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連続で急速充放電可能。改良型ニッケル水素電池を実証

エクセルギー・パワー・システムズ
連続で急速充放電可能。改良型ニッケル水素電池を実証

エクセルギー・パワー・システムズの改良型ニッケル水素電池が搭載された蓄電システム

 山梨県で新たなスマートグリッド(次世代電力網)の実証実験が始まった。東京大学発ベンチャーのエクセルギー・パワー・システムズ(東京都文京区、兜森<かぶもり>俊樹社長、03・5844・6242)の急速充放電ができる改良型ニッケル水素電池で、大規模太陽光発電所(メガソーラー)の出力変動を吸収する。リチウムイオン電池が蓄電システムの主流となったが、あえてニッケル水素電池を用いスマートグリッドの普及に挑む。

「急速充放電を連続でできる」


 甲府市内の米倉山に、山梨県とエクセルギー・パワー・システムズが出力300キロワット、充電容量44キロワット時の蓄電システムを設置した。メガソーラーの発電が急増すると充電、急低下すると放電する。発電が激しく増減しても素早く充放電を切り替え、品質を整えた電力を系統に送る。実証は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が支援する。

 「急速充放電を連続でできる」。エクセルギー・パワー・システムズの兜森俊樹社長は、改良型ニッケル水素電池の強みを、こう説明する。急速充放電の障壁となっていた「発熱」の問題を解決した。発熱は充放電により発生する。急速であるほど温度が急上昇するので、異常発熱を防ぐため充放電を停止して冷やす。小さな体積に多くのエネルギーをためられるリチウムイオン電池は、発熱への注意が必要だ。
 
改良型ニッケル水素電池は急速充放電を繰り返しても、温度上昇を10度C程度に収めた。稼働に問題のない発熱なので、充放電を続けられる。米倉山に設置した容量でも、約6分で満充電に達する。

ドーナツ状が「熱を速やかに逃がす」


 エクセルギー・パワーは電池の内部構造を見直した。通常の電池は、膜状の正極材と負極材を巻いて円筒にする。改良型電池も円筒状だが、内部を上から見るとドーナツ状になっている。この構造が「熱を速やかに逃がす」(兜森社長)。

改良型ニッケル水素電池

 急速充放電が可能なので電池の残量が底をつきそうになっても、急速充電で一気に残量を回復できる。電池切れの心配が少なくなり、蓄電システム全体の容量を小さくできる。従来の蓄電システムは、急速充放電を繰り返せないので容量を大きめに設計していた。また、リチウムイオン電池は高価なため、搭載本数が増えることで高コスト化しやすかった。エクセルギー・パワーの改良型電池なら、スマートグリッドの低コスト化に道が開ける。

 発熱のほかにも、頻繁に充放電を繰り返すと材料の劣化が進む課題もあった。改良型電池は水素を注入して負極材の酸化を防ぎ、充放電を1万回繰り返しても2%の劣化にとどめた。

 山梨県は米倉山の施設をスマートグリッド実証拠点として企業に提供しており、コンデンサー、リチウムイオン電池、水素製造、フライホイール(弾み車)蓄電システムが稼働中だ。実際のメガソーラーで技術を試せるので、企業は成果を開発に反映できる。兜森社長は「山梨での成果を国内へ、そして全世界へ発信したい」と意気込む。
(文=編集委員・松木喬)
日刊工業新聞2016年12月2日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
山梨県で一番、標高の低い米倉山ではあらゆる蓄電・エネ技術の実証が行われています。以前のニュースイッチでも紹介しましたが、パナソニックが純水素型燃料電池を持ち込んで実証運転しているのも米倉山です。日本一の山といえば富士山ですが、米倉山もスマートグリッド研究で有名になるのではないでしょうか。エクセルギー・パワー・システムズは山梨県内に製作所があります。電池が売れれば地域にも経済効果をもたらします。

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