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周囲の音と音楽同時に聞けるイヤホンはクラウドファンディングで生まれた

JVCケンウッド、攻めるマーケティングへ
周囲の音と音楽同時に聞けるイヤホンはクラウドファンディングで生まれた

マーケティングにクラウドファンディングを活用。開発中の外部の音を取り込める「マルチライブモニターイヤホン」

 JVCケンウッドはインターネット上で資金を調達するクラウドファンディングを初めて活用し、新製品開発の活性化に挑んでいる。クラウドファンディングを通じて多様な意見を吸い上げ、マーケティングを強化するのが狙いだ。7月には、周囲の音とスマートフォンの音楽を同時に聴ける「マルチライブモニターイヤホン」を発表。約3カ月間で、目標の10倍以上の資金を集めた。支援する消費者の意見を採用して機能を拡張するなど、二人三脚のモノづくりに取り組んでいる。

「本当に需要があるかどうか、分からなかった」


 「従来のやり方では製品の良さを直接伝えられず、顧客の反応もとらえきれなかった」―。メディア事業統括部AVC統括部新規事業推進室の江島健二室長は、クラウドファンディングを採用した理由をこう説明する。

 マルチライブモニターイヤホンの企画が固まったのは、2016年の初頭だ。一般的にイヤホンを付けると周囲の音が聞きづらくなるため、状況に応じて付けたり外したりする必要がある。

 開発現場では「いちいちイヤホンを外さなくても良いようにならないだろうか」との声が上がり、外部の音を取り込めるイヤホンを着想した。開発に向けて、まずはメーンターゲットを音楽・楽器好きの30―40代男性に設定。スマホからの音楽と自分が弾く楽器の音をバーチャルでセッションできることを主なコンセプトにした。

 しかし同室の鯨岡伸二シニアスペシャリストは「本当に需要があるかどうか、分からなかった」と打ち明ける。一般のユーザーは、どんな点に興味を持つのか―。そこで、支援者の数や製品への反応が分かるクラウドファンディングの活用を決めた。

 しかし資金調達に使うクラウドファンディングを大企業の開発に採用する案は、当初なかなか受け入れられなかったという。「なぜその方法なのか説得するのが大変だった」(江島室長)。議論を重ねて理解を深め、7月12日にクラウドファンディングサイト「マクアケ」への公開にこぎつけた。

これまでとは違った苦労も


 公開後は約5時間で目標金額の100万円に到達。現在の支援額は1600万円以上になった。サイトには支援者からの意見が書き込まれ「製品ができる前に反応を得られるのは良い」(鯨岡シニアスペシャリスト)と効果を感じている。反響が見えるため、担当者のモチベーションにもつながっているという。

 寄せられた意見を基に、機能を追加する新しい試みも進めている。このほど支援者が1000人に達したことを受け、電車の走行音などの騒音を抑える「ノイズキャンセリング機能」の搭載を決めた。

 一方で開発陣には、これまでとは違った苦労が生まれた。公開前にどこまでコンセプトを固めるのか、性能や品質をどう保証するのか、などだ。従来は製品が完成してからマーケティングし市場に投入する「プロダクトアウト型」が中心だったが、今回は進め方がまるで異なる。営業側とのやりとりは、これまで以上に濃密になっている。江島室長は「開発のあり方が変わる可能性がある」とする。

 鯨岡シニアスペシャリストは「これまでは保守的なイメージがあったかもしれないが、攻めるマーケティングにしていく」と力を込める。同社の新製品創出現場に、新しい風が吹き始めている。
(文=政年佐貴恵)
日刊工業新聞2016年10月14日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
このイヤホンを視聴させてもらったが、音楽と周りで話している声が同じレベルで聞こえて不思議な感覚かつ色々な所で使えそうだと感じ、わくわくした。また音響機器では、オーディオルームで聞いているかのように前方から音が聞こえるヘッドホンも開発中だという。ほかにもタンパク質の診断装置といった医療分野での製品など、最近のJVCケンウッドは研究開発での攻めの姿勢が目立つようになってきた。日本ビクターとケンウッドの統合以来、構造改革に追われ業績の縮小や不安定な状態が続いてきたが、開発の勢いが再成長の兆候だと期待したい。

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