「革新的な新薬」も、患者に使ってもらってこそ。中外製薬「潜在患者」受診へ導く

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骨粗しょう症治療のあり方を検討する会議(中外製薬が進行役を務めた)
 医療費削減政策の下で後発医薬品が急速に普及する一方、新薬メーカーは勝ち残りをかけて新薬の研究開発に取り組んでいる。その「革新的な新薬」も、必要とする患者に使ってもらってこそのもの。患者への適切な処方を促すだけでなく、潜在的な患者を見出して、医療機関の受診へ導く必要がある。疾患特性や地域性も考慮しなければならず、柔軟な営業戦略が求められる。

“患者以前”をどう啓発するか


 「今は、医師に診断してもらって初めて患者になる。でも、自分が病気と認識していない、あるいは認識していても医療機関を受診しないといった潜在患者、いわば“患者以前”の方がまだまだ多い。そこに着目しなければならない」。中外製薬の加藤進上席執行役員営業本部長は、新薬を必要な人に届ける上での課題をこう説明する。


 例えば、日本での骨粗しょう症罹患(りかん)者数は1200万人とされるが、医療機関で診断を受けているのはその35%程度という。治療薬は中外製薬と大正富山医薬品の「ボンビバ」を始めとして、複数の製品が普及している。加藤上席執行役員は「診断すれば、ほとんどの患者さんが薬物治療に入る。(骨折に至るまでは)本人に自覚症状がないので、医療機関で受診しないことに対する疾患啓発が(営業活動での)大きなウエートを占める」と語る。

関節リウマチではバイオ医薬注力


 一方、関節リウマチでは潜在患者が少ない。当事者は関節が曲がるなどして痛みを覚えるため、医師の診断を受ける。ただ「早期に処方すると予後が良くなるバイオ医薬品を使う先生がまだ多くない」(加藤上席執行役員)という。

 動物細胞などからつくられるバイオ医薬品は低分子医薬品に比べて高額だが、副作用が少なく薬効が高いとされる。中外製薬はバイオ医薬品の一種である抗体医薬品に力を注いでおり、関節リウマチ治療薬「アクテムラ」を創製した。この領域では疾患啓発よりも医師への情報提供が重要だと見ている。

地域性にも対応


 新薬普及に向けての課題は疾病ごとに異なるが、加藤上席執行役員は「地域性も要因になる」と指摘する。人口密度や医師の数、病院と診療所の連携状況といった事情は地域によりバラバラだ。潜在・顕在患者の分布や数も一様ではない。このため「本社の立てた戦略で営業に当たれ、というのはそぐわない」(加藤上席執行役員)ようだ。

 そこで同社は2013年後半ごろから、各支店長が担当エリアの実情を分析して解決策を立案する準備を進めてきた。15年には全国で支店長へ権限を委譲し、地域の実情に合った営業体制を構築できる仕組みに改めた。「メディカル・ネットワーク・リエゾン(医療連携支援担当者)」と呼ぶ専門職も各支店に1―2人ずつ配置。市民公開講座の開催や、専門医と開業医の橋渡しの促進などに取り組んでいる。

 加藤上席執行役員は「一般市民への啓発は製薬企業だけでは限界がある」とし、医療業界以外との協業も模索する考えだ。潜在的な患者へどこまでアプローチできるか、今後の取り組みが注目される。
(文=斎藤弘和)

日刊工業新聞2016年10月14日

COMMENT

昆梓紗
デジタルメディア局DX編集部
記者

どの程度の症状、痛みなどで病院に行くべきか、誰もが一度は悩んだことだと思います。都市部では病院は混んでいる、時間がかかるというイメージもあり足が遠のいてしまうことも。病院に行く前のセルフチェックの周知や相談窓口などが充実することも必要です。

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