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混迷深めるタタ・グループの経営紛争。どうなる後継者選び

インドにおける宗教とコーポレートガバナンスの悩み
混迷深めるタタ・グループの経営紛争。どうなる後継者選び

暫定会長に復帰した創業家のラタン・タタ氏

 タタ財閥は、グループの昨年度(2015年4月-16年3月)の総収入が1030億ドル、従業員数約66万人というインドを代表する企業グループ。

 出自はイスラム教支配から逃れるためにペルシャ(現イラン)からインドに移り住むことを許されたパールシー(拝火教徒)であり、パールシーの企業グループとしては、商用車・特装車・農機などのメーカーであるマヒンドラ&マヒンドラなどと並ぶ。

「私はアイルランド人」


 リライアンス・グループに代表されるラジャスタン州マルワーリー地方出身のインド的な企業グループと比べて、社会貢献にきわめて積極的なのが特徴だ。

 タタ・グループの持ち株会社であるタタ・サンズの発行株式の66%を保有するのは、社会貢献団体であるタタ財団。タタ財団は、10月24日のタタ・サンズ取締役会で、サイラス・ミストリー氏の実績に不満を示したようだ。

 2012年12月からタタ・グループを率いた、アイルランド国籍のミストリー氏は「私はアイルランド人」と公言していたが、タタ製鉄が買収した英コーラス・グループの処理に手間取り、タタ・スチールの業績立て直しも図れないままでいた。

 タタ・モータースも、買収したジャガー・ランドローバーを除くと業績は良いとは言えない。インドでの携帯電話事業を巡るNTTドコモとの合弁解消の処理では訴訟沙汰になっている。

 グループ会長に暫定的に返り咲いたラタン・N・タタ氏も1991年に同会長に就任した際は、前会長のJ・R・D・タタ氏が専門経営者として任せていた各社の重鎮を駆逐するのに大変なエネルギーを要し、タタ・モータースの労働争議にも直面した。

 しかし、ラタン・N・タタ氏はインドの経済自由化の波に乗ってグローバルな企業買収を行い、海外売り上げが過半を占めるグループに変身させた。

出自にこだわらず後任を見いだせるか


 一方、パールシーでタタ・サンズ取締役からグループ会長になったサイラス氏は、父親の築いた建設・不動産のパロンジ・グループの経営経験しかなく、帝王学の見習い期間は1年にすぎなかった。

 その面では、ラタン・N・タタ氏に「任命責任」がありそうだが、今回ようやくミストリー氏がグループを率いる器ではない、と見限った格好だ。

 パロンジ・グループは第二次大戦中にタタの金融的な窮地の救いの手を差し伸べ、現在、タタ・サンズの発行株式の18・4%を所有する。

 ラタン・N・タタ氏の異母弟であるノエル・タタ氏(タタ・グループの流通部門、トレント・グループ会長)の妻はミストリー氏の姉に当たる。そのため、ミストリー氏の解任は、訴訟沙汰に発展するともみられている。

 タタ・グループの次期会長の選任については、タタ・サンズがすでに「選任委員会」を設置している。ラタン・N・タタ氏は78歳の高齢とはいえ、米ハーバード・ビジネス・スクール時代の人脈など世界中にネットワークを持つ。

 今度こそ、出自にこだわらず、欧米で活躍するインド系経営者を含めた中から適任者を選び出せるかどうかに、グループの将来がかかっている。
(文=中村悦二)

日刊工業新聞電子版2016年10月25日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
いまだミストリー氏は傘下企業の要職にとどまり、超低価格車「ナノ」の生産中止を主張するなど徹底抗戦している。「ナノ」といえば、ラタン・タタ氏が前回の会長時代に鳴り物入りでスタートさせたプロジェクト。生産コストは常時、10万ルピー(約1500ドル)という販売価格を上回っていて大赤字という。インディアン・ホテルズの社外取締役はミストリー氏の支持打ち出すなど、グループ企業でも意見が割れている。争いは各社の株主総会に持ち込まれることになりそう。ミストリー氏はラタン氏と姻戚関係にあってパルシーということもあって後継に選ばれた経緯がある。ミストリー氏はさまざまな慣習を打ち破って構造改革を進めてきたという思いもあるだろう。アジアの財閥のコーポレートガバナンスがどう成熟していくか、という点でも注目だ。

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