ノーベル賞研究支えた20年、自前の研究者持たない“JST”という存在

「おもしろい研究」と「役に立つ研究」 双発を長期的な視点で支援

 政府の掲げた第1期科学技術基本計画の開始とともに設立した科学技術振興機構(JST)が10月で20周年を迎えた。研究開発支援ではノーベル賞受賞の青色発光ダイオード(LED)の赤崎勇名城大学終身教授や、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の山中伸弥京都大学iPS細胞研究所所長らの活動を支えた。近年は実用化に向けた産学連携の事業が拡大している。通常の研究機関とも単純な研究支援機関とも異なる独自の存在を振り返る。

実用化へ産学連携拡大、研究者結びつけ


 JSTが「科学技術振興事業団」として誕生したのは特殊法人の整理・合理化が取り上げられていた1996年の10月のこと。文部科学省(当時は科学技術庁)傘下の「新技術開発事業団」の新技術開発と、「日本科学技術情報センター」の文献情報の2事業を引き継いだ。第1期から現在の第5期まで、科学技術基本計画とともに歩んできた。

 JSTは政府、文科省の科学技術政策の中核的な実施機関として機能する。大学や企業が取り組む研究開発活動に対する「研究費配分機関(ファンディングエージェンシー)」という性格を持つ。科学研究費助成事業(科研費)を担当する日本学術振興会(JSPS)と同様だ。

 一方で戦略的な研究遂行の主体として、効率化ではなく成果最大化を使命とした「国立研究開発法人」でもある。この点では理化学研究所などと同じ位置付けだ。全国の研究者を結びつけて研究開発を推進する“ネットワーク型研究所”を掲げており、自前の研究施設や研究者を持たないことで逆に、それぞれの研究テーマに最適の設計が可能だ。

(ヒトiPS細胞=山中京大教授提供)

LEDの実用化で収入56億円


 JSTの年間予算規模は1200億円弱(16年度、支出ベース)。ノーベル賞級の基礎研究を進める「戦略的創造推進研究事業」がほぼ半分だ。同じ基礎研究でも、科研費が研究者の好奇心に任せた学術基礎研究を対象とするのに対し、JSTの事業は政策に沿った戦略的な目的基礎研究だ。

 「ERATO(エラトー)」は優れた研究総括をトップに据えた富士山型のチーム研究で、「野依分子触媒プロジェクト(総括責任者は野依良治氏)」「中村不均一結晶プロジェクト(同中村修二氏)」などがノーベル賞受賞を後押しした。

 これに対し、優れた研究者がチームを組む「CREST(クレスト)」は八ヶ岳型。京大の山中所長もチームに加わっていた。数十人の合宿を行うなど、若手の人材育成を目的とした「さきがけ」と合わせ、これらはトップクラスの研究支援として知名度が高い。

 次いで予算の2割と大きいのが、実用化に向けた産学連携の研究開発事業だ。拠点形成型の「センター・オブ・イノベーション(COI)」、大学などの技術の事業化に向けて多面的に支援する「A―STEP(エ―ステップ)」などが走る。

 この産学連携のうち「委託開発」は前身の機関で始まった長寿事業だ。「企業の実用化研究で、研究費返済やロイヤリティー支払いは成功・失敗の状況に応じて」という骨格は変わらない。

 これを活用して豊田合成は青色LEDの実用化にこぎつけ、JSTは56億円(13年時点)のロイヤリティー収入を手にした。


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日刊工業新聞2016年10月31日

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明 豊

明 豊
11月05日
この記事のファシリテーター

 2016年のノーベル生理学医学賞が決まった東京工業大学の大隅良典栄誉教授の「オートファジー」の研究は、JSTではなく同じ政府系機関の日本学術振興会(JSPS)が配分する科学研究費助成事業(科研費)の成果だった。科研費は研究者の自由な発想を支援する学術基礎研究のための公的投資。科学の芽を見つけ出す研究者にとっての「おもしろい研究」が対象となる。その対極にあるのが企業が拠出する産学共同研究費だ。製品化によって利益を期待できる「役に立つ研究」に投じられる。
 JSTの事業は、この両者の中間に位置しているのが特徴。国の科学技術政策を背景に「おもしろい研究」と「役に立つ研究」の双方を支援する。ここで重要なことは成果を長期視点でみていくことだろう。

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