生物に学ぶモノづくり!―バイオミメティクス分科会、日立など16社参加
日立製作所やリコー、日本化薬など電機や化学、ITなどの企業が集まり、生物の持つ優れた機能や形状などをモノづくりに応用するバイオミメティクス(生物模倣技術)の活用に乗り出す。バイオミメティクスに関する技術マップや人材マップを作成するほか、学会と連携し、産業分野のニーズと学術分野のシーズを合致させる。新しいモノづくりや技術開発、環境負荷の少ない生産プロセスなど、産業界が抱える課題解決にバイオミメティクスを役立て、産業化を進める。
バイオミメティクスの活用にあたり、ナノテクノロジービジネス推進協議会(NBCI、東京都千代田区)は4月に「バイオミメティクス分科会」を設立した。
電機、化学、IT、建設、印刷など16社が参加。オブザーバーとして産業技術総合研究所、新エネルギー・産業技術総合開発機構、物質・材料研究機構が参加する。学術分野の知見を生かすため、高分子学会バイオミメティクス研究会(会長・下村政嗣千歳科学技術大学教授)と連携する。
分科会は2カ月に1回程度開き、有識者を招いて意見交換する。多様な分野にわたるバイオミメティクスの技術と人材を俯瞰(ふかん)できるように技術マップと人材マップを作成する。ISO(国際標準化機構)が進めているバイオミメティクスの標準化活動にも取り組む。将来は国への提言や国のプロジェクトへの参画も視野に入れる。
バイオミメティクスはいくつかの事例が産業界で活用され始めている。例えば、ハスの葉の表面には水をはじく「ロータス効果」では、この原理を応用した塗料や屋根材、布などが開発されている。ただ、最近はナノテクノロジーの進展で電子顕微鏡によりナノ(10億分の1)レベルで生物の構造が明らかになり、生物学と材料工学を結びつけたバイオミメティクスの可能性が出て来た。
(日刊工業新聞2015年05月18日 総合1面)
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バイオミメティクス開発例
バイオミメティクス(生物模倣)の本格的な研究が始まっている。バイオミメティクスは、生物のもつ優れた機能を模倣し、モノづくりに利用する技術である。身近な製品例は、面ファスナーがある。これは衣服にくっつく、キク科1年草のオナモミのかぎ針構造(図1)を模倣したものである。バイオミメティクスは1950年代に提唱された概念であり、長い研究開発の歴史を持つ。
バイオミメティクスは大きく材料系と機械系、化学系に分類される。材料系では、北京オリンピックで話題になったサメの肌を模倣した高速水着がある。一方、機械系は、新幹線の先頭形状をカワセミのくちばしに模倣することで、トンネル通過時の騒音を抑えることができた例がある。また、化学系では生物の酵素をまねた人工酵素を使った消臭フィルターなどが開発されている。
こうした身近な応用例は多数あるが、個々の製品の市場規模は小さく、産業としての成功例は極めて限定的であった。しかし、電子顕微鏡による観察技術の進展や、ナノテクノロジーの応用によって材料系のバイオミメティクス研究が欧米を中心に再度活発になってきた。特許の公開件数(図2)からも07年以降、材料に関する研究開発が活発化していることで裏付けられる。
例えば、13年にドイツのルフトハンザ航空がエアバスA340の機体にサメの肌を模倣した機体塗料を塗布して飛行試験を行い、燃費改善につながる成果を得ている。ただし塗料では機体が重くなるため、機体材料そのものの改良が検討されているという。
日本でも、ヤモリの足裏の微細な繊維を、カーボンナノチューブを用いて模倣し、接着剤なしでもよくくっつき、簡単にはがせるヤモリテープを日東電工が開発した。電子部品の固定などへの用途展開が考えられている。また、日本ペイントマリンはマグロの体表面を模倣した船底用塗料を開発した。高速で海中を泳ぐことができるマグロの表面は粘膜で覆われている。同社はヒドロゲルを用いることでこれを再現した。燃料消費量を4%以上改善できるといい、すでに1350隻に使用されている。ただし、世界の塗料生産の中で船舶用塗料の占める割合は3%(09年)であり、やはり市場はあまり大きくない。
