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スマホ頼みは悪なのか?電子部品各社、脱スマホ進まず

IoT時代のゲートウェイとしますますスマホの重要性高まる
スマホ頼みは悪なのか?電子部品各社、脱スマホ進まず

液体の水圧や振動などを再現できる(アルプス電気の触覚デバイスコップ)

 電子部品業界では、スマートフォン向け事業への依存が続いている。メーカー各社はスマホ依存からの脱却を目指してきたが、スマホ向けが売り上げの4割以上を占める企業が多く、今もなお収益の源泉だ。しかし中長期的にはスマホ市場の成長鈍化は避けられない。スマホ向け事業で安定的に収益を確保できる間に、IoT(モノのインターネット)向けや車載向けなど新分野で事業基盤を確立する必要がある。

 スマホ市場は数年前から成熟化が指摘され、日本の電子部品各社にとってスマホ依存からの脱却は喫緊の課題だった。だが中国での需要が想定以上に膨らみ、2016年度に入っても各社は中国メーカー向けの販売を伸ばしている。

 村田製作所は「中国の首位メーカー以外とも取引している」と顧客数を拡大。売上高に占める中国スマホ向けの比率は2割になり、収益を下支えする事業にまで成長した。

(村田製作所が新素材で開発中の樹脂多層基板)

 TDKは北米向けや韓国向けの売り上げは横ばいだが、中国向けが伸長。アルプス電気もカメラアクチュエーター部品が好調で、足元では地域別売上高に占める中国向けの比率が従来の20%台から30%超まで伸びた。

 韓国サムスン電子の新型スマホ発火事故に伴い、サプライヤーであるTDKへの影響が懸念された。ただ実際には影響は軽微にとどまった。石黒成直TDK社長は「顧客分散が進み、顧客基盤が安定化してきた」と、中国スマホによる下支えを暗に認める。

 今後もサムスン電子の事故のように、さまざまな要因で特定のスマホメーカーの販売が停滞し、別のメーカーに利用者が流れる恐れはある。だが、そのスマホメーカーにも日本メーカーの多くが食い込んでおり、網の目のように広がった顧客網で補完できるモデルを確立している。

「次の巨大市場を見つけられるか分からない」


 金城湯池となったスマホ市場だが、一方で「スマホ市場の成長が(永続的に)続くことはない」(気賀洋一郎アルプス電気取締役)との認識で一致している。すでに価格が50ドル以下のスマホが新興国市場を席巻し始めている。このまま部品点数が減り、低価格化も進めば利幅が縮小するのは間違いない。

 このためアルプス電気は「次の中期経営計画では新分野から収益源を生み出す」(同)方針で、車載向け触覚デバイスなどを拡販していく。村田製作所も素材メーカーを買収し、ウエアラブル端末向けなど新事業に着手。TDKは二次電池の転用先として飛行ロボット(ドローン)に狙いを定めた。各社は電子化が進む自動車やIoTといった分野で商機を探る。

 「スマホ市場はとても甘い蜜で、当たれば大きかった。それだけに次の巨大市場を見つけられるかどうかは分からない」(電子部品商社幹部)―。

 電子部品業界では、部品メーカーが“おいしい”スマホ事業から脱却することの難しさを指摘する声も上がる。しかしスマホに依存し続ければ、じり貧に陥るのは目に見えている。スマホ向け事業で培った先端技術と顧客開拓力を生かし新たな分野で高収益事業を創出できれば、電子部品業界の次世代の競争をリードできるはずだ。
(文=渡辺光太)
日刊工業新聞2016年11月25日
尾本憲由
尾本憲由 Omoto Noriyoshi 大阪支社編集局経済部
スマホ市場が成熟化するのは間違いない。さりとてスマホに代わるキラーアプリケーションが現れているわけでもない。むしろIoTによってあらゆるものがネットにつながるようになれば、ゲートウェイとしてスマホの重要性はさらに高まるはず。車載やウェアラブルなどスマホ以外での事業拡大は欠かせないが、スマホで手を抜くわけにはいかないだろう。ちなみに某社のウェアラブル機器を愛用しているが、朝起きて最初にすることはスマホで睡眠時間のチェック。歩数や消費カロリー、脈拍も、スマホでしょっちゅうチェックしています。

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