授乳服やブラジャーのイメージを変えたモーハウスの子育て共感力

“子連れ出勤”のライフスタイル提案。「大変そうというイメージを楽しい」に

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お茶の水女子大学で被服を学んだ光畑由佳社長
 一見すると普通のチュニックやワンピース。実は左右の胸元にスリットが入っていて、赤ちゃんを待たせずに授乳できる―。モーハウス(茨城県つくば市)の授乳服には、女性が子育て中も心地よく暮らせる社会を作りたいとの思いが込められている。「メッセージがあるモノづくり」を志向する同社や社長の光畑由佳の活動は授乳服やインナー、ブラジャーの製造販売にとどまらない。子育てと社会を結び付けるための提案にも積極的だ。
 
 【気になる視線】
 光畑が起業するきっかけとなったのは、1997年夏の出来事だった。生後1カ月の次女を連れて中央線に乗った時、次女が大声で泣きだした。泣きやませるためにやむを得ず授乳したものの、周りの乗客の視線が気になる。いたたまれなかった。

 こうした現状を何とかしたい―。光畑が考えたのは、鉄道会社に対して女性専用車両の増設を求めたり、公共施設に授乳室設置を働きかけたりすることではなかった。「周りに変えさせるのではなく、自分を変える」。そこで着目したのが授乳服だ。必要な時にすぐに授乳でき、胸も露出しない服があれば外出時にも気が楽だ。需要が見込めると考え、製作に取り掛かった。
 
 【外出していない】
 しかし発売当初は売れなかった。「“授乳服”の存在が知られていないのではないか」と商品の認知度向上を図ったが、十分な手応えはない。理由を考えて気づいた。「そもそも母親が外出していない」。授乳のタイミングや周囲の目が気になり、買い物などを楽しみたくても出かけられない。我慢して閉じこもってしまう現状があった。

 そこで始めたのが、授乳服だけでなく、イベントなどを通じてライフスタイル全体を提案することだった。その象徴といえるのがモーハウスの本社や、東京都渋谷区にある青山ショップなどで実施している「子連れ出勤」だ。

 スタッフの女性は子どもを連れて出勤し、膝の上にのせたり抱き上げたりしながら働く。パソコンに向かったり、打ち合わせをしたりするスタッフの目は真剣だ。子どもが泣いたら授乳したりあやしたりすればいい。子どもも「空気を読んで」おとなしくできるようになるという。
 
 【スタイルに共感】
 子連れ出勤のスタイルなどに共感して、同社には多彩な人材が集まっている。子育て出勤には「授乳服ユーザー」の意見をすぐに聞けるメリットもある。毎月開いている「子連れ出勤見学会」には、全国から経営者や行政関係者や学生、復職を前にした育児休暇中の女性らが訪れ、「赤ちゃんがいても仕事ができる」と驚きの声を漏らしていくという。

 モーハウスの服は授乳用途以外にも広がっている。きっかけは50代くらいの女性が来店してブラジャーを試着し、購入した。その女性は乳がんを患った経験があり、しめつけが少なく左右の乳房の大きさが違う状態にも対応できるモーハウスのブラジャーに行き着いたとのことだった。

 東京都立産業技術研究センターと共同でユニバーサルデザインの「モーブラ・しゃんと」を2009年に開発した。「とことん良いものを作れば、いろんな人の役に立てる」。

 光畑は講演活動などを含め、精力的に動きまわっている。「もともと情報発信が好き。面白くてやっている」。お茶の水女子大学で被服を学んだ後、美術企画や建築関係の編集を手がけた経験が生きている。子育てに対する「大変そう」といったイメージを「楽しい」に―。「思いこみは変えられる」と手応えを語る。(敬称略)

日刊工業新聞2015年01月19日 モノづくり面

COMMENT

明豊
執行役員デジタルメディア局長 DX担当

単純に権利を求めるのではなく、新しい商品やライフスタイルを提案することの方がよっぽど共感を得られる。その好例のように思う。

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