バイオミメティクスの活用にあたり、ナノテクノロジービジネス推進協議会(NBCI、東京都千代田区)は4月に「バイオミメティクス分科会」を設立した。
電機、化学、IT、建設、印刷など16社が参加。オブザーバーとして産業技術総合研究所、新エネルギー・産業技術総合開発機構、物質・材料研究機構が参加する。学術分野の知見を生かすため、高分子学会バイオミメティクス研究会(会長・下村政嗣千歳科学技術大学教授)と連携する。
分科会は2カ月に1回程度開き、有識者を招いて意見交換する。多様な分野にわたるバイオミメティクスの技術と人材を俯瞰(ふかん)できるように技術マップと人材マップを作成する。ISO(国際標準化機構)が進めているバイオミメティクスの標準化活動にも取り組む。将来は国への提言や国のプロジェクトへの参画も視野に入れる。
バイオミメティクスはいくつかの事例が産業界で活用され始めている。例えば、ハスの葉の表面には水をはじく「ロータス効果」では、この原理を応用した塗料や屋根材、布などが開発されている。ただ、最近はナノテクノロジーの進展で電子顕微鏡によりナノ(10億分の1)レベルで生物の構造が明らかになり、生物学と材料工学を結びつけたバイオミメティクスの可能性が出て来た。
(日刊工業新聞2015年05月18日 総合1面)
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バイオミメティクス開発例
バイオミメティクス(生物模倣)の本格的な研究が始まっている。バイオミメティクスは、生物のもつ優れた機能を模倣し、モノづくりに利用する技術である。身近な製品例は、面ファスナーがある。これは衣服にくっつく、キク科1年草のオナモミのかぎ針構造(図1)を模倣したものである。バイオミメティクスは1950年代に提唱された概念であり、長い研究開発の歴史を持つ。
バイオミメティクスは大きく材料系と機械系、化学系に分類される。材料系では、北京オリンピックで話題になったサメの肌を模倣した高速水着がある。一方、機械系は、新幹線の先頭形状をカワセミのくちばしに模倣することで、トンネル通過時の騒音を抑えることができた例がある。また、化学系では生物の酵素をまねた人工酵素を使った消臭フィルターなどが開発されている。
こうした身近な応用例は多数あるが、個々の製品の市場規模は小さく、産業としての成功例は極めて限定的であった。しかし、電子顕微鏡による観察技術の進展や、ナノテクノロジーの応用によって材料系のバイオミメティクス研究が欧米を中心に再度活発になってきた。特許の公開件数(図2)からも07年以降、材料に関する研究開発が活発化していることで裏付けられる。
例えば、13年にドイツのルフトハンザ航空がエアバスA340の機体にサメの肌を模倣した機体塗料を塗布して飛行試験を行い、燃費改善につながる成果を得ている。ただし塗料では機体が重くなるため、機体材料そのものの改良が検討されているという。
日本でも、ヤモリの足裏の微細な繊維を、カーボンナノチューブを用いて模倣し、接着剤なしでもよくくっつき、簡単にはがせるヤモリテープを日東電工が開発した。電子部品の固定などへの用途展開が考えられている。また、日本ペイントマリンはマグロの体表面を模倣した船底用塗料を開発した。高速で海中を泳ぐことができるマグロの表面は粘膜で覆われている。同社はヒドロゲルを用いることでこれを再現した。燃料消費量を4%以上改善できるといい、すでに1350隻に使用されている。ただし、世界の塗料生産の中で船舶用塗料の占める割合は3%(09年)であり、やはり市場はあまり大きくない。
日刊工業新聞2015年01月14日 素材・ヘルスケア・環境面を一部抜粋・修正