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製造装置と材料から見えてくる有機ELの課題

パネルを折りたためても、コスト20万―30万円という現実
製造装置と材料から見えてくる有機ELの課題

ジャパンディスプレイが試作した曲がる有機ELディスプレー

 フラット・パネル・ディスプレー(FPD)製造装置市場は、旺盛な投資が続き、3年連続で売り上げが成長している。中国の大型液晶パネル向けが増えていることに加え、高精細スマートフォン向けの中小型パネル工場が相次いで立ち上がっているのが主な理由だ。中国では低温ポリシリコン(LTPS)液晶向けに装置の納入が進んでいる。

 同時に多くのメーカーが、小型有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)ディスプレー工場への投資を計画している。2017―19年は投資の半分以上が有機EL向けになるのではないか。この旺盛な投資は17―18年にピークを迎え、19年頃から落ち着くと予測しているが、懸念されるのは過剰投資だ。

 現状、唯一の有機ELパネルメーカーである韓国サムスンディスプレイの投資計画では、年間5億―6億枚のパネルを生産できるようになる見通し。これだけでも需要は十分にカバーできる見込みだ。19年頃に中国メーカーの工場が立ち上がっても、競争力を出せるかは疑問だ。この時点で次の投資を見直すことになるだろう。

 現在の投資の中心は、フレキシブル性能を実現するプラスチック基板有機ELパネルだ。発光層をプラスチック基板に塗布する際の支持基盤となるガラス基板からの剥離工程が難しいほか、薄膜トランジスタ(TFT)回路など駆動回路が複雑で、最先端技術が必要になっている。

 有機ELでは当面、さまざまなバックプレーン(駆動回路)技術も登場するだろう。中国メーカーがIGZO(酸化物半導体)に興味を持っているほか、ブイ・テクノロジーはTFTを局所的に結晶化する技術を開発している。

 量産段階に到達するかは不透明だが、LTPS液晶とIGZOを組み合わせたLTPO技術も開発されている。有機半導体やLTPS液晶の新技術など、基盤技術が増えて複雑になっている。10―20年後に何が残るかは見えない。

 プラスチック基板有機ELでは封止技術も重要だ。有機材料は酸素や水に弱い。有機および無機層を重ねて封止膜を形成しているが、これではパーティクル、厚み、柔軟性、生産性、コストなどの問題が生じてしまう。最先端の技術で層の数を減らす方向に進んでおり、有機層を塗布するためにインクジェットの採用が増えそうだ。

 有機ELには製造技術面での課題が多い。装置以上に材料開発による所も大きい。また最大の課題はコストだ。フレキシブルだから価値を出せると言われるが、9・7インチのパネルを折りたたんで5インチにできるとして、そこに20万―30万円払う価値があるか。

 それだけの価値を出せる技術が生まれれば生き残るかもしれないが、結局はコストを下げることが欠かせなくなる。

(文=チャールズ・アニス・IHSテクノロジーシニアディレクター)
日刊工業新聞2016年10月20日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
有機ELでは材料開発も重要なポイントの一つ。青色材料の長寿命化や、封止材の改良、有機材料の劣化防止、輝度向上など課題は多い。フレキシブルにするのなら、表面を保護するコート材も重要だ。最近では化学メーカーも有機EL向けの開発を加速している。パネルメーカーと化学メーカーのより一層の連携が必要だろう。日本は材料技術を得意とする。その真価を発揮して革新的な有機ELパネルを開発し、少しでも局面を変えてほしい。

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