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「愛で選ぶクルマが、ある。」のメッセージに集約されるスバルの変身

インプレッサはトップバッターであり集大成
「愛で選ぶクルマが、ある。」のメッセージに集約されるスバルの変身

新型「インプレッサ」の前に立つ吉永社長

 富士重工業は13日、5年ぶりに全面改良した主力車「インプレッサ」を25日に発売すると発表した。新規開発した共通プラットフォーム(車台)採用の第1弾商品で、安全性能と走行性能を底上げした。今年度はスバル車の世界販売台数が初めて100万台の大台を達成する見通し。新時代の幕開けを飾る新型インプレッサは、次世代スバル車の行方を占う重要なモデルになりそうだ。

 「『安心と愉(たの)しさ』を革新的に進化させた。単なる1車種の全面改良にとどまらない“スバルのフルモデルチェンジ”と言える車だ」。吉永泰之社長は発表会の場で新型インプレッサについてこう強調した。

 インプレッサは国内最量販車種で、新型は第5世代目となる。スポーツ車「BRZ」を除く全ての車種に展開予定の新車台を採用した次世代スバル車のトップバッターを飾る商品と位置づける。価格は消費税込みでセダン「G4」、ハッチバック「スポーツ」ともに、192万2400円から。月間販売は2500台を計画する。

 新車台の採用で車体強度は従来車比で4割向上し、衝突時の安全性を確保した。高張力鋼板を使い、車体剛性は同最大2倍に引き上げ走行時の車体のブレや振動を低減。安全性能と運転のしやすさ、乗り心地の良さといった走行性能の両方を高めた。

 国内仕様車には国内メーカーで初めて歩行者用エアバッグを標準装備した。運転支援システム「アイサイト」の最新版「バージョン3」も全車種に採用する。9月1日に始めた先行予約の台数は11日までに想定比3倍の約6000台にのぼり、このうち他社からの乗り換えユーザーが半数を占めた。生産は群馬県の2工場と新たに米国工場を加えた3拠点体制を構築し、需要に着実に応える。

100万台突破後の持続成長は簡単ではない



 スバル車は北米を中心に快進撃が続く。16年度の世界販売台数は、インプレッサの前モデルが発売された11年度比で6割増の105万台を計画する。

 「大手と同じような車をつくっても勝てない」(吉永社長)。販売好調の背景には軽自動車事業から撤退するなど事業の選択と集中を図るとともに水平対向エンジンと4輪駆動の両技術、さらにはアイサイトの投入で他社にはない商品づくりに成功したことがある。

 ただ、100万台突破後の持続的な成長に向けた道のりは容易ではない。販売をけん引する北米はスバル車の売れ筋であるスポーツ多目的車(SUV)が人気を集め、自動車各社との競争が激化。富士重がリードしてきた運転支援技術を巡っては大手も経営資源を集中させ、アイサイトのような機能を持つ車を投入している。

 こうした環境下でスバル車の存在感を一段と高めるために開発されたのが新しい共通車台だ。2025年までの利用を想定して作られており、ほぼ全ての車種に利用することで従来車の全面改良はもちろん、自動運転車、電動車両など次世代車の開発を効率化できる。

 開発資源を有効活用し、他社とは違った魅力を持つ車が作りやすくなる。新型インプレッサは顧客にどう受け入れられるか。その動向は次世代スバル車の方向性を左右する試金石となる。

日刊工業新聞2016年10月14日
後藤信之
後藤信之 Goto Nobuyuki ニュースセンター
 「良い商品ができたから売ってきて」。かつての富士重は技術部門が強く、商品戦略も技術から営業への一方通行だった。その姿勢が、大きく変わったのは顧客の声を製品に反映させる役割などを担う「グローバルマーケティング本部」を設置した07年だ。代表的なキャッチコピーも「オールホイールドライブ」など4WD機能をアピールするものから、「コンフィデンスインモーション(信頼と革新)」などスバル車の「安心や愉しさ」を訴求するものに変わった。  そして新型インプレッサのキャッチコピーは「愛で選ぶクルマが、ある。」。独自技術を感性価値に落とし込むマーケティングも集大成も迎えたと感じる。販売好調な滑り出しの勢いを維持できるか注目したい。

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