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創業以来初の赤字に転落した三菱商事。投資先と共に稼ぐ

お金の投資から経営支援の投資へ転換
創業以来初の赤字に転落した三菱商事。投資先と共に稼ぐ

垣内社長(三菱商事公式ホームページより)

 資源価格の下落を受け、2016年3月期に創業以来初の当期赤字に転落した三菱商事。15年間維持してきた当期利益で業界トップの座も伊藤忠商事に明け渡した。王者復活に向け、社長就任1年目の垣内威彦が掲げた経営戦略が、投資先企業に深く関与してイノベーションや付加価値を創出する「事業経営」だ。自社の経営力を注入して事業モデルの進化とグループの成長を両立し、捲土(けんど)重来を期す。

 投資先企業の稼ぐ力をいかに高めるか―。三菱商事は1200以上の関連会社を抱え各社の成長を支援する。垣内はグループの成長に向けて「今後5―10年を見据えると、この流れはより強くなる」と言い切る。

 原料や製品の仲介取引(トレーディング)業務を主力としてきた総合商社。しかしインターネットの普及や企業の海外進出でこの役割が低下し、2000年代からは成長が見込める分野に直接投資して利益を得る「事業投資」にビジネスの軸足を移した。今では事業投資先からの利益が全体の大半を占める。

 今、垣内が見据えるのはその先だ。16年度からの3カ年中期経営計画で「事業投資」から「事業経営」へとビジネスモデルを転換することを明確化した。

 「投資先企業が抱える経営課題を把握し、解決をサポートできるかが問われる」と垣内は自社に求められる機能の変化を分析する。このため、経営能力が高い人材を投資先に派遣し、経営に深く入り込むことで成長させる方針だ。

 事業経営のモデルとなるのが17年2月をめどに子会社化を予定するローソン。今やコンビニは商品販売だけでなく、郵便やヘルスケアなどのサービスも手がけ「BツーCビジネスの最先端にいる」(垣内)業態だ。

 コンビニが消費者の生活を支えるインフラとして存在感を増す中、いかにサービスや機能を充実できるかが成長のカギを握る。今後は三菱商事のリソースを活用し、海外展開やスーパーマーケットとの協業拡大、新サービスの提供などを加速する。

 「できれば三菱商事単体の全社員に、経営人材になってほしいというメッセージを込めた」。垣内は事業経営へのシフトを掲げたもう一つの狙いを語る。

 商社は自社商品や工場を持たないため「人材こそが最大の資産」と言われる。社員が投資先で経営の経験を積むことで、会社全体の経営力を高め、新たなビジネスモデルを生み続ける企業へ変革できるか―。同社が挑む事業経営は、商社の深化に向けた試金石でもある。(敬称略)


※日刊工業新聞では「挑戦する企業・三菱商事編」を連載中
日刊工業新聞2016年11月22日
土田智憲
土田智憲 Tsuchida Tomonori かねひろ
お金の投資から、経営支援の投資への転換という言い換えもできるのではないだろうか。ソーシャルベンチャーの分野では、ベンチャーフィランソロピーという、資金提供と経営支援を行うことで、中長期的に事業の成長を促し、社会課題解決を加速させる動きが活発である。経営支援は、戦略・マーケティング・デザインなどの専門性、リーダーシップや関係性などの個人のスペシャリティ、その環境だから生まれている文化などのソーシャルキャピタルと、たくさんの要素が含まれると思うが、これらが投資資本として再注目されているということでもあると思う。

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