酒税一本化で得するビール会社、損するビール会社
ビール構成比率が他社より高いアサヒは本当に有利?
数年後にも予定される酒税の一本化を見据え、大手ビールメーカーがビール強化に動いている。アサヒビールとサントリービールはそれぞれ主力ブランドに続く新ビールブランドを投入し、キリンビールとサッポロビールはクラフトビールを強化中だ。ビールは減税となる一方、発泡酒と第三のビール(新ジャンル)は増税が予定される。缶チューハイを増税する動きもある。これらの商品は対ビールの低価格を強みに伸びてきただけに、酒税改正の時期や一本化までの期間が焦点だ。
「ビールの税率が下がることは歓迎する」。サッポロの尾賀真城社長は話す。現在の酒税は、350ミリリットル缶の場合、ビールが77円、麦芽比率25%未満の発泡酒が47円、第三のビールが28円。税制改正ではビール系飲料を一律55円前後にそろえる案が中心に議論される予定で、ビールの価格は二十数円安くなる。ビール愛好家には追い風になる。
一方、発泡酒や第三のビールは価格上昇が避けられない。特に第三のビールにとっては、30円近い上昇だ。そもそも発泡酒や第三のビールが生まれたのはビール酒税があまりに高いため、ビールメーカーが価格を下げようと独自に技術を開発してきた経緯がある。増税が決まれば、投資が無になりかねず、メーカーの反発は強い。
発泡酒に関しては、サッポロが2013年6月に発売したプリン体ゼロ・糖質ゼロの第三のビール「極ゼロ」に対し、国税庁が第三のビールに該当しない可能性があると待ったをかけた。
サッポロは翌年5月に販売を中止し、7月に発泡酒に切り替えて再発売した。9月からキリン、アサヒ、サントリーもプリン体ゼロの発泡酒をそろって発売し、発泡酒で機能性を強調する流れが鮮明になった。第三のビールはこれに対し、あくまでも低価格を特徴とする。
低価格を特徴とする第三のビールは、税率が一本化されれば生き残れるのは数ブランドに過ぎないとの指摘もある。大手4社の第三のビール主力商品はアサヒが「クリアアサヒ」、キリンが「のどごし」、サントリーが「金麦」、サッポロが「麦とホップ」と「極ゼロ」など。市場が縮小すれば、各社とも商品戦略練り直しを迫られる。
税率が一本化されれば機能性をうたう発泡酒に対して価格面の優位性が消失する。味や原料などの違いでどこまで差別化できるのか、ビールや発泡酒にはない新たなファッション性を打ち出せるかが焦点になる。同様のことは発泡酒についても言え、プリン体ゼロや糖質オフなどでビールとの違いを打ち出しているものの、一般商品については全部が生き残れる可能性は低い。
ビール会社にとって、もう一つの争点は缶チューハイの増税だ。缶チューハイの代表ブランドはキリンの「氷結」「本搾り」、サントリースピリッツの「マイナス196℃」などで、いずれも売り上げは伸びている。
アサヒも4月に新ブランド「もぎたて」を発売、販売好調で年間目標を2度にわたって上方修正した。第三のビールと同様、缶チューハイもビールと比べた低価格が強みになっており、増税されれば売り上げが落ち込むのは必至だ。
伸び盛りの商品のため各社とも増産や新商品強化に動いており、この流れも修正を迫られる。キリンの布施社長は「仮に第三のビールが増税で缶チューハイが据え置きなら、消費は缶チューハイに流れ、戦略見直しが必要」と話す。
メーカーにとって最悪のシナリオは、減税後もビール消費量が期待したほど伸びず、逆に第三のビールや缶チューハイがそれ以上、落ち込むというケースだ。そうなればアルコール離れがさらに進み、炭酸飲料など一般飲料との競争になる状態も考えられる。設備過剰が企業再編の引き金になる可能性もある。
アサヒはビール構成比率が同業他社より高い。酒税一本化になれば相対的に有利とささやかれているが、看板ブランド「スーパードライ」の販売数量は消費者の好みの多様化などで、長らく減少傾向が続いている。
落ち込みをカバーするため派生商品を相次ぎ発売し、さらに16年3月にはビールとして実に7年ぶりの新ブランド「ザ・ドリーム」を投入した。糖質50%オフの機能性が特徴で、同時期にドライプレミアムも刷新。スーパードライは派生商品を売り出すなど「プレミアムとドライ、ドリームの中で差別化を図り、合計売り上げを伸ばす」(平野伸一社長)考えだ。
キリンは看板ブランド「一番搾り」を強化する。15年の「9工場一番搾り」に続き、16年には47都道府県それぞれの味の「一番搾り」を発売した。“おらが街”の地域性を武器に、居酒屋や自治体、商店街などに営業攻勢をかけている。さらに若者らに人気が高いクラフトビールで東京・代官山や横浜にミニブルワリーを開設した。「ビール市場底上げには若年層取り込みが必要。中長期視点で取り組む」(布施孝之社長)。
