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CMの視聴率が番組本編を上回ったキリンビールのマーケティングとは

スマホゲームと連動、視聴者参加で親近感。「氷結」以外に応用も
CMの視聴率が番組本編を上回ったキリンビールのマーケティングとは

スマホを活用した「視聴者参加型CM」でマーケティングを強化

 キリンビールは民放テレビ大手と共同で、スマートフォンとテレビコマーシャル(CM)を連動させたマーケティングを試みている。9月に缶チューハイ「氷結」の、視聴者参加型テレビCMを実施した。番組放映中のCMで、視聴者がスマホを使用してゲームに参加すると、指定のコンビニエンスストアで商品の引換券が先着順でもらえる仕組み。CMは2回実施し、ゲーム参加者は合計約8万1000人。CMの視聴率が番組本編を上回る、異例の反響を得た。大手メーカーはメディアとツールを融合し、顧客の囲い込みに工夫を凝らしている。

 キリンビールは視聴者参加型テレビCMの反応が良かったため、続編企画も検討中だ。CMでは、タレントなどが商品特徴を一方的に伝えるスタイルが一般的だ。視聴者の中にはCMになるとトイレなどに席を立ち、番組が始まると戻る人もいる。

 それが今回のCMでは、1回目が番組の平均世帯視聴率14・8%に対しCMが16・7%、2回目が番組の同13・5%に対しCMが14・8%と異例の動きをみせた。番組よりCMを見た人が、多かった計算だ。

 氷結の缶には“ダイヤカット”と呼ばれる、ひし形の凹凸が刻まれている。CMはこのダイヤカットが水面を覆う氷に見立て、視聴者がスマホ画面を軽く叩(たた)くようにタップし続けると氷が割れ、中の氷結がもらえる。

 CMの1回目は氷が割れると商品がもらえるが、2回目は視聴者がスマホ画面をタップすると、氷が割れてタレントが熱湯の中に落ちてしまう“お笑い”の要素を持たせた。CMが終わるとゲーム参加者のスマホ画面が切り替わり、氏名や引き換え希望コンビニなどの個人情報を入力し、クーポンを受け取る。

 このCMを試行した番組は、1回目が日本テレビ系「踊る!さんま御殿!!」、2回目が同「ものまねグランプリ」。ともに20―30代の若者層に人気が高いという。キリンは、若者層が多く見る番組のCMで参加を募ることで、商品への親近感と連帯感を高め購買行動へ誘導する狙い。

 今後の展開は未定だが、同様のスタイルで主力ビールの「一番搾り」や「のどごし」、キリンビバレッジの飲料「生茶」「ファイア」にも応用できそうだ。会員制交流サイト(SNS)などでテレビCM情報が拡散すれば、間接的な商品PRにもつながる。

 缶チューハイも清涼飲料も、販売競争が激しい。スマホ普及で若者がテレビを見なくなったと言われて久しいが、工夫次第で活用法もありそうだ。
(文=嶋田歩)
日刊工業新聞2016年10月26日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
ビデオリサーチが今月から「タイムシフト視聴率」「総合視聴率」など新しい指標の提供を始めた。今後、番組とCMの境界線がさらに低くなっていくことも考えられる。ナショナルクライアントと局の関係もさらに変わっていくだろう。個人的には、生放送でどうしても見てたい、という番組がもっと増えて欲しい。みんなが同じ時刻に放送をみる体験、共有感は視聴する側にもまだまだ残っているはず。昭和30年代、40年代とは違った新しい価値が生まれるインフラもある。

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