どうなる福島第一。追加費用負担をめぐる議論スタート
原資捻出へ東電も抜本改革
東京電力ホールディングス(HD)の再建問題を検討する経済産業省の有識者会議「東京電力改革・1F問題委員会」が5日、初会合を開いた。今後、福島第一原子力発電所の廃炉など福島復興に必要な費用の見積額を算定し、原資を捻出するための経営改革の方向性を議論する。廃炉や損害賠償の費用が当初の想定を大幅に上回る見通しとなる中で、国が同社をどう支援するかが焦点となる。
委員会には、経済同友会の小林喜光代表幹事、日本商工会議所の三村明夫会頭ら10人の委員が参加。年内にも提言をまとめ、今後の東電HDの再建計画に反映させる方針。
初会合では廃炉関係など追加費用の想定額を見積もった上で、不足分を捻出するための東電改革の進め方を検討することで一致。東電HDの広瀬直己社長は「国の救済措置を受けずに福島の責任をまっとうしたい」と述べた。委員の間には「社内の意識改革が進まないと、企業文化は変わらない」との指摘があり、事業再編などの構造改革案を、東電側が実際にどこまで受け入れるかが注目される。
一方、不足分を国が負担する案について委員長の伊藤邦雄一橋大学大学院特任教授は会見で「委員の総意としては否定的だが、最後の手段としてあり得ないことではない」との認識を示した。福島復興では損害賠償・除染費用として政府が、原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて最大9兆円を東電HDに交付し、廃炉の原資は東電HDが自ら、経営効率化などで総額2兆円を捻出する。だが、いずれも現場の作業が進む中で、費用が想定を大幅に上回る公算が大きくなっている。
(あいさつする伊藤委員長=手前中央)
日本に「原発廃炉の時代」が訪れた。政府が定めた40年の運転期限に達する原発の廃止措置が今後、一斉に始まる。原発の廃炉は放射線環境下の作業に特有の困難を伴う。東京電力福島第一原発の廃炉はまさに未踏への挑戦と呼べる苦難が待ち受ける。ただ、過酷な現場での貴重な経験を生かせば、海外の廃炉作業にも貢献できる。同原発の事故で低下した日本の原子力技術に対する信頼を取り戻す好機となる。
「前例のないチャレンジが続く。安全(確保)に最大限の配慮をして廃炉作業を進めたい」。東京電力の広瀬直己社長は政府が6月に開いた福島第一原発の廃炉・汚染水対策に関する閣僚会議で、そう決意を述べた。
政府と東電はこの会議で、同原発の廃炉に関する工程表を2年ぶりに改定した。1―3号機の核燃料プールから燃料を取り出す作業を2―3年遅らせて2017年度に開始。原子炉格納容器内で溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の回収作業は21年に始める方針だ。
だが成功の見通しは立っていない。最難関とされる燃料デブリの取り出しでは、溶け落ちた燃料がどこにあるのかすら、まだ分からない状況だ。作業全体の終結時期は改定前と同じく事故から30―40年後としたが、専門家の間では大幅に遅れるとの見方が強い。
原子力開発史上、例のない大災害となった福島第一原発事故。その廃炉作業は放射線やがれき、汚染水などに阻まれ、困難を極めている。人に代わって危険な場所で作業するロボットの開発も、失敗と改良の繰り返しだ。
だが関係者の間にはこの経験をいずれ、ほかの原発の廃炉作業にも生かしたいという思いがある。ある技術者は「事故炉とは手順や工法が全く異なる」としながらも「通常炉の廃炉工程で想定外の事態に直面しても、素早く柔軟に対処できる瞬発力を養える」と指摘する。福島第一原発で培った知見は、日本が原発の大量廃炉時代を乗り切る糧となる。
これからは事故処理だけでなく、老朽化した原発の廃炉が本格化する。4月末には日本原子力発電(東京都千代田区)敦賀原発(福井県敦賀市)1号機など5基の原発が、およそ40年の歴史に幕を下ろした。今後、廃止措置の手順や工程などの実施計画をまとめて国に認可を求める。
政府が東日本大震災を受けた安全対策として、原発の運転期限を40年と定めたため、古い原発の廃炉に向けた動きが速まった。運転を最長20年間延ばす制度もあるが、老朽化対策などに多額の費用がかかり、今後も小規模なプラントなど投資対効果が小さい原発の廃炉が続く見通しだ。
ただ原発の廃炉は困難な作業を伴う。人が近寄れない場所が多いため工法が限られるほか、大量に出る放射性廃棄物の処理・処分にも時間と費用がかかる。費用は出力100万キロワット級で600億円程度とされるが、放射性廃棄物の量が予想を上回ったり、思わぬトラブルが起きたりすればさらに膨らむ。安全性を確保しつつ、手早く効率的に作業を進めなければならない。
