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顧客対応で最高評価、 三井住友海上のAIによるコールセンター改革

この時期に集中する控除証明手続き。入電の応答率95%まで改善
 三井住友海上火災保険がAI(人工知能)を活用し、コールセンターにおける顧客対応の品質改善を進めている。同センターに寄せられる年間の問い合わせは実に約150万件、日数換算にして平均で毎日4000件以上にも上る。膨大な問い合わせを、顧客にストレスを感じさせることなく、いかにうまくさばくのか。会社の品質を大きく左右する問題に対し、AIの活躍の場が広がっている。

「一体、何分待たせるんだ」


 「一体、何分待たせるんだ」。年末になるときまって、顧客からの問い合わせと不満の声が高まるのが保険料の控除証明手続きだ。各保険会社とも10月から証明書を郵送するため、10―12月の特定期間に入電が集中。オペレーターの人数を優に上回る問い合わせがくるため、連絡をしてもつながらない状況が続く。

 もちろん、同社も営業支社などが応援に入り、対応してきたものの、これは営業側にとって本来業務の一部を割くことになり、生産性の低下につながってしまう。

 膨大な入電数に対し顧客対応の品質をいかに高めるか。こうした課題に対し、三井住友海上が活用しているのがAIだ。

 日本IBMのAIシステム「ワトソン」を導入し、過去の応答履歴を文章化した数百万件ものデータを分析。結果をワークフローマネジメントシステムにかけることで、入電件数の予測をより正確にし、オペレーターの最適な人員配置も割り出している。

 さらに、AIによって日々の問い合わせ内容に応じてホームページ(HP)のFAQの順序が変動する仕組みも導入した。こうしたAIの効果を証明書手続きで実証したところ、入電の応答率95%という大きな成果を生み出すことができた。

 ワトソンによって証明書の再発行手続きなど、入電以前に解決ができる内容が照会件数全体の約70%を占める実態を把握。その上でFAQを充実し、HP上で解決するよう誘導したり、音声自動応答装置(IVR)で再発行の自動対応化に着手した。

 つまり、AIを活用することで、入電件数自体を抑制するように手を打った上で、オペレーターを配置するよう体制を整えることができた。

大手損保では唯一のダブル受賞


 一連の施策によって「時間にして約6850時間、金額にして約2400万円もの削減効果につながった」とコンタクトセンター企画部の岩前孝佳課長は成果を強調する。

 こうしたAIを活用した品質改善の取り組みは早速、外部からの評価にも反映されている。米ヘルスデスク協会の日本支部「HDIジャパン」が実施した2016年度調査において、三井住友海上は顧客対応とウェブ対応の2部門で最高評価を獲得。大手損保では唯一のダブル受賞といううれしい結果となった。

 ただ、AIの導入はまだ始まったばかり。17年下期にはワトソンに音声分析をさせる取り組みも本格的に始める計画だ。AIを活用したさらなる品質向上に向けて、同社の取り組みはまだまだ続いていく。
(文=杉浦武士)
日刊工業新聞2016年11月21日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
コールセンター×ワトソンといえばみずほ銀行が有名。2年前に「ワトソン」と音声認識技術を組み合わせたシステムを導入、顧客の発話の認識率は62%。回答候補の提示上位5位以内の正答率は85%という。 三井住友海上火災の場合、保険料の控除証明手続きの問いあわせ集中期間だけでも大きな成果があったようだ。ただここから顧客満足度を上げていくには、意外と費用対効果は高くつきそうだが、それもAIが分析してくれるのだろうか?

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