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世界的なドル不足で「人民元」に期待高まる

通貨体制の地殻変動か
 ハーバード大学のラインハルト教授は国際通貨基金(IMF)報告書で、現在、世界にドル不足が起こり、第二次世界大戦終了後の現象と似ていると報告している。戦後、欧州や日本は国土に甚大な被害を受け、産業の復興に多大な努力を要した。一方、戦勝国の米国は国土を焼失することもなく、唯一の資本提供国となった。マーシャルプランがその要である。米ドルが基軸通貨として世界経済を支配した。

 戦後の欧州も日本も米国からの資本を受け入れ、産業を復興し、製品を米国へ輸出してドルを稼ぎ、さらなる資本投下で生産を拡大していった。この時に経常黒字を維持するために、欧州諸国は米国からの輸入を減らそうとした。

 同じく戦後の日本でも資本規制があり、当時1ドル=360円の固定相場で、海外への資金の持ち出しも制限されていた。輸入品も高かった。闇市でドルが高値で取引された。これが1950年代初頭の状況である。

発展途上国で闇市が


 それから70年たってグローバル化と自由な資本の21世紀となった今、ドル不足が再び起こっている。特に発展途上国でドルを求めて闇市が立っているという。

 今回ドル不足に悩む国々は敗戦国ではなく、産油国を中心としたアフリカ、中東、中米地域の資源国である。なぜそうした事態が起こっているのか。

 01年に中国は世界貿易機関(WTO)に加盟し、世界貿易圏のメンバーに迎え入れられ、以後10年近くにわたり世界の工場として2ケタの経済成長を遂げた。

 中国市場の生産需要を見込んで投資ブームに沸き2000年初頭から資源価格が高騰し、その恩恵を受けて新興市場(BRICs)が台頭した。新興諸国は経済成長とともに米ドルに自国通貨を連動させ、米国債を準備金に積んで行った。

 ところが14年以来、資源安のため資源国ではドル建て準備金を取り崩し、ドル不足が加速している。特にベネズエラはドル不足に加え、急激なインフレに見舞われ、食料不足から国民経済が破綻寸前に追い込まれている。

 IMFでは次なるマーシャルプランの担い手として中国へ期待があるようだ。人民元の国際化を狙う中国にとってはチャンスであろう。筆者は、国際秩序が大きく変動するなか、米中関係の行方を注視している。

 かつてのニクソンショックでは、米国は中ソ対立に乗じてベトナム戦争終結を図った。そのウラには膨大な戦費と財政赤字に歯止めをかける狙いがあった。ドル救済のために71年にニクソン大統領は一方的に金の固定交換比率を停止した。

 そして、石油ショックを経て、ドルは金に代わり原油を裏書きとした通貨として中東や産油国を潤した。しかし、今や資源とドルの通貨体制も変わろうとしている。
(文=大井幸子・国際金融アナリスト兼SAIL社長) 
日刊工業新聞2016年10月28日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
オバマ政権はIMFで中国の議決権を高めることを容認した。「ドル1強」体制は少しずつ変化の兆しを見せつつあるが、依然決済の8割はドル建て、世界の外貨準備の6割超もドルが占める。ただ直近では米利上げ観測などでドル調達コストの上昇につながる可能性があり、またTPPが失敗すればアジアは中国を軸とした貿易体制になる、という見方も一部にある。 一方でベネズエラなどの例でもあるように、中国の政府主導による開発融資がうまくいっていないケースもある。中国の野心が勝ちすぎている。不安定な通貨体制はぞのな世界経済の不安定さにつながる。

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