町工場が協力して楽器やフライパンを作る「仲間まわしラリー」体験記

近さに驚き、 徒歩30分圏内で切削・曲げ・溶接

 東京都大田区で区内町工場を一般開放するイベント「おおたオープンファクトリー」が3日まで開催されている。6回目を迎えたイベントで毎年人気を集めるのが、初日に行われる「仲間まわしラリー」だ。参加者が楽器やフライパンなど一つの製品を数社の町工場を巡って完成させる。今回のお題は「スマホスピーカー」で、実際に“仲間まわし”を体験した。

 大田区には約3500の町工場がひしめき合う。徒歩圏内に切削や溶接などの高い技術を持つ工場が存在するため、協力して一つのモノを加工、製造する“仲間まわし”という文化が根付いている。「仲間まわしラリー」はこの文化を一般参加者が体験できる貴重な機会だ。

 イベント初日、受付時間前から東京都大田区にある地域交流拠点「くりらぼ多摩川」にできた行列に並ぶ。「仲間まわしラリー」は限定20人で、参加者は親子連れや大学生などさまざまだ。

 最初に訪れたのは樹脂の切削加工を手がけるシナノ産業。スピーカーの台となるアクリル製の部材を受け取った。加工した職人の小川健一営業技術部長は「1度の固定で済ますべく、同時5軸の切削加工ができる機械を使った」とこだわりを明かす。職人の話や切削加工の音を聞き、きれいに削られた台や樹脂のやわらかい切りくずを触り、技術力の高さを体感した。

 同社から徒歩3分。次の目的地、多摩川鈑金工業所の門をたたく。精密板金加工を手がける同社では、参加者がベンダーを使った板金の曲げ加工を体験できる。

 遠藤元晴専務は「時間の関係で1カ所になってしまうが、感覚を体感してほしい」と笑顔を見せる。材料の指定された位置を持ち、そっと機械に差し込む。固定以外の作業は遠藤専務が担当する。正確な位置での固定が必要となるため、緊張が走る。固定が完了すると3秒後、「バチン」と大きな音がし、位置、角度とも正確に金属が曲がった。

 さらに20分ほど歩くと、底と側面を溶接してくれる共栄溶接に到着した。安全面を考慮し、作業するのは職人の波田野哲二取締役だが、溶接用のマスクをかぶって間近で見学できる。「薄い金属を溶接するので、溶接材が溶け広がって難しい」のだという。イベント内の加工ながら、普段と変わらない技術を見学できた。こうして2時間たらずでスピーカーは完成した。

 三つの町工場を巡ったが、驚くのはその近さ。歩いた時間は合計30分以内であり、大田区の地の利の強さを実感できた。おおたオープンファクトリーは3日にも工場島めぐりツアーなどの体験企画を開く。くりらぼ多摩川では常設展示も開催中だ。
3工場を巡り完成したスマホスピーカー

(文=門脇花梨)

日刊工業新聞2016年12月1日

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斉藤陽一
ニュースセンター
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 2015年3月の「大田区ものづくり産業等実態調査」によると、区内に立地する製造業の事業所数(いわゆる工場数)は14年12月末時点で3481社。最盛期の83年(9177事業所)と比べて6割減、私が蒲田の南東京支局に在籍していた03年(5040事業所)と比べても3割減という状況です。不況、後継者不足、近隣住民からの苦情など、町工場が廃業を決断する理由はさまざまですが、このまま減少が続くと、いつか「仲間まわし」が成立しなくなる日が来てしまうのではないか。今回の記事はあくまで「体験記」なのでそこまで深掘りしていませんが、かつて大田区の取材を担当した身として危機感を覚えます。

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