製造業IoTのデータ利用、日本はドイツの誘いに乗っちゃうの?
政府間でエールも「インダストリアル・データ・スペース」で駆け引き?
日本とドイツで製造現場のIoT(モノのインターネット)対応についての連携が本格化した。5日に幕張メッセ(千葉市美浜区)で開かれたシンポジウムでは、標準化やサイバー対策に関し両国の連携の重要性を共有。さらにIoT対応の中で不可避的に発生するデータを社会で広く共同利用できる環境作りについて注目が集まった。IoT分野の国際競争が熾烈(しれつ)になる中、データ利用が日独連携のカギを握りそうだ。
「サプライチェーンは一国内に収まらない」―。来日した独経済エネルギー省のウォルフガング・シェレメート産業政策局長はこう強調した。日本製の機械と独製機械が通信する時代を想定し、「機械言語などを定める必要がある」と、国際標準化の連携の重要性を指摘した。
すでに国際標準化とサイバーセュリティー対策では両国で協議が本格化している。来春には「先進事例を共有し、両国の協力に発展させたい」(経済産業省の糟谷敏秀製造産業局長)考えだ。
今回のシンポジウムでは、データの利用に関心が集まった。独側は「インダストリアル・データ・スペース」という分散型のデータ共有システムを紹介、日本企業の参加を募った。
企業がIoTに対応する際、データをクラウド上に保存する必要が生じる場合がある。独でも「中小企業はデータが外部に行くことで、流出のリスクが高まるのを懸念している」(シェレメート局長)と課題を挙げた。
日独とも念頭にあるのが米国と中国。米グーグルや米アップルなど、インターネットサービスの支配的な企業が大量のデータを自社で囲い込んでいるためだ。中国では独自の規制により国境をまたいだデータの流通が阻害される懸念が高まっている。根底には、データの価値が高まるIoT時代にデータを一部の企業や地域に囲い込まれてしまうのではないかとの危機感がある。
日本側は2017年に独で開かれる主要20カ国地域(G20)首脳会議で、データ利用を議題に日独で連携できないか提案。独側もこの分野で「パイオニアになれる」(経済エネルギー省のステファン・シュノアデジタル・イノベーション局長)と応じた。
(文=平岡乾)
ドイツが「インダストリー4・0」で描く未来の賢い工場。実現はまだ先だが、着実に進み始めたのも事実だ。企業内情報システムにFA(工場自動化)機器、インターネットと、標準化されてすべてがつながる方向に向かう中、日本のITやFA関連企業、さらにユーザーである製造業はどこに競争力の源泉を求めるべきなのか。
日本の製造業を中心に結成し、IoTでつながる工場の実現に向けた活動を進めるインダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI)。理事長の西岡靖之法政大学教授は4月下旬、ドイツのハノーバーメッセ会場で講演した。
直接海外で情報発信するのはIVIにとって初めて。活動2年目の今年は、海外勢とも連携しつつ、システム開発の具体的な基盤となるプラットフォームの整備に乗り出す。
IVIの特徴は情報システムの提供側ではなく使用側企業が主体となってIoTを考えていること。「このままではデータを集めて加工するところが、みな欧米勢に集中してしまう」と西岡理事長は危機感を隠さない。
IoT関連システムで日本勢に先行する独シーメンス。日本法人の島田太郎専務執行役員はIoTブームに警鐘を鳴らす。「データ整備や業務プロセス見直しなど、根元のところから見直さないと(活用できない)」。
同社はFA機器や3次元CADの分野が強い。製造業の設計と生産をつなぐ要の部分を押さえており、ドイツの自動車各社とも関係は密接だ。
ドイツ勢はフォルクスワーゲン(VW)を筆頭に、部品を自由に組み合わせて最終製品を作るモジュール化という設計改革で日本勢の先を行く。モジュール化設計とIoTは、未来の賢い工場にはともに重要な存在だ。両方の動きに深く関わるシーメンスの言葉は重い。
機器類のどういうデータを取ってどう解析するかという未来の工場づくりの根本は、結局、人間が考えなければならない。いわばノウハウの結晶が必要になる。「企業の競争力の源は、本来そこにあるはずだ」とベッコフオートメーション日本法人(横浜市中区)の川野俊充社長は指摘する。
