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「ブラック・スワン」著者、ナシム・ニコラス・タレブ氏インタビュー

長い歴史を持っている企業の方がこれから先も生き延びる
「ブラック・スワン」著者、ナシム・ニコラス・タレブ氏インタビュー

タレブ氏

 2007年刊行の著作「ブラック・スワン」(用語参照)で、人間の思考プロセスには大きな欠陥があることを、不確実性やリスクとの関係から解明して、産業界の話題をさらったナシム・ニコラス・タレブ氏。講演のため来日したタレブ氏に、企業が存続していく条件などについて聞いた。

 ―講演で「長い歴史を持っている企業の方がこれから先も生き延びる」と。その根拠は何でしょう。
 「長い歴史を持つ日本企業は、戦争という困難な時期を乗り越え、その後は社内のチャレンジで循環する活力を得てきた。『企業は収益よりも長きにわたって存続することの方が大事だ』ということをわかっている。“ブラック・スワン”のような問題に、日本企業の方が新興国などに比べ経験値があり容易に対応できる」

 ―一方で日本企業は柔軟性や決断力を欠く部分もあります。
 「ビジネスプランにこだわりすぎると、外部環境を無視することになるので意味がない。3−6カ月ごとに立て直したり、レビューを続けたりすることが大切だ。米国のティファニーはもともと文房具屋だった。結婚式の招待状を作っていたが、そこから結婚式に必要な宝石などを扱うようになって成長した」

 ―株主資本利益率(ROE)に懐疑的な経営者もいます。
 「ROEは高いがロシアンルーレット(危険な賭け)をやり続けて企業が死んでしまったら意味がない。『無駄にしないリスク』を勘案しないと、ROEはもっともばからしい指標になる」

 ―少子高齢化は日本経済の大きなリスク要因になりますか。
 「リーマン・ショックの前後で失業率が変わっていないのなら、人口減少はさほど問題ではない。高齢者が社会に価値を生み出さなくなることが問題なのだ。米国ではごく一部を除き、能力を発揮できる間は退職時期を区切られない。日本は65歳くらいが定年と聞く。いまや100歳まで生きる時代だ」

 ―インターネット革命でイノベーションの重心が「組織」から「個人」に移っていく可能性があります。
 「次に出す本のタイトルは『なぜ企業は必要なのか』。1965年に自宅ではみんなテレビを見ていたが、今は参加交流型サイト(SNS)をしている。しかし企業のカタチはそこまで大きく変わっていない。企業に属している人ではないと信頼関係を持ってビジネスを推進できないし、企業は全体に必要。大企業は小さいユニットがそれぞれリスクをとる形態が良い」

【用語】ブラック・スワン=ほとんどありえない事象、誰も予想しなかった事象の意味。タレブ氏は、いったん起きてしまうと、それらしい説明がされ、実際よりも偶然には見えず、最初から分かってたような気にさせられる特徴を指摘した。
日刊工業新聞2016年11月4日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
先日、日立イノベーションフォーラムで来日したタレブ氏。その合間の時間のインタビューに同席させてもらった。日本の企業システムや働き方、イノベーションの生み方がこれからも大きく変わっていかないのではないか、と個人的にちょうど考えていたところなので、逆に日本企業の“良い作法”というものを改めて掘り下げてみたい。

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