ニュースイッチ

JR東日本は英国の鉄道経営権を取得できるか

三井物産と入札準備進む。収益性の高い事業計画カギに
JR東日本は英国の鉄道経営権を取得できるか

写真はイメージ(PIXTA)

 JR東日本が三井物産とタッグを組み、英国の鉄道事業への経営権獲得に大きく前進している。両社はオランダの鉄道事業者アベリオと合弁会社を設立。英国中部の路線網「ウェストミッドランズ」の競争入札の最終選考に残っている。現在、11月末の入札を前に、3社で準備を進めており、落札できれば、2017年10月にも、英国の鉄道事業の運営を担うことになる。落札には、いかに収益性の高い事業計画を練り上げられるかが、カギを握りそうだ。

 JR東と三井物産が参画を目指すウェストミッドランズは、路線延長約899キロメートル。ロンドン近郊の通勤列車とバーミンガム近郊の通勤列車のほか、ロンドン―バーミンガム―リバプールを結ぶ都市間輸送を担う。年間の輸送人員は約6500万人で、いわば「英国の心臓部」(三宅俊造国際業務部担当部長)の路線網だ。

 JR東と三井物産がウェストミッドランズの参画に向けて動きだしたのは、2年前。市場調査などを進め、15年に入札の意思表明を行い、8月に最終選考に残った。既存の運行事業者である英ゴビアとともに2社に絞られ、11月末の入札に参加できる資格を得た。

 英国の鉄道は地上設備と運行が分かれる「上下分離」を採用しており、19の地域に分割して運営している。英運輸省は、7―10年ごとに競争入札で運行事業者の入れ替える「フランチャイズ制」を導入しており、競争入札には外資の事業者の参入も歓迎するなど、門戸を開いている。現在、ウェストミッドランズを運営するゴビアは、英とフランスの企業の合弁会社だ。

実績不足をどうカバーするか


 とはいえ、ウェストミッドランズの入札は既存の運行事業者との競争となるため、壁は高い。JR東はこれまで、タイなどで鉄道事業者に対し、運行やメンテナンスの技術協力は行っているが、本格的な経営の経験は無く、実績不足と評価される可能性もある。

 ただ、勝算がないわけではない。英運輸省は、鉄道の公共性の高さから、事業者に対して厳密に黒字化を求めているわけではない。ウェストミッドランズの14年度の運輸収入は約684億円だが、ゴビアは赤字補填として、約112億円の補助金を受けている。

 運賃体系の見直しやサービスの拡充による利用者の拡大、運行の効率化などで、黒字化や赤字が縮小できる事業計画を打ち出せれば、落札の可能性は高くなる。また、ウェストミッドランズの定時運行率は87・6%と日本に比べ、かなり見劣りする。定時運行は日本の鉄道事業者の得意分野であり、実績をアピールすれば、落札につながりそうだ。

 英の鉄道事業の競争入札は断続的に実施されており、JR東は並行して他の地域の市場調査も進めている。今回の入札の結果に関係なく、今後も英での鉄道事業参入を目指す方針だ。
(文=高屋優理)
日刊工業新聞2016年10月24日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
日立も英国の鉄道(車両)事業を射止めるまで10年以上かかっている。英国に限ったことではないが「列車が戦時徴発されたらどうするか」などビジネスのコアでない部分で理解に苦しむところはある。それもグローバル展開への洗礼。何とか実績を作ってもらいたい。

編集部のおすすめ