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老舗が身売りする調剤薬局の深刻度

後継者不在に薬剤師の採用難。M&A加速へ
老舗が身売りする調剤薬局の深刻度

調剤薬局経営の草分けとして知られる水野の日本調剤に買収された(日本調剤提供)

 調剤薬局業界でM&A(合併・買収)が相次いでいる。経営を引き継げる人の不在や薬剤師の採用難、診療報酬改定などが背景にある。調剤薬局経営の草分けとして知られる水野(東京都文京区)が1日付で日本調剤に買収されたのは象徴的な例だ。M&Aを計画する各社は、服薬指導や在宅医療といったニーズに対応できる店舗網の構築につなげられるかが問われる。

 「後継者不在が一番大きかった」。M&Aについての助言・指導を手がけるレコフ(東京都千代田区)の恩地祥光社長は、水野が日本調剤へ経営を委ねた背景をこう解説する。

ITにも強く黒字だったのに・・


 水野は日本初の調剤薬局として知られる「水野薬局」を経営していた。薬歴管理システムなどのITにも明るく、「大企業と同等以上のことをやっている」(恩地レコフ社長)。最近3年間の経常利益も毎年黒字で、経営体力の不安は少ないと考えられていた中での出来事だった。

 日本M&Aセンターによると、2014年は公表案件だけでも251の調剤薬局店舗が他社へ譲渡された。12年は42店であり、急増している。

 「少し前は業界トップ10の企業しか買収をしなかったが、最近は20店舗くらいの会社でもM&Aを成功させる事例が出てきた。1店舗で年商1億5000万円以上の薬局が活発に譲渡されている」(渡部恒郎日本M&Aセンター業界再編部長)。

大手と中小で格差


 “身売り”の動機には後継者問題以外に薬剤師の採用難もある。14、15年に薬剤師国家試験合格率がそれぞれ60%台前半にとどまった上、大手企業が業容拡大を見込んで採用を増やしたことなどで中小薬局に人が回りにくくなった。

 16年度の診療報酬改定で患者への服薬指導や在宅医療対応が従来以上に求められ、人員の少ない店舗では対処が難しいことも背景の一つだ。

 こうした動向を受けて大手は今後も合従連衡を加速する。M&Aによる出店はクオールが17年3月期に128店、アインホールディングスが17年4月期に73店を計画。クオールは新潟県などで86店舗を展開する共栄堂(新潟市秋葉区)の買収を16年8月に決めた。

「患者のための薬局ビジョン」を満たすには


 日本調剤は13―15年度の買収店舗数が毎年1ケタだったが、今後は増加させる考え。16年度は上半期だけで10店舗を超えた。ただし、1店舗当たり売上高が3億円以上の企業を買収する方針を掲げる。

 「(厚生労働省が調剤薬局のあるべき姿をまとめた)『患者のための薬局ビジョン』の要素をかなりの程度満たすには、さまざまなニーズに応える体制が必要。それには店舗の規模をある程度大きくしないといけない」(三津原庸介常務)。

 今後も業界再編が続く公算は大きいものの、買収をする側は規模さえ追えば良いとは限らない。個々の案件について資産査定や相乗効果の判断を冷静に進める力が試される。
(文=斎藤弘和)

日刊工業新聞2016年10月4日
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
今年4月に厚生労働省が始めた「かかりつけ薬局制度」。患者の健康状態の把握や改善を支援するというもので、従来の処方箋による調剤を主とした事業モデルから、地域の健康支援の拠点としての役割が求められている。当然、それをこなすためには人材が必要で、老舗といえども競争力のない薬局は再編の波にさらされるのかもしれない。

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