60代のおばあちゃんが唱える、ポケモンGOの「今でしょう!」
文=原山優子 消費者とサービス提供者が互いに納得できる関係性を
私は根っからの漫画&ゲーム苦手人間だ。よってスマホ用ゲームアプリ「ポケモンGO」はダウンロードしていないし、するつもりもない。しかし我が家では6歳の孫に要求され、息子のスマホには、しっかりポケモンGOが存在する。夏休み中、一緒に旅行したときには、時折「あ!いた」の歓声が耳に入ってきた。
60代のおばあちゃんと“デジタルネーティブ”と呼ばれる孫とのジェネレーションギャップと切り捨てることもできる。しかし、そこは斜めからものを見るのが大好きな私として、ポケモンGO現象を私のレンズで読み解きたいと思う。
数日で世界規模の社会現象を巻き起こし、そのスケールは拡大し続けるという過去に例のないゲームだ。当初、シリコンバレーのベンチャー・キャピタルですら、投資案件とは見なさなかった異端児でもある。
ゲームアプリの典型的な「free to play(プレー無料)」モデルをベースとし、外食店などを含む不特定多数の人が利用する公共の場との契約から収益を得るというビジネスモデルに着目するのも面白そうだが、ここでは、特に「情報」の切り口から、頭の体操を試みたい。
純粋に楽しむことを目的とするのがゲームだが、身体的には指先の運動だけにとどまる、いわば室内引きこもり型の通常のデジタル・ゲームに対して、体を動かし屋外を探索することをゲームに取り込むという発想は、まさにヤヌス的思考(一見相反する事象に対して、矛盾を乗り越えた解を導き出すこと)といえる。
さらに、ポケモンという一世を風靡(ふうび)したキャラクターを登場させストーリー性を加味しプレーヤーの感性に訴えつつ、ビッグデータを駆使するところにも二面性を感じる。ポケモンGOの産みの苦しみ、そして成功のカギはこれらの二面性の良い所取りにあったのではと想像する。
さて、前置きが長くなったが、ここで注目したいのが“良い所取り”を可能にした、いわば裏方役の技術と、その媒体たる「情報」である。ポケモンGOは、日々の生活に浸透しているGPS(全地球測位システム)、カメラ、センシング技術などをベースに、実空間にバーチャル空間を重ね合わせるという技術的な課題(いわゆるAugmented Reality=拡張現実)をクリアした。
それとともに既存のクラウド・プラットフォームを活用し、プレーの現場から情報を吸い上げ、リアルタイムでフィードバックするためのソフトウエア、コンピューティングパワー、情報処理能力をシステムとして組み込んでいる。
しかもゲームは進化型だ。アプリのアップデート、新たなデバイスの開発(すでに専用コンタクトレンズの開発が話題になっている)によりゲームの機能を拡充し、プレーヤーに多様な遊び方を提供することで、ネットワーク効果を高め、ゲーム・コミュニティーを拡張していく仕組みである。
プレーヤーとサービス提供者との間にウィン―ウィンの関係が成立すると見て取れるが「両者は対称的な関係にあるか」というと必ずしもそうではない、というのがここでの仮説である。
見方を変えるとポケモンGOは、世界中のプレーヤーから情報をリアルタイムで吸い上げ、集積していく壮大な仕掛けであり、これをどのように活用していくかは、サービス提供者の裁量に委ねられるというのが現状ではないだろうか。プレーヤーはゲームにアクセスするための前提である利用規定の「同意」をクリックしているわけで、よって、情報の取り扱いは納得済みとなる。
ゲームを楽しめれば「まあいいか!」とするか、賢い消費者として自分が生成する情報の使われ方を考えるきっかけとするか、私のお薦めは後者である。なぜならポケモンGOに限らず、今後さまざまな場面で、個人の情報の取り扱いがクリティカルになることが予想されるからだ。消費者とサービス提供者が互いに納得できる関係性を築くための第一歩を踏み出すのは「今でしょう!」。
【略歴】
