製造業は”グローバルニッチトップ”を目指せ! 精密加工分野にみる勝ち残り戦略
国内外で成長を続けるモノづくり企業の共通点
日本企業は長期にわたり「良いモノを安く売る」ビジネスモデルを得意としてきた。ただ、これからは「より良いモノを高く売る」ことを目指したい。
欧米の先進国の企業は、大量生産によって価格を下げて市場の主導権を握ることをビジネスの成功モデルとしてきた。日本も高度成長期にこのモデルを踏襲。半導体や自動車などで米国を脅かし、通商摩擦を起こすまでになった。
しかし、より安価な労働力を有する国が台頭すればこのビジネスモデルが立ちゆかなくなることは分かっていた。いくらシェアがあっても、性能や品質で他社と有意な差をつけられなくなれば価格競争に走りがちになる。結果として、企業は安い労働力を求めて途上国に生産拠点を移す。生産拠点を得た途上国は技術や資金を蓄え、急速に先進国を追撃する。
「良いモノを安く売る」モデルは、今や新興国の製造業のものだ。先進国の成功モデルを、比較的労働力が安かった韓国や台湾をはじめ「世界の工場」から急成長した中国も踏襲した。結果として、かつて米国がいくつもの製造業の分野で敗退したように日本も造船、半導体、家電などでトップの座を失った。
日本は今、岐路に立たされている。より安い労働力と市場を求めてアフリカに進出するか。それともフェラガモやポルシェなど欧州の一部企業にみられるように、ブランドを認めて対価を払う顧客に絞る「良いモノを高く売る」道に進むか。
しかし、このいずれでもない「より良いモノを高く売る」モデルを生み出せないだろうか。欧州型の伝統や格式を感じられるブランドビジネスに加え、使いやすさなど日本の顧客への気配りを製品に生かす道だ。
日本製品の性能は「匠の技」として知られ、その利用や所有に喜びや感動を感じる顧客は、すでに海外にいる。こうした「匠の技」をさらに磨き、世界に類のない「おもてなし」の精神を販売戦略に練り込めれば、日本の「より良いモノを高く買ってくれる」市場は世界中に広がるだろう。
日特エンジニアリングは巻線機メーカーとして国内外に販売網を拡大している。17カ所目の海外拠点をオーストリアに設立し、4カ月が経過した。海外市場の開拓を進める近藤進茂社長に、新拠点や市場を開拓する上での自社の強みなどを聞いた。
―オーストリアに現地法人の日特ヨーロッパ(現連結子会社)を設立しました。
「今まで欧州では販売とメンテナンスのみを行っていたが、技術ソリューションと開発ができる拠点を作った。コア部分は日本がやり、開発、デザイン、安全対策などは現地で行うことで、向こうの求めるモノを提供できる。そうすることで、マーケットは確実に広がるだろう。現在は10人体制だが、3年後をめどに50人に増やす予定だ」
―投資金額と売り上げ目標は。
「投資金額は5億円。売り上げ目標は3―5年後をめどに、日本と合わせて50億円くらいにしたい」
―自社の強みは何ですか。
「17カ所の拠点それぞれに日本語を話せるスタッフがいて、コミュニケーションを取りつつ同じ考え方で行動ができるのが強みだ」
―市場のニーズはどこにあると見ていますか。
「現場にある。生産設備で生産性を上げ、品質を上げる。労働生産性を上げるのではなく、資本財で生産性を上げて企業が成長する時代になっている。安い賃金でモノをつくる時代は終わった。生産設備で企業の価値をどう上げていくかという時代になった」
―技術をどういう方針で製品化していますか。
「我々の製品は特殊な機械なので、特定のマーケットの企業だけが顧客だとは思っていない。我々とお付き合いする企業を勝たせる、という意識だ。まんべんなく売るのではなく、限られた顧客に対して製品を進化させて提供し、企業を成長させていく、という考え方だ」
―競合他社との差別化戦略は何ですか。
「競合他社より、顧客の方を見ている。競合他社を見ると、同じレベルの発想になってしまうからだ。顧客の求めるモノを具現化することを第一に考えている」
【在庫管理を徹底】
