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トランプ発言や公約は額面通り受け取れない。「米国覇権」の再現目指す

“トランプ相場”見極めを
トランプ発言や公約は額面通り受け取れない。「米国覇権」の再現目指す

安倍首相との会談の様子をSNSで公開(トランプ氏の公式フェイスブックページより)

 8日にトランプ新大統領が決定し、マーケットでは投資マネーがリスクオフからリスクオンへとポジションを急転させ、選挙から一夜明けて米ドルと米国株式が上昇し、債券市場が下げた。トランプ氏は選挙中の極端な発言を控え、不法移民の強制送還、オバマケア(オバマ大統領の医療保険制度改革)廃止など公約の一部を既に撤回している。今後、このカメレオンのような人物がどのような政策を実行するのか。

 次期大統領の金融政策ではリーマン・ショック後に続いた緩和政策の出口に向かう。米連邦準備制度理事会(FRB)による12月の利上げが予想されており、先週の債券市場では大きな変化が起きた。選挙直後、債券利回りが高騰し、債券市場では1兆1000ドルが売られ、1999年以来の売浴びせとなった。

 トランプ相場は日本市場にも波及し、マーケットは円安・株高、債券安となった。15日には長期金利が上昇し、マイナスからプラスに転じ、市場関係者はドキッとした。海外投資家が米国債の急落で損失が膨らみ、日本の債券投資にも慎重になっている。

 現在、日本の債券市場の主なプレーヤーは日銀を除くと海外勢であり、彼らが去って行くと、当然日本でも金利上昇が懸念される。これでは日銀のマイナス金利政策が裏目に出て市場金利が上昇し、多くの日本国債や公社債を抱える国内機関投資家は含み損を抱えることになる。

 その意味で、日本にとってのトランプリスクは、日銀、メガバンクなど日本の大手機関投資家にもかぶさってくるのではないかと筆者は懸念している。銀行の経営がふらつけば、貸し渋りや貸し剥がしで多くの優良中小企業が犠牲になる。このパターンはリーマン・ショック直後に見られたことだ。

 さらに、日本にとってはトランプ流の保護貿易主義もリスクとなりそうだ。トランプは米国製造業の復活を掲げて当選した。次期政権は「米国第一主義」のスローガンのもとに、海外移転した工場を自国に引き戻すなど外で稼ぐカネを自国に取り戻そうとするだろう。

 特に、日本と中国は米国へ輸出することで経済成長を遂げて来たが、その間、両国には貿易黒字が累積した。米国は自国製造業の輸出強化のため、円高、人民元高へ誘導すると予想される。

 冒頭に述べたように、トランプ発言や公約は額面通り受け取れない。彼の手段を選ばないスタイルは外交政策の面でもリスクがある。米国は自由民主主義的な価値を世界に広めるという「ソフトパワー」を終了し、「ハードパワー」強化へ向かうだろう。経済による国力強化に加え、国防強化で「米国覇権」再現を目指すだろう。
(文=大井幸子・国際金融アナリスト兼SAIL社長) 
日刊工業新聞2016年11月18日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
安倍首相との会談が終わりました。まず世界の首脳の中で真っ先に会談したのはプラス。伝わってくる情報や、会談に加わったトランプ氏側のメンバーをみても、日本側に真摯に対応していると感じる。まず首脳同士のフィーリングが合って信頼関係を築くことが最初のハードル。それはひとまず乗り越えたのではないか。もちろんリスクは多い。反グローバルリズムの大きな流れの中で、国も企業も個人も大局的な視点がより重要になる。

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