老朽原発の廃炉は海外でも今後増え、これに携わる「廃炉ビジネス」も活発になる見通しだが、日本は欧米に比べて廃炉の実績が乏しい。福島第一の経験も生かして安全性と効率性、さらには思わぬ事態にも素早く対処できる柔軟性を兼ね備えた廃炉モデルの確立を急ぐ必要がある。
委員会には、経済同友会の小林喜光代表幹事、日本商工会議所の三村明夫会頭ら10人の委員が参加。年内にも提言をまとめ、今後の東電HDの再建計画に反映させる方針。
初会合では廃炉関係など追加費用の想定額を見積もった上で、不足分を捻出するための東電改革の進め方を検討することで一致。東電HDの広瀬直己社長は「国の救済措置を受けずに福島の責任をまっとうしたい」と述べた。委員の間には「社内の意識改革が進まないと、企業文化は変わらない」との指摘があり、事業再編などの構造改革案を、東電側が実際にどこまで受け入れるかが注目される。
一方、不足分を国が負担する案について委員長の伊藤邦雄一橋大学大学院特任教授は会見で「委員の総意としては否定的だが、最後の手段としてあり得ないことではない」との認識を示した。福島復興では損害賠償・除染費用として政府が、原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて最大9兆円を東電HDに交付し、廃炉の原資は東電HDが自ら、経営効率化などで総額2兆円を捻出する。だが、いずれも現場の作業が進む中で、費用が想定を大幅に上回る公算が大きくなっている。
(あいさつする伊藤委員長=手前中央)
日刊工業新聞2016年10月6日
「大量廃炉の時代」どう乗り越えるのか
日本に「原発廃炉の時代」が訪れた。政府が定めた40年の運転期限に達する原発の廃止措置が今後、一斉に始まる。原発の廃炉は放射線環境下の作業に特有の困難を伴う。東京電力福島第一原発の廃炉はまさに未踏への挑戦と呼べる苦難が待ち受ける。ただ、過酷な現場での貴重な経験を生かせば、海外の廃炉作業にも貢献できる。同原発の事故で低下した日本の原子力技術に対する信頼を取り戻す好機となる。
「前例のないチャレンジが続く。安全(確保)に最大限の配慮をして廃炉作業を進めたい」。東京電力の広瀬直己社長は政府が6月に開いた福島第一原発の廃炉・汚染水対策に関する閣僚会議で、そう決意を述べた。
政府と東電はこの会議で、同原発の廃炉に関する工程表を2年ぶりに改定した。1―3号機の核燃料プールから燃料を取り出す作業を2―3年遅らせて2017年度に開始。原子炉格納容器内で溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の回収作業は21年に始める方針だ。
だが成功の見通しは立っていない。最難関とされる燃料デブリの取り出しでは、溶け落ちた燃料がどこにあるのかすら、まだ分からない状況だ。作業全体の終結時期は改定前と同じく事故から30―40年後としたが、専門家の間では大幅に遅れるとの見方が強い。
原子力開発史上、例のない大災害となった福島第一原発事故。その廃炉作業は放射線やがれき、汚染水などに阻まれ、困難を極めている。人に代わって危険な場所で作業するロボットの開発も、失敗と改良の繰り返しだ。
瞬発力養う廃炉のビジネスモデルを
だが関係者の間にはこの経験をいずれ、ほかの原発の廃炉作業にも生かしたいという思いがある。ある技術者は「事故炉とは手順や工法が全く異なる」としながらも「通常炉の廃炉工程で想定外の事態に直面しても、素早く柔軟に対処できる瞬発力を養える」と指摘する。福島第一原発で培った知見は、日本が原発の大量廃炉時代を乗り切る糧となる。
これからは事故処理だけでなく、老朽化した原発の廃炉が本格化する。4月末には日本原子力発電(東京都千代田区)敦賀原発(福井県敦賀市)1号機など5基の原発が、およそ40年の歴史に幕を下ろした。今後、廃止措置の手順や工程などの実施計画をまとめて国に認可を求める。
政府が東日本大震災を受けた安全対策として、原発の運転期限を40年と定めたため、古い原発の廃炉に向けた動きが速まった。運転を最長20年間延ばす制度もあるが、老朽化対策などに多額の費用がかかり、今後も小規模なプラントなど投資対効果が小さい原発の廃炉が続く見通しだ。
ただ原発の廃炉は困難な作業を伴う。人が近寄れない場所が多いため工法が限られるほか、大量に出る放射性廃棄物の処理・処分にも時間と費用がかかる。費用は出力100万キロワット級で600億円程度とされるが、放射性廃棄物の量が予想を上回ったり、思わぬトラブルが起きたりすればさらに膨らむ。安全性を確保しつつ、手早く効率的に作業を進めなければならない。
老朽原発の廃炉は海外でも今後増え、これに携わる「廃炉ビジネス」も活発になる見通しだが、日本は欧米に比べて廃炉の実績が乏しい。福島第一の経験も生かして安全性と効率性、さらには思わぬ事態にも素早く対処できる柔軟性を兼ね備えた廃炉モデルの確立を急ぐ必要がある。
日刊工業新聞2015年09月15日