人工知能(AI)や機械学習といった知能化技術が発達したとしても、人間が携わるべき部分は残る。AIと人の役割をどう切り分け、相互に付加価値を高めていくか。IoTで変わる未来の工場は人と先進技術の融合なしには実現できない。
「サプライチェーンは一国内に収まらない」―。来日した独経済エネルギー省のウォルフガング・シェレメート産業政策局長はこう強調した。日本製の機械と独製機械が通信する時代を想定し、「機械言語などを定める必要がある」と、国際標準化の連携の重要性を指摘した。
すでに国際標準化とサイバーセュリティー対策では両国で協議が本格化している。来春には「先進事例を共有し、両国の協力に発展させたい」(経済産業省の糟谷敏秀製造産業局長)考えだ。
今回のシンポジウムでは、データの利用に関心が集まった。独側は「インダストリアル・データ・スペース」という分散型のデータ共有システムを紹介、日本企業の参加を募った。
企業がIoTに対応する際、データをクラウド上に保存する必要が生じる場合がある。独でも「中小企業はデータが外部に行くことで、流出のリスクが高まるのを懸念している」(シェレメート局長)と課題を挙げた。
日独とも念頭にあるのが米国と中国。米グーグルや米アップルなど、インターネットサービスの支配的な企業が大量のデータを自社で囲い込んでいるためだ。中国では独自の規制により国境をまたいだデータの流通が阻害される懸念が高まっている。根底には、データの価値が高まるIoT時代にデータを一部の企業や地域に囲い込まれてしまうのではないかとの危機感がある。
日本側は2017年に独で開かれる主要20カ国地域(G20)首脳会議で、データ利用を議題に日独で連携できないか提案。独側もこの分野で「パイオニアになれる」(経済エネルギー省のステファン・シュノアデジタル・イノベーション局長)と応じた。
(文=平岡乾)
日刊工業新聞2016年10月6日
「このままでは欧米勢に集中してしまう」
ドイツが「インダストリー4・0」で描く未来の賢い工場。実現はまだ先だが、着実に進み始めたのも事実だ。企業内情報システムにFA(工場自動化)機器、インターネットと、標準化されてすべてがつながる方向に向かう中、日本のITやFA関連企業、さらにユーザーである製造業はどこに競争力の源泉を求めるべきなのか。
日本の製造業を中心に結成し、IoTでつながる工場の実現に向けた活動を進めるインダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI)。理事長の西岡靖之法政大学教授は4月下旬、ドイツのハノーバーメッセ会場で講演した。
直接海外で情報発信するのはIVIにとって初めて。活動2年目の今年は、海外勢とも連携しつつ、システム開発の具体的な基盤となるプラットフォームの整備に乗り出す。
IVIの特徴は情報システムの提供側ではなく使用側企業が主体となってIoTを考えていること。「このままではデータを集めて加工するところが、みな欧米勢に集中してしまう」と西岡理事長は危機感を隠さない。
IoT関連システムで日本勢に先行する独シーメンス。日本法人の島田太郎専務執行役員はIoTブームに警鐘を鳴らす。「データ整備や業務プロセス見直しなど、根元のところから見直さないと(活用できない)」。
同社はFA機器や3次元CADの分野が強い。製造業の設計と生産をつなぐ要の部分を押さえており、ドイツの自動車各社とも関係は密接だ。
ドイツ勢はフォルクスワーゲン(VW)を筆頭に、部品を自由に組み合わせて最終製品を作るモジュール化という設計改革で日本勢の先を行く。モジュール化設計とIoTは、未来の賢い工場にはともに重要な存在だ。両方の動きに深く関わるシーメンスの言葉は重い。
機器類のどういうデータを取ってどう解析するかという未来の工場づくりの根本は、結局、人間が考えなければならない。いわばノウハウの結晶が必要になる。「企業の競争力の源は、本来そこにあるはずだ」とベッコフオートメーション日本法人(横浜市中区)の川野俊充社長は指摘する。
人工知能(AI)や機械学習といった知能化技術が発達したとしても、人間が携わるべき部分は残る。AIと人の役割をどう切り分け、相互に付加価値を高めていくか。IoTで変わる未来の工場は人と先進技術の融合なしには実現できない。
日刊工業新聞2016年5月26日