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粘る百貨店、新業態で再出発する元百貨店

化粧品販売で百貨店の強み生かす。旧松坂屋銀座店は「GINZA SIX」に
粘る百貨店、新業態で再出発する元百貨店

伊勢丹新宿店の化粧品フロアを訪問したファッションモデルのケイト・モスさんとコーセーの小林一俊社長

 百貨店で化粧品の売り上げが順調だ。日本百貨店協会のまとめでは、全国百貨店の化粧品売上高は、9月が前年同月比6・2%増と18カ月連続で前年を上回った。訪日外国人による免税売上高の伸びが要因だが、国内顧客の需要も旺盛で「国内外を問わず好調を持続している」(日本百貨店協会)と見ている。個客に合わせた提案や高級感がある商品展開など、百貨店の強みを生かしている。

 三越伊勢丹ホールディングス(HD)の伊勢丹新宿店(東京都新宿店)では、免税扱いを除いた9月の化粧品売上高は前年同月比1・0%増、4―9月では前年同期比3・3%増だった。

 大西洋三越伊勢丹HD社長は「化粧品は女性にとって最も重要なアイテムであり、他の商品に比べると堅調」と見る。ただ、それだけに顧客囲い込みの競争は厳しくなっており「アイテムを説明できる人材や、『ここでしか買えないモノ』が重要」と語る。

 化粧品は肌に直接付けるという性質もあり、いったん気に入ってもらえば、他の商品に乗り換えるといったことが起こりづらい。このため、景気に左右されにくい商品だとされる。

 百貨店では、美容部員がカウンターで、カウンセリングをして販売する。ドラッグストアや通信販売などを利用する買い物では体験しづらい、個々人に合わせた応対が顧客をつかんでいる。働く女性の増加も追い風だ。手軽に効果が感じられる商品に対しては、少々高価でもお金を出しやすい状況だ。

 百貨店側も需要の取り込みに向け、手を打ってきた。そごう・西武(東京都千代田区)は2015年秋に、西武池袋本店(同豊島区)の化粧品売り場に、20―30代の働く女性向けブランドを集めた「コスメアネックス」や、無料でカウンセリングをするコーナーを設けた。

 同店の化粧品の売上高は拡充前と比べ、2割増で推移している。店外のタッチパネルで商品を注文できるシステムでは、月100件の購入者がいる。

 今月末にはコスメアネックスに、コーセーのスキンケアブランド「雪肌精」の最高級ライン「MYV(みやび)」の関東1号店を開く予定だ。そごう・西武のショッピングサイト「e.デパート」でも販売し、他社との差別化を狙う。

 全国の百貨店の既存店売上高は9月まで、7カ月連続、衣料品は11カ月連続で前年同月実績割れとなっている。

「百貨店はやらないと決めた。誰も見たことのない商業施設つくる」(J・フロント社長)



左から中村邦春住友商事社長、辻慎吾森ビル社長、山本良一J・フロントリテイリング社長、マシュー・ルボゼックL Real Estateマネージングパートナ

 J・フロントリテイリングと森ビル、住友商事、フランスのLVMHグループの不動産投資・開発会社L Real Estateの4社は26日、東京・銀座6丁目の再開発に伴って誕生する商業施設を2017年4月20日に開業すると発表した。銀座エリア最大級の商業施設で名称は「GINZA SIX(ギンザ シックス)」に決定した。六つの世界的ブランドの旗艦店を含めて241店舗が出店する。

 同日、4社の首脳が都内で会見した。森ビルの辻慎吾社長は「銀座は唯一無二の場所。当施設の開業が起爆剤となり、“世界の銀座”に進化することを願う」と述べた。

 銀座6丁目の再開発は13年まで営業していた松坂屋銀座店の建て替えに伴って始動したプロジェクト。店舗跡地と周辺を含めた2街区の一体開発を進めている。敷地面積は約9080平方メートルで建物は地下6階・地上13階建て、延べ床面積は約14万8700平方メートル。7―12階と13階の一部はオフィスとし、地下3階には能楽堂「観世能楽堂」を配置する。

 出店する241店舗のうち122店舗が旗艦店、65店舗が新業態として営業する。免税や外貨両替などのサービスセンターや観光バスの乗降所を設置。初年度に年商600億円、来館者2000万人を目指す。

 山本良一J・フロントリテイリング社長は「ギンザシックスでは百貨店はやらないと決めた。誰も見たことのない、新たな商業施設をつくる」と意気込みを述べた。

 J・フロントリテイリング傘下の大丸松坂屋百貨店はライフスタイル提案型の雑貨店と美術ギャラリーの2店舗を開く。百貨店運営で培った接客ノウハウで差別化する。顧客の駐車を担うバレーパーキングや上顧客向けラウンジなどのプレミアムサービスも手がける。

 節約志向の高まりで消費が停滞している中、化粧品では百貨店ならではの提案力が目立っている。
(文=齋藤正人、江上佑美子)
日刊工業新聞2016年10月27日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
銀座から「松坂屋」の看板が消えるのは少し寂しいですが、これも時代の流れなんですね。ストアブランドの神通力が薄らいでいるのでしょうか。それから百貨店は化粧品という強力な集客の武器を衣料品や非食品の購買に結びつけられないものですかね。

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