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三菱自への出資で日産マネジメントチームの力学はどう変化したのか

西川―山内の調達ラインの格上げ。コスト競争力へ人事も重心
 三菱自動車を傘下に収めた日産自動車。カルロス・ゴーン日産会長兼社長(62)は自身が三菱自の会長に就く人事を固め、固辞する益子修三菱自会長兼社長(67)を三菱自の社長に慰留した。三菱自のトップ人事を巡る異例の事態に注目が集まったが、これに伴う日産自体の役員体制の変更も大きな意味を持つ。

 「私が不在の時は西川が決断を下す。彼と私は同じことをやってきた。全幅の信頼だ」。ゴーンCEO(最高経営責任者)は、11月1日付でチーフ・コンペティティブ・オフィサー(CCO)から共同CEOに昇格した西川廣人氏(63)をこう評する。三菱自会長職に割かれる時間と労力が日産の経営に影響しないよう西川氏を共同CEOに就けた。

 西川氏は調達担当が長く、経営危機下に仏ルノーから送り込まれたゴーン氏の下、コスト削減で再建に貢献。13年にはCCOに就き「ナンバー2」(ゴーン氏)まで一気に駆け上がった。今回の人事で登り詰めたのは調達の実績もあるが、昨年末のルノー議決権問題を巡って「仏政府との交渉で日産の経営の独立を勝ち取ったこともゴーン氏の評価を固めた」(日産幹部)。

 CCOを引き継いだ山内康裕前副社長(60)も調達一筋の経歴。ゴーンCEOがCEOを除いて「4C」と位置づける重要ポストはCCO、チーフ・パフォーマンス・オフィサー(CPO)、最高財務責任者(CFO)、チーフ・プランニング・オフィサー(CPLO)。

 最高意思決定機関「エグゼクティブコミッティ(EC)」のメンバーである5人の副社長を飛び越えて、非ECメンバーの山内氏が4C入りを果たした。「調達で実績を上げただけでなく開発、生産ともつながりがある山内のCCOはコスト競争力を底上げする上で順当」(日産関係者)という。

 だが「CCOは調達担当が就くポストと決まっているわけではない」(日産幹部)。ゴーン氏の三菱自会長に伴う玉突き人事は西川―山内の調達ラインの格上げになった。三菱自を新メンバーに加えたルノー日産連合の提携強化と、日産のコスト競争力のてこ入れと見て取れる。

日刊工業新聞2016年12月1日「THE経営体制」


日産、ルノーの社長と三菱自の会長も兼務するゴーン氏

 

10年前から主役も脇役も変わらず


 「ゴーン社長の役目は終わったのではないか」―。日産自動車はカルロス・ゴーン社長兼最高経営責任者(CEO)就任後、初の目標未達で20日の株主総会では厳しい声もあがった。06年度の反省を踏まえ、この4月からゴーン・日産の経営体制は少し「SHIFT(違う姿への変ぼう)」した。ゴーン氏の経営哲学や人間性は数々報じられているが、それを支えるチルドレンたちの実像はあまり知られていない。最大の関心事、“ポスト・ゴーン”は―。


 東京・銀座の日産自動車本社新館14階。細長い楕円(だえん)形のテーブルを中央に茶色でまとめられた会議室は、それほど大きくないが重厚感がある。毎月の第3週がエグゼクティブコミッティ(EC、最高経営会議)の開催日。

 丸一日、時には二日間かけて延々議論が続く。会議に出席するのはECメンバーの9人と、ゴーン社長の側近中の側近で、この春に仏ルノーから出戻ってきたフィリップ・クラン氏のみ。

 例年、3月中旬に新年度の経営体制を発表するが、ゴーン社長が2月に業績下方修正を受け「経営体制を見直す」と発言。国内販売不振の責任から志賀俊之最高執行責任者(COO)などの処遇が注目された。

 志賀氏は本来は“ネアカ”の関西人。ジャカルタ駐在経験があり、今でも現地に行くと、地元の子供までも「シガちゃん」と親しみを持って接してくる。残念ながら記者会見などではあまりその良さが伝わらない。

 人事だが、フタを開けてみると志賀氏は一般海外市場(GOM)担当を外れ、日本事業の再建に集中することになった。またゴーン社長は米事業担当を外れ経営に専念する形に。

 しかし新体制でも志賀COOの権限はあいまいに見える。国内の販社改革担当は、重鎮の小枝至副社長で「二人三脚でまわっていくか疑問」(直系販社社長)。

志賀に代わり西川台頭


 志賀氏に代わり台頭してきたのが西川廣人副社長。購買担当として調達コストの削減で成果を出し、ゴーン社長の後釜として米事業も兼務することに。「フランス人以上に考え方がドライ」(部品メーカー社長)といわれ、今後はサプライヤーとの協調が課題だ。

 志賀、西川の両氏と同じ1953年生まれの山下光彦副社長。研究開発畑一筋で語り口も非常にスマートだが「なかなかの野心家」(日産関係者)という声も。この3人は年齢が近く、微妙なバランスの上に関係が成り立っている。

 ほかのECメンバーではゴーン社長の信任が厚いカルロス・タバレス副社長。ポルトガル生まれだが、フランスのエリート養成所であるグランゼコール(高等専門教育機関)を卒業し、ルノーに入り新車開発で実績を上げた。

 ECメンバーの新顔は3人。生産系特有の好々爺(や)風情の今津英敏副社長、GOMを担当するコリン・ドッジ常務執行役員は英国の生産子会社生え抜きで日本勤務は初めて。今後事業拡大を目指すインドに精通している模様。遠藤淳一氏は米でMBAを取得、05年に43歳という過去最年少の若さで常務執行役員に昇格したホープだ。

 日産のマネジメントの特徴は、縦割り組織の弊害を取り除いたマトリックス経営。ECメンバーも複数の担当を持ち、改革テーマごとに部門を超えて人材を集めたクロス・ファンクショナル・チーム(CFT)は有名だ。現在も11のCFTが動いている。

“ポスト・ゴーン”はゴーン


 再建時はこの手法は機能した。しかし成長が成熟した今、各部門の自己防衛から弊害も目立つ。「チルドレンが野武士集団に変わった時、日産は再び成長軌道に乗るだろう」(日産OB)。

 4月2日。六本木ヒルズで開かれた入社式。ある新入社員がゴーン氏に優秀なリーダーの条件を質問した。「三つある。向上心。共感力。最後が一番大事。実績だ」(ゴーン社長)。今後もゴーン体制における信賞必罰は変わらないだろう。

 ゴーン社長が志賀氏をCOOに引き上げた時のコメントは「僕の後継者ではない」―。今のところ“ポスト・ゴーン”はゴーンだが、もし今年度も目標未達なら後継者問題は風雲急を告げる。
(文=明豊)
※肩書き、内容は当時のもの

日刊工業新聞2007年6月25日

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
10年前、自動車担当の時に似たような企画を書いたことがある。ゴーン社長という主役は変わっていないが、西川氏をはじめ周辺のメンバーも似たような顔ぶれなのに驚く。当時、ちょうど台頭してきた西川氏は共同CEOに。日産のマネジメントから離れていた山下氏は三菱自の開発担当副社長として復活した。志賀氏は革新機構のCEOとして厚遇されている。20年近くになってきた「ゴーン・日産」。自動車業界は他の業種に比べトップの在任期間は長い。日本メーカーの場合、収益を考えるとそれがプラスに働いているようにみえる。ただ日産の場合、ポスト・ゴーンはルノーの経営問題(仏政府の意向)と深くリンクしている点も変わっていない。

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