『浦和の調(うさぎ)ちゃん』はアニメの巡礼地になるか!?『らき☆すた』に追いつけ
一過性のブームに終わせないために。地域の資産や魅力と結び付ける努力必要
さいたま市の浦和地区を舞台にしたご当地アニメ『浦和の調(うさぎ)ちゃん』が市や埼玉県などの関係者から注目されている。ご当地を前面に出し、地域の活性化につながるビジネスモデルを持ち合わせているためだ。県内ではアニメ作品のゆかりの地をファンが訪ねる“聖地巡礼ブーム”の火付け役となった『らき☆すた』などの成功事例が知られる。新たなご当地アニメはどのような“活性化の息吹”を吹き込むだろうか。
【アニメの聖地に】
『調ちゃん』に出演する声優3人が2月、埼玉県の上田清司知事を表敬訪問した。この訪問を仕掛けた県の観光課はアニメやマンガを地域の活性化に生かす取り組みを2008年度から進めている。「県全体をアニメの聖地に」を旗印にしており、担当者は「連携できるところがあれば積極的に連携したい。こういう作品が他にも出てくるよう、できる限りバックアップしたい」と新たなご当地アニメを歓迎する。
個性豊かな女子高生8人の日常を描いたオリジナルアニメ作品で、製作はharappa合同会社(さいたま市桜区)とテレビ埼玉。4月にテレビ埼玉などで放送が始まった。タイトルはウサギが守り神の調(つき)神社(さいたま市浦和区)が由来だ。作品の中では地元の人にとって見覚えのある街並みや県内で有名なまんじゅうなど、ご当地を感じさせる場面が随所に出てくる。
【声優も県内出身】
浦和らしさを盛り込もうと武蔵浦和、南浦和、北浦和など「浦和」の名が付くさいたま市内の八つの駅をモチーフに8人のキャラクターを設定。高砂調(うさぎ)、道祖土(さいど)緑、三室美園(みその)など駅周辺の地名や区名などを基に名前を付け、各駅周辺の特徴やイメージもキャラクター設定に生かした。出演する声優も県内出身者で固めた。
県の担当者は「最初からご当地を核にしており、行政としても支援しやすい作品」と話す。
県内には『らき☆すた』の舞台となった鷲宮神社(久喜市)をはじめ、アニメのファンが訪ねる“聖地”がいくつもある。“聖地巡礼”が後から地域の活性化につながった例が多いのに対し、『調ちゃん』は最初から地域活性化を狙っている。
さいたま市産業創造財団主催のビジネスプランコンテスト「さいたま市ニュービジネス大賞」で14年秋に「コミュニティビジネス賞」を受賞するなどビジネスモデルの評価も高い。3月までコンテストを担当した同財団の笠原利光氏は「コラボレーションによってさまざまな商品が生まれ、さいたま市が“聖地巡礼”の地になってほしい」と期待する。
『調ちゃん』ではさいたま市や県、地元の商店会などがPRの際にキャラクターを無料で使えるようにした。埼玉県牛乳商業組合とポスターを作成したり、埼玉高速鉄道が浦和美園駅で登場キャラクターをデザインしたきっぷを限定販売するなど連携を形にした例もすでに出ている。
harappaは『調ちゃん』のために14年に設立。三澤友貴代表社員は「どうすれば地元の人に受け入れられるのか、売れるのかを考えた結果、(キャラクターの展開だけにせず)アニメを選んだ」と説明する。収入の基本は関連グッズやDVDの販売、イベント開催となるが、「アニメがすごいのはキャラが生き生きすること。イベントにはキャラ目当ての人と声優目当ての人の両方が来てくれる。アニメにすることで広がりが違ってくる」(三澤代表社員)という。
【露出を継続】
「『継続は力なり』だと思うので何らかの形でずっと露出していきたい」。三澤代表社員は今後もさまざまな仕掛けでキャラクターの“地域定着”を目指す。さいたま市の岡安博文経済局長は地域の活性化に向けて「メディア産業を応援するのも一つの手段」と考え、市のネットワークを生かして関係者を紹介するなど『調ちゃん』を継続して後押ししてきた。
「ご当地アニメをきっかけに(地域への)来訪者を増やしたい。若者をたくさん呼べるような仕組みにつながれば」としている。
<私はこう見る>博報堂スマート×都市デザイン研究所所長・深谷信介氏
これまでPRが得意ではなかった行政が、ロケ地紹介や撮影協力するシティープロモーションを観光振興や定住促進のために取り組むケースが全国的に増えてきた。アニメやドラマで地域の魅力が伝えられれば、観光などでの来街が増え、交流人口は増やすことができる。コンテンツや作家ゆかりの地を訪れれば、飲食などの消費だけでなく、地域との関わりが生まれる。
古くは『サザエさん』の東京・桜新町などは住みたい町としても人気が高い。訪ねた町の資産を発見することはUターン、Iターン居住のチャンスとなる。ただ、コンテンツ自体の人気・成熟度によるので、育っていない場合は、町の魅力をゼロから作ることに近いともいえる。
