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なぜMRJは悲観的な報道が目立つようになってきたのか

メディアと三菱航空機側に根本的なコミュニケーション不足
なぜMRJは悲観的な報道が目立つようになってきたのか

5度目の延期なら解約する顧客が出る可能性も

 三菱航空機(愛知県豊山町、森本浩通社長)が国産小型ジェット旅客機「MRJ」の開発で苦境に立っている。2018年半ばとする量産初号機の納入時期が、技術的な問題などで遅れる可能性が高まっている。延期が決まれば5度目となり、ブラジル・エンブラエルとの競争への影響は避けられない。

 東京ビッグサイト(東京・有明)で先週開かれた展示会「2016年国際航空宇宙展」。三菱重工業の大宮英明会長は講演で「ANAホールディングス(HD)への量産初号機納入は18年半ばを予定している」と現行計画を説明した。

 だが、さかのぼること9月末、三菱航空機の幹部はANAHDを訪ね、延期の恐れがあると説明した。量産機の生産を始めた段階で技術的な問題が発生したことを理由に挙げたが、具体的な内容には言及しなかった。

 三菱重工が08年に三菱航空機を設立し、MRJの事業化に乗り出した当初は、13年の納入を目指していた。しかし、納期はこれまで4度延期された。三菱重工は米ボーイングの下請けとしての実績は豊富だが、完成機のノウハウがなく、トラブルが相次いだためだ。

納入延期には「検討項目が残っている」(森本社長)


 納期が19年にずれれば、エンブラエルの最新機「E2」シリーズとの競争優位性が薄れる。エンブラエルは定員約100人のリージョナルジェット市場で首位の強敵。E2は18年に量産初号機を納入し、88人乗りのMRJと同規模の機種は20年に就航予定だ。

 両機種のエンジンは同じで、差別化のポイントとなる先行投入期間が短くなるのはMRJには痛手だ。MRJの受注数は427機で、大宮三菱重工会長は「開発中にこれだけ多くの受注を得ており、期待の高さを感じている」と手応えをみせる。だが、受注の4割はオプションで、5度目の延期となれば、解約する顧客が出る恐れがある。

 今回の問題以外にも、延期につながる要因がある。商業運航に必要な型式証明の取得のため、米国で本格実施する飛行試験だ。合計2500時間の飛行が必要だが、試験機4機にトラブルが生じ、改修が必要になれば、18年とする型式証明の取得時期が遅れる可能性もある。

 森本浩通三菱航空機社長は国際航空宇宙展の講演で、今週にも米国で飛行試験を実施すると表明。納入延期については「まだ検討しなければならない項目はもちろん残っている」と述べるにとどめた。ターボプロップ機「YS11」以来、半世紀ぶりの国産旅客機開発を成功させるため、大きなヤマ場を迎えている。
(文=名古屋・戸村智幸、長塚崇寛)
日刊工業新聞2016年10月17日付
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 MRJに関してはメディアと三菱航空機側に根本的なコミュニケーション不足があるように感じる。MRJと言えば「遅れている、うまく行っていない」というイメージが付いてしまった(事実、5年も遅れている)。しかし、一度購入を決めた顧客が現時点でキャンセルしたという事実はないし、特別損失を計上したという話もない。むしろ顧客は、MRJのエンジン性能や三菱のエンジニアリングの技術(B787の主翼の実績)に期待して、これだけ待ってくれている、とも言える。  今後、世界の顧客に修理部品などを届けるためのサポート体制や量産に向けたサプライチェーンなどの構築が進んでいく。MRJをきっかけに民間航空機の開発インフラが整い、次世代の国産航空機にもつながる。短期的な開発課題も確かに大事だが、長期的な意義の方がもっと大きい。

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