メトロールは製品在庫の管理も徹底している。90%以上が受注生産で、「3週間後の生産計画は立てていない」と明かす。在庫を持たないことで、保管費などの収益を悪化させる要因をできるだけ排除している。
強気な経営を可能にする背景には、同社の技術力がある。治具とワーク(加工対象物)の精密着座の確認に役立つ繰り返し精度プラスマイナス0・5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)のエアマイクロセンサーなどのオンリーワン製品を常に開発している。「応用製品を含めると、年間10製品程度は開発している」と強調する。
【情報交流】
この製品開発力の基礎となっているのが、営業や技術などの部門の垣根を越えた従業員同士の情報交流だ。オフィスフロアには開発や営業、事務部門などのセクションが集められ、パーテーションで仕切られていない。
精密機械技術や空圧技術、電子技術などの技術者だけの打ち合わせだけでなく、その中に営業部員が自然に加わる企業文化が根付いている。また顧客ニーズについての情報を社内イントラネットに公開することで情報共有ができる体制を構築している。
「考え方はオーケストラだ。各自がプロフェッショナルとして担当する楽器がある。プロの演奏家が意見を出し合って議論することで、一つの楽曲を奏でることができる。メトロールの場合、それが製品になる」。松橋はこう自社を例え、従業員が主体的に考え行動することを推奨する。
外部環境に迅速に対応するために、持たざる経営を軸にするメトロール。この経営手法を支えているのは、各部門を越えた交流によってオンリーワン製品を生み出す”人材力“だ。「付加価値を生み出していかなくては生き残れない。イノベーションが沸いてくるような強い組織を作っていく」と熱く応える。
10月31日(月)16時30分から「新価値創造展2016」(於東京ビッグサイト)でパネルディスカッションを行います。
「ニッチ・トップ市場を拓く、リーディングカンパニーの戦略軸~差異化、マーケティング、人材活用~」
欧米の先進国の企業は、大量生産によって価格を下げて市場の主導権を握ることをビジネスの成功モデルとしてきた。日本も高度成長期にこのモデルを踏襲。半導体や自動車などで米国を脅かし、通商摩擦を起こすまでになった。
しかし、より安価な労働力を有する国が台頭すればこのビジネスモデルが立ちゆかなくなることは分かっていた。いくらシェアがあっても、性能や品質で他社と有意な差をつけられなくなれば価格競争に走りがちになる。結果として、企業は安い労働力を求めて途上国に生産拠点を移す。生産拠点を得た途上国は技術や資金を蓄え、急速に先進国を追撃する。
「良いモノを安く売る」モデルは、今や新興国の製造業のものだ。先進国の成功モデルを、比較的労働力が安かった韓国や台湾をはじめ「世界の工場」から急成長した中国も踏襲した。結果として、かつて米国がいくつもの製造業の分野で敗退したように日本も造船、半導体、家電などでトップの座を失った。
日本は今、岐路に立たされている。より安い労働力と市場を求めてアフリカに進出するか。それともフェラガモやポルシェなど欧州の一部企業にみられるように、ブランドを認めて対価を払う顧客に絞る「良いモノを高く売る」道に進むか。
しかし、このいずれでもない「より良いモノを高く売る」モデルを生み出せないだろうか。欧州型の伝統や格式を感じられるブランドビジネスに加え、使いやすさなど日本の顧客への気配りを製品に生かす道だ。
日本製品の性能は「匠の技」として知られ、その利用や所有に喜びや感動を感じる顧客は、すでに海外にいる。こうした「匠の技」をさらに磨き、世界に類のない「おもてなし」の精神を販売戦略に練り込めれば、日本の「より良いモノを高く買ってくれる」市場は世界中に広がるだろう。
日刊工業新聞2016年7月8日「社説」
日特エンジニアリング社長・近藤進茂氏 「競合他社より、顧客の方を見ている」
日特エンジニアリングは巻線機メーカーとして国内外に販売網を拡大している。17カ所目の海外拠点をオーストリアに設立し、4カ月が経過した。海外市場の開拓を進める近藤進茂社長に、新拠点や市場を開拓する上での自社の強みなどを聞いた。
