大型旅客機「さらに減産する可能性も」(ボーイング首脳)
小型機への需要シフト鮮明 日本は企業間の連携を加速
2015年度の国内航空機生産高(宇宙分野を含む)は11年度比でほぼ倍増し、初の2兆円を突破した。機体やエンジンを手がける重工メーカーから、部品加工や表面処理などを担う中堅・中小企業まで、産業のすそ野は着実に拡大。自動車に続く基幹産業として期待される。半面、大型機から利幅の小さな中・小型機へのシフトに伴うコストダウン要請の高まりなど、事業環境に変化も見られる。このまま安定飛行を続けられるのか―。航空機産業の今を追う。
横ばいで推移する防衛航空機を横目に、右肩上がりの民間航空機。世界市場は今後20年間で、現状比倍増の5兆ドル規模への拡大が見込まれる。米ボーイングと欧エアバスの2強を軸に、各社の受注競争は激しさを増す。
日本メーカーと縁が深いのがボーイングだ。大型機「777」や大幅な軽量化が図られた中型機「787」など向けに、胴体や翼などメーンの機体部品から、足回りや内装など幅広い分野を担当。777で21%、787は35%を日本メーカーが担う。「次期大型機『777X』でも21%での参画が決まっており、日本勢の地位は盤石となっている」(杉原康二日本航空宇宙工業会業務部長)。
ただ、堅調に見えた民間航空機市場にも変化の兆しが出ている。ここにきて、ボーイングとエアバスが相次いで大型機の減産を打ち出した。新興国の景気減速による需要減や、格安航空会社(LCC)の台頭に伴う小型機需要の拡大などが背景にある。
777の受注は14年の283機をピークに、15年は58機で着地。受注残も15年に524機となり、09年以来6年ぶりに純減した。ボーイング首脳は「必要に応じてさらに減産する可能性もある」と示唆した。エアバスも7月に大型機「A380」の生産ペースを15年の27機から、18年までに年間12機に減らすと発表した。原油安で燃料価格が低下し、「燃費性能の高い新型機への更新を先延ばしにしている」(杉原日本航空宇宙工業会業務部長)ことも響く。
大型機の需要減や利幅の小さな小型機の好調を受け、機体メーカーはサプライヤーに対し、15―20%程度のコスト削減を要求している。このため、コスト圧力は大手とともに中小企業まで波及。「事業成長とコストダウンの両立は、中小サプライヤーの大きな課題」(同)となっている。
難局を乗り越えるスキームとして期待されるのが、地域の中小企業が航空機部品の共同受注や一貫生産体制の構築を目指す組織「クラスター」だ。
三菱重工業が支援する組織「航空機部品生産協同組合」(松阪クラスター)は、同社松阪工場(三重県松阪市)で部品の共同生産をまもなく始める。9社が参加し、三菱航空機(愛知県豊山町)が開発中の国産小型ジェット旅客機「MRJ」やボーイングの機体の部品を生産する。
狙いは航空機産業の慣習「ノコギリ発注」からの脱却だ。三菱重工などは加工工程ごとに中小企業へ発注し、部品が受発注者を行き来するため、コストも時間もかかる。松阪クラスターでは、表面処理や熱処理の共通設備を用意し、松阪工場内で一貫生産する。
川崎重工業の協力会社による組織「川崎岐阜協同組合」も、ノコギリ発注の脱却を目指す。中核企業の天龍エアロコンポーネント(岐阜県各務原市)が設置した表面処理工程の工場を、組合各社が利用し始めている。
どちらのクラスターも、表面処理設備を自ら持つことが特徴。従来、発注企業や外注先に表面処理を依存するため、一貫生産体制を実現できなかった。クラスターが有効に機能することで、航空機産業に変化が起きようとしている。
航空機産業は一度参入できれば、20年ほどの足の長いビジネスとなるほか、高度な技術力が求められる参入障壁の高い分野。日本勢の優位性を存分に発揮できる。市場ニーズに応じた柔軟な事業体制を構築できるかが、分水嶺(れい)となりそうだ。
ボーイングとの縁が深い日本企業
横ばいで推移する防衛航空機を横目に、右肩上がりの民間航空機。世界市場は今後20年間で、現状比倍増の5兆ドル規模への拡大が見込まれる。米ボーイングと欧エアバスの2強を軸に、各社の受注競争は激しさを増す。
日本メーカーと縁が深いのがボーイングだ。大型機「777」や大幅な軽量化が図られた中型機「787」など向けに、胴体や翼などメーンの機体部品から、足回りや内装など幅広い分野を担当。777で21%、787は35%を日本メーカーが担う。「次期大型機『777X』でも21%での参画が決まっており、日本勢の地位は盤石となっている」(杉原康二日本航空宇宙工業会業務部長)。
年間受注が283機→58機に急減
ただ、堅調に見えた民間航空機市場にも変化の兆しが出ている。ここにきて、ボーイングとエアバスが相次いで大型機の減産を打ち出した。新興国の景気減速による需要減や、格安航空会社(LCC)の台頭に伴う小型機需要の拡大などが背景にある。
777の受注は14年の283機をピークに、15年は58機で着地。受注残も15年に524機となり、09年以来6年ぶりに純減した。ボーイング首脳は「必要に応じてさらに減産する可能性もある」と示唆した。エアバスも7月に大型機「A380」の生産ペースを15年の27機から、18年までに年間12機に減らすと発表した。原油安で燃料価格が低下し、「燃費性能の高い新型機への更新を先延ばしにしている」(杉原日本航空宇宙工業会業務部長)ことも響く。
大型機の需要減や利幅の小さな小型機の好調を受け、機体メーカーはサプライヤーに対し、15―20%程度のコスト削減を要求している。このため、コスト圧力は大手とともに中小企業まで波及。「事業成長とコストダウンの両立は、中小サプライヤーの大きな課題」(同)となっている。
「クラスター」にかける中小企業
難局を乗り越えるスキームとして期待されるのが、地域の中小企業が航空機部品の共同受注や一貫生産体制の構築を目指す組織「クラスター」だ。
三菱重工業が支援する組織「航空機部品生産協同組合」(松阪クラスター)は、同社松阪工場(三重県松阪市)で部品の共同生産をまもなく始める。9社が参加し、三菱航空機(愛知県豊山町)が開発中の国産小型ジェット旅客機「MRJ」やボーイングの機体の部品を生産する。
狙いは航空機産業の慣習「ノコギリ発注」からの脱却だ。三菱重工などは加工工程ごとに中小企業へ発注し、部品が受発注者を行き来するため、コストも時間もかかる。松阪クラスターでは、表面処理や熱処理の共通設備を用意し、松阪工場内で一貫生産する。
川崎重工業の協力会社による組織「川崎岐阜協同組合」も、ノコギリ発注の脱却を目指す。中核企業の天龍エアロコンポーネント(岐阜県各務原市)が設置した表面処理工程の工場を、組合各社が利用し始めている。
どちらのクラスターも、表面処理設備を自ら持つことが特徴。従来、発注企業や外注先に表面処理を依存するため、一貫生産体制を実現できなかった。クラスターが有効に機能することで、航空機産業に変化が起きようとしている。
航空機産業は一度参入できれば、20年ほどの足の長いビジネスとなるほか、高度な技術力が求められる参入障壁の高い分野。日本勢の優位性を存分に発揮できる。市場ニーズに応じた柔軟な事業体制を構築できるかが、分水嶺(れい)となりそうだ。
日刊工業新聞2016年10月12日