ワクチン産業の再編はどうなる?アステラス、化血研との交渉断念
「引き続き事業譲渡に取り組むよう指導していく」(塩崎厚労相)
化学及血清療法研究所(化血研、熊本市北区)をめぐる情勢が混迷している。アステラス製薬が化血研と進めていた同社の事業承継交渉を10月中旬に断念し、他メーカーも表向きは明確な関心を示していない。厚生労働省は製品供給力強化などの観点からワクチン・血液製剤産業の再編を促しており、化血研へも事業譲渡を引き続き求めていく考えだが、実現の見通しは不透明だ。
「長年の取引関係のある相手とも合意に至らなかった。各方面の関係者の化血研への信頼が崩れ、不信感が高まっていることの表れではないか」。塩崎恭久厚労相は、アステラスと化血研が交渉を終了したことを受けてこう述べた。アステラスは前身の藤沢薬品工業時代から化血研と販売で提携しており、両社の心理的な距離は近いとの見方もあった。
塩崎厚労相は化血研へ、「引き続き事業譲渡に取り組むよう指導していく」とした。一方で厚労省内からは「(化血研は通常の製薬企業と)体質が違いすぎる。欲しがるところはないのでは」(幹部)との声も漏れる。
化血研は国の承認とは異なる方法で血液製剤を製造し、厚労省の査察に対しても組織的な隠蔽(いんぺい)を続けてきたことで1月に110日間の業務停止処分を受けた。さらに10月には、日本脳炎ワクチンでも一部工程で承認外の製造手法が採られていたと厚労省が発表した。
化血研は日本脳炎ワクチンについては承認された通りの製造方法であると反論している。6月に理事長の交代、9月には評議員会の刷新をするなど、統治体制の見直しにも取り組んできた。ただ厚労省の反応を踏まえる限り、自力での信頼回復に理解が得られているとは言い難い。
ワクチン部門を持つ国内製薬企業は、表面上は化血研に対する動きをみせていない。第一三共は、「(北里研究所との共同出資会社の)北里第一三共ワクチン(埼玉県北本市)をさらに強い会社にすることに集中したい」(中山譲治社長)。田辺三菱製薬は11月7日、阪大微生物病研究会(大阪府吹田市)と共同でワクチン製造会社「BIKEN」を設立すると発表した。短期的に化血研へも接近する可能性は低そうだ。
武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長は、アステラスと化血研が交渉中だった5月時点では横やりを入れない意向を示していた。ただ10月下旬の会見では「交渉が中止になったのは最近なので、まずは落ち着いて状況の理解に努めたい」と述べ、化血研と対話する可能性を完全には否定しなかった。
厚労省は10月18日に「ワクチン・血液製剤産業タスクフォース」顧問からの提言を公表し、メーカーの統廃合による事業規模の拡大や、法令順守の強化が必要との指摘を示している。
ワクチン市場では米ファイザーや米メルクなど海外大手製薬が権勢を誇っており、日本企業の競争力強化が待たれているのは確かだ。その第一歩を踏み出す意味でも、化血研の諸問題が解決に向かうことが望まれる。
(文=斎藤弘和)
「長年の取引関係のある相手とも合意に至らなかった。各方面の関係者の化血研への信頼が崩れ、不信感が高まっていることの表れではないか」。塩崎恭久厚労相は、アステラスと化血研が交渉を終了したことを受けてこう述べた。アステラスは前身の藤沢薬品工業時代から化血研と販売で提携しており、両社の心理的な距離は近いとの見方もあった。
塩崎厚労相は化血研へ、「引き続き事業譲渡に取り組むよう指導していく」とした。一方で厚労省内からは「(化血研は通常の製薬企業と)体質が違いすぎる。欲しがるところはないのでは」(幹部)との声も漏れる。
化血研は国の承認とは異なる方法で血液製剤を製造し、厚労省の査察に対しても組織的な隠蔽(いんぺい)を続けてきたことで1月に110日間の業務停止処分を受けた。さらに10月には、日本脳炎ワクチンでも一部工程で承認外の製造手法が採られていたと厚労省が発表した。
化血研は日本脳炎ワクチンについては承認された通りの製造方法であると反論している。6月に理事長の交代、9月には評議員会の刷新をするなど、統治体制の見直しにも取り組んできた。ただ厚労省の反応を踏まえる限り、自力での信頼回復に理解が得られているとは言い難い。
事業規模の拡大、法令順守の強化が必要
ワクチン部門を持つ国内製薬企業は、表面上は化血研に対する動きをみせていない。第一三共は、「(北里研究所との共同出資会社の)北里第一三共ワクチン(埼玉県北本市)をさらに強い会社にすることに集中したい」(中山譲治社長)。田辺三菱製薬は11月7日、阪大微生物病研究会(大阪府吹田市)と共同でワクチン製造会社「BIKEN」を設立すると発表した。短期的に化血研へも接近する可能性は低そうだ。
武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長は、アステラスと化血研が交渉中だった5月時点では横やりを入れない意向を示していた。ただ10月下旬の会見では「交渉が中止になったのは最近なので、まずは落ち着いて状況の理解に努めたい」と述べ、化血研と対話する可能性を完全には否定しなかった。
厚労省は10月18日に「ワクチン・血液製剤産業タスクフォース」顧問からの提言を公表し、メーカーの統廃合による事業規模の拡大や、法令順守の強化が必要との指摘を示している。
ワクチン市場では米ファイザーや米メルクなど海外大手製薬が権勢を誇っており、日本企業の競争力強化が待たれているのは確かだ。その第一歩を踏み出す意味でも、化血研の諸問題が解決に向かうことが望まれる。
(文=斎藤弘和)
日刊工業新聞2016年11月17日