「起業のチカラ・セレクション Vol.2」   朴栄光×斉藤ウィリアム浩幸

「テクノロジーとリベラルアーツが融合する新しいリーダーが必要」(斎藤)「可能性を捨ててある部分の可能性に乗ることが力」(朴)

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 「起業のチカラ・セレクション Vol.2」は、世界経済フォーラムに参加するなど国際経験豊かな二人。若手起業家は東京・大田区で外科手術訓練シミュレーターのベンチャーを立ち上げた朴栄光さん。そして経営者は、世界を飛び回るベンチャーキャピタリストの斉藤ウィリアム浩幸さん。以前から付き合いがあり、話がとてもかみ合いました。フェイスブックは何故、日本で生まれなかったのか?起業しにくい日本、だからこそチャンス?-。次々と繰り出される日本への愛あるダメだし。日本の状況は3年前の対談からどこまで変わったのだろうか。
 
 【投資基準は人!!】

 朴「起業したものの、日本で手術トレーニング市場がなかなか根付かない、と気付き渡米しました。すると、人を紹介してくれたり、成長プランを提案してくれたりと、優秀でイノベーティブなアイデアにみんなが応援し、手伝ってくれるんです」

 斉藤「米国は起業する人にみんなが支援します。自分で苦労を知っているから。日本はベンチャーキャピタル(VC)も銀行の延長で、お金あげてそのまんま。それでは育たないよね」

 朴「日本は起業までの支援はあっても、いざ起こすと、後は自分で頑張りなさい!という感じで。国の支援制度などが違うのでしょうか」

 斉藤「一つ違うのはVC。本来のVCとは、人を紹介したり具体的な助言をしたりして、それを実行するためのお金を渡すんです。でも日本のVCの中には責任を取りたくないところもあるし、そういうコネクションもない。担保込みでお金あげますから頑張ってね!となっちゃう。支援というより寄付のような感じ」

 朴「最近、VCから投資しますと言われると、あなたは当社に対してどのような成長プランをお持ちですか?と聞くようにしています」

 斉藤「日米ではそもそもアントレプレナーの意味が違うんです。日本語訳は起業家精神ですが本当は、イノベーティブなアイデアをどう実現するか、というマインドセットのこと。日本はもともと持っていたのに、なぜか取り戻せない。その原因は、教育や文化につながっています。英語でいう『エンパシー』ですね。どう人を支援しボランティアするかという意味ですが、日本ではなかなか伝わらない」

 朴「僕は運良く、いい人たちに出会えました」

 斉藤「運は、自分が作る環境から付いて来るんです。うまく事が運ぶのはパッションが伝わっているだけ。私の投資基準は、人なんです。日本のVCはよく、3年計画などの提出を求めますよね。しかし、私はこれまで1万件以上のビジネスプランを評価してきましたが、計画通りに進む人は一人も見たことがない。プランや数値目標は必ず変わるんです。変わっても反省してやり直す気持ち、パッションです。この人は何があっても大丈夫だろう、という評価だけです」

 朴「結局は人。そう言ってくれる人に出会えれば、やる気になる人も増えると思うのですが」

 斉藤「あとは、失敗したことがある人。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズなど、成功を収めた人も、一度は失敗しています。日本は失敗をたたきますが、失敗した人にはぎゅっと経験が詰まっている。今、日本の一つの問題は、データは多いけれども知識・知恵に昇華しないところなんです。それをするのに重要なのが、ディスカッションと失敗を許す環境。イノベーションと失敗はペアなんです」

 朴「若いときに挑戦、失敗し慣れていないと」

 斉藤「ですから、私は新卒とか中途採用という言葉をイリーガルにしようと思っている。海外で勉強するとか、会社休んでインターンをして戻ってくるとかなかなか難しい。そういう、バカなルールを崩していかないと、グローバルに合わせられなくなっちゃう」

 朴「僕自身、高校時代にオーストラリアに1年留学した経験が、その後を大きく変えました」

 斉藤「その海外に行く経験というのが、男性は特に難しい。そういう意味で、女性は強いですね。私が投資している企業もほとんどが女性社長です。今、日本を救うのは女性ですよ。無理やり失敗しろじゃなくても、『失敗を冒険する!』くらいの環境をつくってあげるのがリーダーの役目です」

 【「リーダー」と「チーム」】

 朴「海外ではリーダーシップをどう育成するか、皆が危機意識を持ち当たり前のように話し合っていますね。日本では堅い話になりがちです」

 斉藤「iPhoneと日本の携帯電話の唯一の違いは、技術にどうリベラルアーツをかぶせたかであり、リーダーがそれを理解したかどうかなんです。テクノロジーとリベラルアーツが融合する新しいリーダーが必要なんです。そういうリーダーを生もうと、大学で教えたりしていますが、理系と文系ってエイリアン同士みたいにかみ合わない。米国なら、アイデアを持った優秀な人が数字に弱い、となると周りに優秀な人材が集まって、すぐにチームを作り動きだすんです」

 朴「米国は個人の力が重要な国。そういう土壌が必要なのかな」

 斉藤「日本はグループ、つまり実行部隊としてはよく動きますがチーム力がない。グループ単位のカイゼンでは、グローバル競争の時代に時間切れになってしまう。フェイスブックなんて10年前はなかった会社ですよ。でも、米国でなく東京で生まれてもおかしくなかった。いかにチームを組むかと。リーダーの存在が重要です」

