日本の製造業も「稼働課金型」に大きく踏み出す時が来た

「買いたい」から「使いたい」へ。ビジネス新潮流を見逃すな

 筆者は講演で数多くの方と出会うことを楽しみにしている。しかし言いにくいのだが、製造業の方々の勉強不足を感じることも少なくない。

 中でも、大企業の管理職や中小企業経営者がビジネスモデルや新潮流を知らないことに驚くことがある。先日も大手銀行主催で都心の中小企業経営者を対象に講演をしたが、なんと参加者のほとんどが配車サービス「Uber」(ウーバー)や民泊仲介の「AirBnB」(エアビーアンドビー)を知らなかった。

 その「知らない」代表例である“モノづくりがモノを売らずに稼ぐ”傾向を紹介しよう。古来、モノを作ったら、それを売るのが商売の基本であった。しかし最近は“モノを売らないモノづくりビジネス”が増えている。

 顕著なのが、実は皮肉なことにモノづくりの最たるものである重工業製品である。例えば、精密・頑丈で安定性が求められる大型旅客機のジェットエンジンを造れるのは、英ロールス・ロイス、米ゼネラル・エレクトリック(GE)、米プラット&ホイットニー(P&W)の3社しかない。そこに部品を供給するのがIHIや三菱重工業である。ところが3社は世界最高級のジェットエンジンを開発しているが、売ってはいない。

 では、どうやって稼ぐのか。講演会で数千人に聞いてみたが知っている方は一人もいなかった。多くの人はレンタルかリースと答える。知財関係者はライセンスアウトかもしれないという。

 実は稼働課金なのだ。飛んだ分だけ課金するのはタクシーと同様だ。(実際には出力×稼働時間が基本)。つまり彼らはモノを作って、それをサービスのビジネスモデルで稼いでいるのである。一種の製造業のサービス化である。

 機器を開発して稼働課金で稼ぐモデルは、大型コンピューターの世界で始まり、IT関係者の間では「ユーティリティモデル」と呼ぶ。(ただし知財関係者が実用新案と勘違いする場合も多い)。

 最近では「プレ・エンプティブモデル」(先制攻撃型)と呼ぶ人もいる。いずれにせよ製造業のビジネスモデルの展開である。近いうちにプラントや設備装置あるいは大型車両(バスやトラック)がこのモデルに移行するだろう。

 なぜこのモデルへの移行が始まり、そのビジネス戦略上の意味は何か。筆者は必ず講演でこの点を参加者に問いかけることにしている。

購入を躊躇していた客層が一斉に使い始める



 さて、このモデル、ソフトウエアの世界では既に一般的になりつつある。例えば、PDFファイルでおなじみのアドビ社は「フォトショップ」などのクリエイティブなアプリケーションソフトで有名な“ソフトウエアというモノづくり”のメーカーである。

 従来はソフトを“モノ売り”していた。しかし、数年前に「サブスクリプションモデル」(使用契約)へ移行し大成功を収めている。つまり“顧客に(ソフトが入った円盤を)所有してもらう”から“顧客に(ネットワークを介してソフトを)使用してもらう”ことに変えたのだ。

 月々の使用料が格段に安く済むので、購入を躊躇(ちゅうちょ)していた客層が一斉に使い始めた。結果、アドビ社はより多くの顧客層を安定的に囲い込み、大成長を実現できたのである。

 マイクロソフト社も同様だ。世界標準になったウィンドウズOSやオフィスというソフトの所有ではなく、オフィス365というクラウドサービスを通じて使用してもらうことに変えた。今や、このサービスの売上高がソフトの売上高を超えた。

 つまり、映画や音楽といったコンテンツソフトが「円から線へ(円盤購入からネットワーク配信サービスへ)」になっただけではなく、アプリケーションソフトも同様なのである。

 このようにハードウエアもソフトウエアも、モノを作り、売って稼ぐモデルから、使用によって稼ぐモデルへと移行しつつある。顧客の「買いたい」から「使いたい」への流れを見逃してはならない。

【略歴】
妹尾堅一郎(せのお・けんいちろう)慶大経卒、富士写真フイルム勤務を経て、英国立ランカスター大経営大学院博士課程満期退学。産能大助教授、慶大院教授、東大先端科学技術研究センター特任教授、九州大客員教授を経て現在は産学連携推進機構理事長。一橋大院商学研究科MBA客員教授。

日刊工業新聞2016年11月7日

明 豊

明 豊
11月13日
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まさにIoT時代の話だが、ビジネスにおいて原価の考え方からすべて変わってきますね。例えば、冷蔵庫は家電において最大のビッグデータである。ではパナソニックや三菱電機がハードはすべてタダで配って、IoTによる「冷蔵庫プラットフォーム」を使ったビジネスをできるか。現状ではまず難しい。

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