地方創生の文脈からすると地域資産を体験してもらうことの恩恵は大きい。とはいえ、世界遺産認定地でさえ見られるように、一過性のブームに終わる場合もある。地域にある資産、魅力を見つけて継続して磨いていくことが大切だ。
【アニメの聖地に】
『調ちゃん』に出演する声優3人が2月、埼玉県の上田清司知事を表敬訪問した。この訪問を仕掛けた県の観光課はアニメやマンガを地域の活性化に生かす取り組みを2008年度から進めている。「県全体をアニメの聖地に」を旗印にしており、担当者は「連携できるところがあれば積極的に連携したい。こういう作品が他にも出てくるよう、できる限りバックアップしたい」と新たなご当地アニメを歓迎する。
個性豊かな女子高生8人の日常を描いたオリジナルアニメ作品で、製作はharappa合同会社(さいたま市桜区)とテレビ埼玉。4月にテレビ埼玉などで放送が始まった。タイトルはウサギが守り神の調(つき)神社(さいたま市浦和区)が由来だ。作品の中では地元の人にとって見覚えのある街並みや県内で有名なまんじゅうなど、ご当地を感じさせる場面が随所に出てくる。
【声優も県内出身】
浦和らしさを盛り込もうと武蔵浦和、南浦和、北浦和など「浦和」の名が付くさいたま市内の八つの駅をモチーフに8人のキャラクターを設定。高砂調(うさぎ)、道祖土(さいど)緑、三室美園(みその)など駅周辺の地名や区名などを基に名前を付け、各駅周辺の特徴やイメージもキャラクター設定に生かした。出演する声優も県内出身者で固めた。
県の担当者は「最初からご当地を核にしており、行政としても支援しやすい作品」と話す。
県内には『らき☆すた』の舞台となった鷲宮神社(久喜市)をはじめ、アニメのファンが訪ねる“聖地”がいくつもある。“聖地巡礼”が後から地域の活性化につながった例が多いのに対し、『調ちゃん』は最初から地域活性化を狙っている。
さいたま市産業創造財団主催のビジネスプランコンテスト「さいたま市ニュービジネス大賞」で14年秋に「コミュニティビジネス賞」を受賞するなどビジネスモデルの評価も高い。3月までコンテストを担当した同財団の笠原利光氏は「コラボレーションによってさまざまな商品が生まれ、さいたま市が“聖地巡礼”の地になってほしい」と期待する。
『調ちゃん』ではさいたま市や県、地元の商店会などがPRの際にキャラクターを無料で使えるようにした。埼玉県牛乳商業組合とポスターを作成したり、埼玉高速鉄道が浦和美園駅で登場キャラクターをデザインしたきっぷを限定販売するなど連携を形にした例もすでに出ている。
harappaは『調ちゃん』のために14年に設立。三澤友貴代表社員は「どうすれば地元の人に受け入れられるのか、売れるのかを考えた結果、(キャラクターの展開だけにせず)アニメを選んだ」と説明する。収入の基本は関連グッズやDVDの販売、イベント開催となるが、「アニメがすごいのはキャラが生き生きすること。イベントにはキャラ目当ての人と声優目当ての人の両方が来てくれる。アニメにすることで広がりが違ってくる」(三澤代表社員)という。
【露出を継続】
「『継続は力なり』だと思うので何らかの形でずっと露出していきたい」。三澤代表社員は今後もさまざまな仕掛けでキャラクターの“地域定着”を目指す。さいたま市の岡安博文経済局長は地域の活性化に向けて「メディア産業を応援するのも一つの手段」と考え、市のネットワークを生かして関係者を紹介するなど『調ちゃん』を継続して後押ししてきた。
「ご当地アニメをきっかけに(地域への)来訪者を増やしたい。若者をたくさん呼べるような仕組みにつながれば」としている。
<私はこう見る>博報堂スマート×都市デザイン研究所所長・深谷信介氏
これまでPRが得意ではなかった行政が、ロケ地紹介や撮影協力するシティープロモーションを観光振興や定住促進のために取り組むケースが全国的に増えてきた。アニメやドラマで地域の魅力が伝えられれば、観光などでの来街が増え、交流人口は増やすことができる。コンテンツや作家ゆかりの地を訪れれば、飲食などの消費だけでなく、地域との関わりが生まれる。
古くは『サザエさん』の東京・桜新町などは住みたい町としても人気が高い。訪ねた町の資産を発見することはUターン、Iターン居住のチャンスとなる。ただ、コンテンツ自体の人気・成熟度によるので、育っていない場合は、町の魅力をゼロから作ることに近いともいえる。
地方創生の文脈からすると地域資産を体験してもらうことの恩恵は大きい。とはいえ、世界遺産認定地でさえ見られるように、一過性のブームに終わる場合もある。地域にある資産、魅力を見つけて継続して磨いていくことが大切だ。
2015年05月18日 中小・ベンチャー・中小政策面