 朴「僕は在日3世です。韓国人として教育を受けながら、違和感があった。自分は何人なんだろう、というところから始めて、国籍を決めた経験があるんですよ」

 斉藤「それが強みになったんじゃない」

 朴「そう思います。決めるというのはある部分の可能性を捨てて、ある部分の可能性に乗ること。これは力なんです。楽しいことが分からない、と言う学生には、それを決めないといけない!と言っています」

 斉藤「よく、なぜ日本にいるのか?と聞かれます。私は10代で会社を立ち上げました。成功するきっかけを与えてくれたのが日本企業。ですから、私をアントレプレナーにした国に恩返しをしたいというのが一つ。もう一つは、日本が世界で唯一リードしているのは少子高齢化なんです。その『答え』を知っておきたいと。5-10年後に、世界の他の国が同じ状況になるでしょう。この答えこそ輸出して、イノベーションにしたいのです。朴さんも手術シミュレーションの技術を使って、ある意味そうです」

 朴「モノづくりは非常に時間がかかるし、トライアンドエラーの繰り返しなので、知識と経験が非常に大事なんです。そういうモノづくりに価値が出るように、経営者がシナリオを描いて、世界にその価値を伝える営業部長も務めたら。一つの良い会社として、成長できると思うんです」

 【今こそがチャンス!】

 斉藤「中国やインドは日本の10倍以上の人口がいます。手足で戦っていては、数で負けちゃう。ですから、いかに少ない、手足ではなく頭脳を生かすか。そして旧来のモノづくりから『モディファイド(modified)・モノづくり・サービス・ハイテック』(ハイテクかつ、サービスを意識し、現代版に改良した新しいモノづくり)に持って行く方法が必要です」

 朴「もう、まさにその通りだなと。当社は産業用ロボットがモノを作っています。その方が正確だし、多品種小ロット生産に向いているから。経営者に求められているのは、今後、世界で何が求められていくのかという嗅覚と、実際に売り込んで資金回収するパッション」

 斉藤「日本は頭脳という資源を持っているんです。人類史上の2大プロジェクトはアポロ計画とマンハッタン計画。二つの計画に携わった70万人の平均年齢が27歳でした。さらに、今最もイノベーティブな会社の創業者は設立時の年齢が27歳。多分、一番クリエーティブな時期なんです。これを日本の社会は捨てちゃっているのが許せない。これを支援して失敗してもサポートする組織を作り、生かさないと、新しいアイデア出てこないですよ」

 朴「60歳以上の世代は規制や業界ルールに強いんです。経験から来る知恵、ノウハウは安く買える時代になった。そして若手はIT当たり前の世代として、新しい企業人に育てることができる」

 斉藤「私がよく言うのは、いいじゃん。日本で冒険して失敗しても、米国に行けばいいんだよ。人によってはアップグレードになるからって。日本の人口は世界の1.7%なんですよ。何でここまで、1.7%の市場のために苦労しなきゃならないんだよ!(笑)。2050年には1%切っていますからね。すぐに海外でやらないと、どう頑張っていても小さくなっているマーケットなんだから」

 朴「この前中国に行ってきましたが、よく聞くような1970年代の日本のよう。新しいものはとにかく仕入れるし、強い生命力を感じます。こちらもパッションでガツガツやって行かないと」

 斉藤「中国といえば味千ラーメン。創業者の女性が来日している際に、熊本ラーメンを食べて感動して、ライセンスを持って中国で展開しました。日本でラーメン屋、というと、個人経営を思い浮かべますが、アントレプレナーとはハイテクだけじゃなく、ラーメン屋でもなれるんだよ。結局やり方でありリーダーシップであり、パッションなんです」

 朴「今の日本はこれじゃダメだ!と言われてガスが充満している状態です。また、アントレプレナーが生まれにくい環境だとも言われ、僕もそう思います。でも、この状況はプレーヤーとして考えるとチャンスなんです。ここに、日本型ベンチャー企業の正しいロールモデルを示したい。多くのベンチャーが、日本発で出ていける土壌を作りたいんです。特にモノづくりのアントレプレナーっていない。だからこそやりがいがあるんです」

 <プロフィール>
 朴栄光(パク・ヨンガン)
 イービーエム代表。下町育ちの起業家。早大院理工学研究科在籍中の2006年、東京都大田区で起業。外科手術訓練シミュレーターの開発、販売を行う。社名の由来はエンジニアリング・ベースド・メディスン(工学的見地に基づいた医療)。2011年、世界経済フォーラムが選ぶ日本の若手リーダーの一員に選出された。「日本発モノづくりベンチャーで世界を目指す」33歳。

 斉藤ウィリアム浩幸(さいとう・うぃりあむ・ひろゆき)
 インテカー代表。米国育ちの 日本人起業家、ベンチャー投資家。コンピューター好きが高じて10代で起業。セキュリティーソフトウエア事業で国際的な成功を収める。2004年に米マイクロソフトに事業売却。活動拠点を東京に移し「起業家として成功するきっかけを与えてくれた日本への恩返し」として、ベンチャー企業への投資や教育活 動を行う。世界経済フォーラム役員、国家戦略会議委員、内閣府本府参与(科学技術・IT戦略担当)など役職多数。44歳。


日刊工業新聞2012年06月25日 最終面を加筆・修正

COMMENT

明豊
デジタルメディア局
局長

対談場所は、当時できたての渋谷・ヒカリエ。ヒカリエはディー・エヌ・エーやLINEなどが入居するITメガベンチャーの聖地になりつつあり、スタートアップのイベントも数多く開催されている。その中で、モノづくりベンチャーにこだわる朴さんの気概が、とてもコントラストを映し出していた。

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