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クリントンへ民意を導くオバマ政権に残された2の課題

金融緩和路線からの出口政策と、世界の枠組みの見直し
クリントンへ民意を導くオバマ政権に残された2の課題

5月の広島平和公園でのオバマ大統領のスピーチ(出典:首相官邸ホームページ)

 米国大統領選挙は投票まであと1カ月を切り、10日に候補者による2回目の討論会が行われた。重要な政策課題に関する前向きな討論というよりは相互の非難合戦となり、最もネガティブな内容となったと評されている。

 大統領選挙は現在、アリゾナ、アイオワ、ジョージア、ミズーリでトランプ優勢、一方、ミネソタ、ニューハンプシャー、ペンシルベニア、バージニア、ミシガン、ウィスコンシン、フロリダ、ノースカロライナ、オハイオではクリントン優勢と伝えられている。ノースカロライナとオハイオでは特に接戦が予想されている。

 メディアでは、今の時点で、仮に投票人の男性のみが投票すればトランプ候補が勝利し、女性のみが投票すればクリントン候補が勝利すると伝えている。両候補の政策を見極めるというよりは、投票人の好き嫌いが大きな影響を及ぼすだろう。

 トランプ候補が女性蔑視発言問題や納税をしていないといったスキャンダルに苦しむ中、クリントン陣営ではゴア元副大統領が応援に駆けつけ、環境問題への対応に取り組む姿勢を強調するなど、ミレニアル世代の支持を取り込もうとしている。目下、クリントン優勢と報じられているが、予断は許さない。

 今後11月8日に新大統領が決まり、2017年1月に新大統領が正式に就任するまでの期間、覇権国家米国ではいわば権力の空白が生ずる。

 8年続いたオバマ政権は、当然クリントン候補へのバトンタッチを望んでいる。そのため、この政権下でまだ残っている諸問題にこの短期間でどう対処し、民主党有利に米国の民意を導くかがポイントとある。大きな課題が二つある。

 一つはリーマン・ショック直後から実施されてきた財政拡大・金融緩和路線からの出口政策である。米連邦準備制度理事会(FRB)は15年12月に政策金利を上げ、16年12月にも利上げが予想されている。中央銀行相場が終焉(しゅうえん)し、その出口の向こう側に、どのような国家体制や産業構造を構築すべきかといった課題がある。

 もう一つは大きな世界の枠組みの変化である。オバマ政権では、その前のブッシュ政権が行ったテロとの戦いによって拡大した米国の軍事勢力を縮小し、オフバランシング政策に切り替えた。

 シェールオイルによる米国のエネルギー政策の転換が招いた「中東の春」やイラク、アフガニスタンから勢力撤退で空白となった地域では、イスラム国(IS)やシリア崩壊という悲惨な事態を招いている。この空白地帯にロシアが覇権を押し進めている。米ロは対決姿勢を強め、目下、シリアや北朝鮮では大変な緊張をはらんでいる。
(文=大井幸子・国際金融アナリスト兼SAIL社長)
日刊工業新聞2016年10月14日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
まず前者、米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策決定の投票権を持つニューヨーク連銀のダドリー総裁は先日、「緩やかな金融緩和の解除について、かなり寛大でいられる」と講演会で発言、利上げムードはかなり高まってきている。 後者の問題。仮にクリントン政権になっても軍事的・政治的に米国が世界で影響を高めていくことはないだろう。大統領選に向けては北朝鮮が核ミサイル実験を行うのは確実だろうし、それもかなり思い切ったものになると見られている。それに対しオバマ政権はどのようなリアクションをとるのか。

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