―オーストリアに現地法人の日特ヨーロッパ(現連結子会社)を設立しました。
「今まで欧州では販売とメンテナンスのみを行っていたが、技術ソリューションと開発ができる拠点を作った。コア部分は日本がやり、開発、デザイン、安全対策などは現地で行うことで、向こうの求めるモノを提供できる。そうすることで、マーケットは確実に広がるだろう。現在は10人体制だが、3年後をめどに50人に増やす予定だ」
―投資金額と売り上げ目標は。
「投資金額は5億円。売り上げ目標は3―5年後をめどに、日本と合わせて50億円くらいにしたい」
―自社の強みは何ですか。
「17カ所の拠点それぞれに日本語を話せるスタッフがいて、コミュニケーションを取りつつ同じ考え方で行動ができるのが強みだ」
―市場のニーズはどこにあると見ていますか。
「現場にある。生産設備で生産性を上げ、品質を上げる。労働生産性を上げるのではなく、資本財で生産性を上げて企業が成長する時代になっている。安い賃金でモノをつくる時代は終わった。生産設備で企業の価値をどう上げていくかという時代になった」
―技術をどういう方針で製品化していますか。
「我々の製品は特殊な機械なので、特定のマーケットの企業だけが顧客だとは思っていない。我々とお付き合いする企業を勝たせる、という意識だ。まんべんなく売るのではなく、限られた顧客に対して製品を進化させて提供し、企業を成長させていく、という考え方だ」
―競合他社との差別化戦略は何ですか。
「競合他社より、顧客の方を見ている。競合他社を見ると、同じレベルの発想になってしまうからだ。顧客の求めるモノを具現化することを第一に考えている」
日刊工業新聞2015年9月22日「市場をつくる」より抜粋
メトロール社長・松橋卓司氏 “持たざる経営”
【在庫管理を徹底】
メトロールは製品在庫の管理も徹底している。90%以上が受注生産で、「3週間後の生産計画は立てていない」と明かす。在庫を持たないことで、保管費などの収益を悪化させる要因をできるだけ排除している。
強気な経営を可能にする背景には、同社の技術力がある。治具とワーク(加工対象物)の精密着座の確認に役立つ繰り返し精度プラスマイナス0・5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)のエアマイクロセンサーなどのオンリーワン製品を常に開発している。「応用製品を含めると、年間10製品程度は開発している」と強調する。
【情報交流】
この製品開発力の基礎となっているのが、営業や技術などの部門の垣根を越えた従業員同士の情報交流だ。オフィスフロアには開発や営業、事務部門などのセクションが集められ、パーテーションで仕切られていない。
精密機械技術や空圧技術、電子技術などの技術者だけの打ち合わせだけでなく、その中に営業部員が自然に加わる企業文化が根付いている。また顧客ニーズについての情報を社内イントラネットに公開することで情報共有ができる体制を構築している。
「考え方はオーケストラだ。各自がプロフェッショナルとして担当する楽器がある。プロの演奏家が意見を出し合って議論することで、一つの楽曲を奏でることができる。メトロールの場合、それが製品になる」。松橋はこう自社を例え、従業員が主体的に考え行動することを推奨する。
外部環境に迅速に対応するために、持たざる経営を軸にするメトロール。この経営手法を支えているのは、各部門を越えた交流によってオンリーワン製品を生み出す”人材力“だ。「付加価値を生み出していかなくては生き残れない。イノベーションが沸いてくるような強い組織を作っていく」と熱く応える。
日刊工業新聞2015年10月27日「成長企業チカラの源泉(14)」から抜粋
イベント開催のお知らせ
10月31日(月)16時30分から「新価値創造展2016」(於東京ビッグサイト)でパネルディスカッションを行います。
「ニッチ・トップ市場を拓く、リーディングカンパニーの戦略軸~差異化、マーケティング、人材活用~」