いと思ってくれる人は必ずいる」

ー理学の新しい知見と工学の役に立つ技術は両方とも価値があります。いまは後者が重視されています。
 「私は人の考え方や世界の見方を変えてしまう研究がしたい。いまは役に立つとさえいえれば、そこで思考停止してしまう。基礎研究者は『役に立つ』に逃げずに、本当に面白いか自問してほしい。新しいか、役に立つかの評価は難しい。それよりも本質への挑戦を促す方が建設的だ」

ー科学を楽しむには教養が必要です。
 「研究するには大学レベルの知識が必要だが、科学を楽しむには本来高校の知識で十分。身近な現象もまだまだわからないことばかりだ。ファーブル昆虫記が良い例で、何の変哲のない原っぱは存在しない。見方を変えれば、科学のフロンティアはあちこちにある」

 「一方、みなが納得する研究は、みなでやる研究。パワーゲームの世界だ。ただどの国も国プロは似たテーマを選び、みな同じところで行き詰まる。重箱の隅やど真ん中とされる研究も、入り口が違うだけで普遍性のある本質につながっている」

日刊工業新聞2016年11月23日の記事に加筆

COMMENT

中垣先生は「大学の序列化は良くない。序列化にそっぽを向いていた国が10-15年後にすごいことになる」と指摘します。どの先進国もランキングや大学の生産性を気にしていて、効率を求め、余裕もなくなってきています。科学はお金も時間もかかるので先進国しか支えられません。競争や効率化は前提なので、ちゃんと設計しないと遊びはなくなってしまいます。以前は大学の運営予算に紛れていました。一方、遊びが明らかだと、そこに研究者が殺到して本末転倒です。新しく遊び枠をつくるより、無駄を許容する方が実行性があるのかもしれません。 (日刊工業新聞科学技術部小寺貴之)

関連する記事はこちら

特集