原山優子(はらやま・ゆうこ)96年(平8)ジュネーブ大学教育学博士課程修了、97年同大経済学博士課程修了、98年同大経済学部助教授。01年経済産業研究所研究員、02年東北大工学研究科教授、10年経済協力開発機構(OECD)の科学技術産業局次長、13年から現職。>
60代のおばあちゃんと“デジタルネーティブ”と呼ばれる孫とのジェネレーションギャップと切り捨てることもできる。しかし、そこは斜めからものを見るのが大好きな私として、ポケモンGO現象を私のレンズで読み解きたいと思う。
数日で世界規模の社会現象を巻き起こし、そのスケールは拡大し続けるという過去に例のないゲームだ。当初、シリコンバレーのベンチャー・キャピタルですら、投資案件とは見なさなかった異端児でもある。
ゲームアプリの典型的な「free to play(プレー無料)」モデルをベースとし、外食店などを含む不特定多数の人が利用する公共の場との契約から収益を得るというビジネスモデルに着目するのも面白そうだが、ここでは、特に「情報」の切り口から、頭の体操を試みたい。
純粋に楽しむことを目的とするのがゲームだが、身体的には指先の運動だけにとどまる、いわば室内引きこもり型の通常のデジタル・ゲームに対して、体を動かし屋外を探索することをゲームに取り込むという発想は、まさにヤヌス的思考(一見相反する事象に対して、矛盾を乗り越えた解を導き出すこと)といえる。
さらに、ポケモンという一世を風靡(ふうび)したキャラクターを登場させストーリー性を加味しプレーヤーの感性に訴えつつ、ビッグデータを駆使するところにも二面性を感じる。ポケモンGOの産みの苦しみ、そして成功のカギはこれらの二面性の良い所取りにあったのではと想像する。
自分が生成する情報の使われ方を考える
さて、前置きが長くなったが、ここで注目したいのが“良い所取り”を可能にした、いわば裏方役の技術と、その媒体たる「情報」である。ポケモンGOは、日々の生活に浸透しているGPS(全地球測位システム)、カメラ、センシング技術などをベースに、実空間にバーチャル空間を重ね合わせるという技術的な課題(いわゆるAugmented Reality=拡張現実)をクリアした。
それとともに既存のクラウド・プラットフォームを活用し、プレーの現場から情報を吸い上げ、リアルタイムでフィードバックするためのソフトウエア、コンピューティングパワー、情報処理能力をシステムとして組み込んでいる。
しかもゲームは進化型だ。アプリのアップデート、新たなデバイスの開発(すでに専用コンタクトレンズの開発が話題になっている)によりゲームの機能を拡充し、プレーヤーに多様な遊び方を提供することで、ネットワーク効果を高め、ゲーム・コミュニティーを拡張していく仕組みである。
プレーヤーとサービス提供者との間にウィン―ウィンの関係が成立すると見て取れるが「両者は対称的な関係にあるか」というと必ずしもそうではない、というのがここでの仮説である。
見方を変えるとポケモンGOは、世界中のプレーヤーから情報をリアルタイムで吸い上げ、集積していく壮大な仕掛けであり、これをどのように活用していくかは、サービス提供者の裁量に委ねられるというのが現状ではないだろうか。プレーヤーはゲームにアクセスするための前提である利用規定の「同意」をクリックしているわけで、よって、情報の取り扱いは納得済みとなる。
ゲームを楽しめれば「まあいいか!」とするか、賢い消費者として自分が生成する情報の使われ方を考えるきっかけとするか、私のお薦めは後者である。なぜならポケモンGOに限らず、今後さまざまな場面で、個人の情報の取り扱いがクリティカルになることが予想されるからだ。消費者とサービス提供者が互いに納得できる関係性を築くための第一歩を踏み出すのは「今でしょう!」。
原山優子(はらやま・ゆうこ)96年(平8)ジュネーブ大学教育学博士課程修了、97年同大経済学博士課程修了、98年同大経済学部助教授。01年経済産業研究所研究員、02年東北大工学研究科教授、10年経済協力開発機構(OECD)の科学技術産業局次長、13年から現職。>
日刊工業新聞2016年10月3日「卓見異見」