トヨタがスズキとの提携を検討するもう一つの理由

「仲間づくり」だけでない、「学ぶ」姿勢を重要視

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豊田トヨタ社長(左)と、鈴木スズキ会長
 トヨタ自動車とスズキが業務提携に向け動きだした。独フォルクスワーゲン(VW)と“離婚”し自動運転など次世代技術について新たな後ろ盾が欲しかったスズキに対し、トヨタ側のメリットは一見するとわかりにくいかもしれない。それは提携で求める真の果実が規模拡大や共同開発車といった目に見えやすいものではないからだろう。「学び」―。それがトヨタの新時代の提携戦略のキーワードだ。

会談からわずか5日後に発表


 今回の提携に向けた検討は“各論”ありきではない。9月に鈴木修スズキ会長が豊田章一郎トヨタ名誉会長に相談を持ちかけ、鈴木会長と豊田章男トヨタ社長が会談したのが10月7日。発表会見は直後の12日だった。「(スズキと)一緒に検討するというスタートを、まず多くのステークホルダーの方々に知ってもらってから協議を始めるということ」。豊田社長は会見で、こう強調した。

 各論はこれからだが、総論での狙いは大きく二つ示している。一つは「仲間づくり」(豊田社長)。これは比較的わかりやすい。自動運転やコネクティッドカーなどの先進分野では標準化や規格づくりが肝。そこで有利に進めるには他社と手を結び、いかにチームを広げられるかがカギとなる。「自動車メーカーがバラバラにやってたんじゃIT業界に勝ち目がない」(トヨタ首脳)というわけだ。

スズキ、マツダ、ダイハツから「学ぶ」


 そして、もう一つが「学び」。豊田社長はスズキのたけている点について「変化に対応する力」と「周囲を巻き込む力」の二つを挙げた上で「しっかり学びたい」と語った。この学びというのはトヨタの最近の提携戦略で共通しているテーマだ。客観的に自社を見つめ直すことで仕事の進め方を変革したいという思いが根底にある。

 2015年5月に発表したマツダとの包括提携もそう。その際も豊田社長は「トヨタが規模の大きさ故になかなか解決できなかった話も、マツダさんではうまくやっている。勉強させてもらえる点は多々ある」とした。

 8月に完全子会社化したダイハツ工業もそうだ。ダイハツとは両社にまたがる形態の組織として、17年1月をめどに新興国の小型車事業を担当する新カンパニーを設置する。寺師茂樹副社長はトヨタとダイハツでは「“相場観”が違うものがたくさんある」と率直に話す。例えば新車開発の進め方や予算の使い方。トヨタはダイハツから見れば「やり過ぎていたり、ピントがぼやけていたり、肥大化したりしている」(寺師副社長)という。

「自分たちが正しい」からの脱却


 それでもトヨタはこれまで「自分たちのやり方が正しいと思ってきた」(トヨタ首脳)。ベンチマークとして比較対象とするのも他社ではなく自社の過去のプロジェクトのみ。それがトヨタとは違う文化を持つダイハツとより密接になったことで気付かされた。そして今度はマツダともダイハツとも違う文化を持つスズキとの提携を検討する。

 「トヨタはこれまで強い強いと言われてきたけど本当にそうか。周りを見てみたらどうか」。トヨタ首脳はトヨタの「上から目線」を戒める。「障子を開けてみよ、外は広いぞ」。トヨタの新時代の提携戦略は、トヨタグループの始祖、豊田佐吉翁が残した言葉を実践しているとも言える。
(文=名古屋・伊藤研二)

日刊工業新聞2016年10月20日

COMMENT

 豊田社長は最近、他社との提携に関する記者会見などでしばしば、相手に対する敬意を強調する。今回のスズキとの提携は、周知の通りスズキ側からの打診がきっかけ。発表文書でもスズキの社名がトヨタより先に記されていた。ここで「ほう、スズキがウチとねえ…」と"上から目線"にかまえるトヨタ社員がいてもおかしくないが、豊田社長は他社から積極的に学ぶ姿勢を強く打ち出すことで、社内の慢心を戒めているように見える。王者ならでは「独りよがり」を社内に感じているのだろうか。

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