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温暖化対策にもトランプ・ショックか

COP22で米国政府団、発言力失う
温暖化対策にもトランプ・ショックか

COP22でスピーチする米国のケリー国務長官

 米大統領選の結果を知った瞬間、気候変動枠組み条約第22回締約国会議(COP22)の米国代表団はフリーズしただろう。オバマ大統領の温暖化政策を真っ向から否定する共和党・トランプ候補が次期大統領に選ばれたからだ。

 モロッコ・マラケシュで開催中のCOP22に民主党・オバマ政権から派遣されていた米国政府団は、現地で発言力を失った。世界で最も早く”トランプ・ショック”を体験したのは、彼らかもしれない。

 トランプ氏は「気候変動は中国のでっちあげ」「気候変動枠組み条約事務局への米国からの資金拠出をやめる」と、温暖化政策でも過激な発言を連発してきた。気候変動に懐疑的な共和党の立場をより先鋭化させた。

 トランプ次期大統領は、オバマ氏の看板政策である「クリーンパワープラン」の廃止に踏み切るものと見られる。クリーンパワープランは発電所に二酸化炭素(CO2)排出削減の強化を求めた。石炭火力はCO2回収装置がなければ運転ができなくなり事実上、廃炉を迫られている。

 「ストロング・アメリカ・アゲイン(再び強いアメリカを)」と訴えるトランプ氏は、エネルギー自給率100%を目指す。そのために石炭産業を保護する。オバマ政権下では温暖化を招く悪玉扱いだった石炭産業は、息を吹き返しそうだ。

 大統領選直後の11日には、米自動車工業会が燃費規制の緩和を求める要望書を新政権発足チームに提出した。米国の温暖化政策の風向きが変わりつつある。

 気候変動の国際交渉にも影を落とす。COP22は、もともと大きな議題がない。米政府団が発言力を失っても、COP22は混乱することなく、18日に閉幕するだろう。

気になる中国の動向


 心配されるのがCOP22後だ。オバマ氏と歩調を合わせてきた中国の動向が気になる。米中は14年末の首脳会談ではそろって温室効果ガスの削減目標を公表した。温暖化対策に消極的な米中両大国の共同発表は“電撃的”だった。

 パリ協定にも同時に批准した。触発されるようにインド、欧州連合(EU)も批准し、パリ協定スピード発効の機運を作った。中国も消極派に逆戻りすると、パリ協定の実効性が危ぶまれる。

 とはいえ、米国の産業界はすでにパリ協定を意識して動きだしている。電気自動車のテスラモーターズのような新ビジネスが登場し、アップル、フェイスブック、グーグルなどは事業で使う電力を100%再生可能エネルギーでまかなう方針でいる。

 低炭素をビジネスチャンスと捉えた産業の動きは、米政府以上に積極的だ。新政権が樹立されても、米国が京都議定書に批准しなかった2001年ほどの衝撃はなさそうだ。
(文=松木喬)
日刊工業新聞2016年11月17日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
余談ですが、JIMTOF会場でインタビューした米国機械商社の幹部は「トランプは嫌いだ。しかも周囲にはトランプファンが多い」と困惑していました。トランプ・共和党政権が誕生しても、米国や欧州の産業界が脱炭素をビジネスチャンスと考えて動きだしています。中国も環境投資を呼び込み、自国にも環境ビジネスを育てたいはずです。脱炭素ビジネスへのトランプショックが軽微であることを祈ります

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