米国では単調な味のビールに飽きた若者らのクラフトビールシフトが進んでおり、ビール市場内の構成シェアも十数%に高まっている。日本のクラフト比率は1%前後に過ぎないが、5%近くまで伸びれば各社がこぞって参入し、市場拡大の中で先行者利益を得られるはずだとの読みも働く。
「単調で画一的なビールの味に、日本の消費者は飽きている。米国のようにクラフト市場が拡大する可能性は十分にある」(磯崎功典キリンホールディングス社長)。コンビニエンスストア向けのクラフトビール「グランドキリン」も品ぞろえを強化している。
(キリンはイベントを通じてクラフト各社と協調)
サントリーは15年9月に新ブランド「ザ・モルツ」を発売した。「ザ・プレミアム・モルツ」が高価格帯だったのに対し、モルツは一般価格帯で、味もコクやうまみを強調。アサヒのスーパードライに代表される“キレ味のビール”との違いを鮮明にした。今年5月に中身をリニューアル、コクを強化したほか、缶体色もより鮮やかな銅色で、店頭で目立つように変えた。
サッポロは「黒ラベル」が昨年、販売数量で21年ぶりのプラス。16年1―8月も前年同期比3.1%増と好調が続いている。ギフト需要に強い、もう一つの看板ブランド「ヱビス」とともに、ビール路線を強化している。
(文=嶋田歩)
「ビールの税率が下がることは歓迎する」
「ビールの税率が下がることは歓迎する」。サッポロの尾賀真城社長は話す。現在の酒税は、350ミリリットル缶の場合、ビールが77円、麦芽比率25%未満の発泡酒が47円、第三のビールが28円。税制改正ではビール系飲料を一律55円前後にそろえる案が中心に議論される予定で、ビールの価格は二十数円安くなる。ビール愛好家には追い風になる。
一方、発泡酒や第三のビールは価格上昇が避けられない。特に第三のビールにとっては、30円近い上昇だ。そもそも発泡酒や第三のビールが生まれたのはビール酒税があまりに高いため、ビールメーカーが価格を下げようと独自に技術を開発してきた経緯がある。増税が決まれば、投資が無になりかねず、メーカーの反発は強い。
発泡酒に関しては、サッポロが2013年6月に発売したプリン体ゼロ・糖質ゼロの第三のビール「極ゼロ」に対し、国税庁が第三のビールに該当しない可能性があると待ったをかけた。
サッポロは翌年5月に販売を中止し、7月に発泡酒に切り替えて再発売した。9月からキリン、アサヒ、サントリーもプリン体ゼロの発泡酒をそろって発売し、発泡酒で機能性を強調する流れが鮮明になった。第三のビールはこれに対し、あくまでも低価格を特徴とする。
“第三のビール”残るのは数ブランド
低価格を特徴とする第三のビールは、税率が一本化されれば生き残れるのは数ブランドに過ぎないとの指摘もある。大手4社の第三のビール主力商品はアサヒが「クリアアサヒ」、キリンが「のどごし」、サントリーが「金麦」、サッポロが「麦とホップ」と「極ゼロ」など。市場が縮小すれば、各社とも商品戦略練り直しを迫られる。
税率が一本化されれば機能性をうたう発泡酒に対して価格面の優位性が消失する。味や原料などの違いでどこまで差別化できるのか、ビールや発泡酒にはない新たなファッション性を打ち出せるかが焦点になる。同様のことは発泡酒についても言え、プリン体ゼロや糖質オフなどでビールとの違いを打ち出しているものの、一般商品については全部が生き残れる可能性は低い。
好調・缶チューハイは戦略見直しも
ビール会社にとって、もう一つの争点は缶チューハイの増税だ。缶チューハイの代表ブランドはキリンの「氷結」「本搾り」、サントリースピリッツの「マイナス196℃」などで、いずれも売り上げは伸びている。
アサヒも4月に新ブランド「もぎたて」を発売、販売好調で年間目標を2度にわたって上方修正した。第三のビールと同様、缶チューハイもビールと比べた低価格が強みになっており、増税されれば売り上げが落ち込むのは必至だ。
伸び盛りの商品のため各社とも増産や新商品強化に動いており、この流れも修正を迫られる。キリンの布施社長は「仮に第三のビールが増税で缶チューハイが据え置きなら、消費は缶チューハイに流れ、戦略見直しが必要」と話す。
メーカーにとって最悪のシナリオは、減税後もビール消費量が期待したほど伸びず、逆に第三のビールや缶チューハイがそれ以上、落ち込むというケースだ。そうなればアルコール離れがさらに進み、炭酸飲料など一般飲料との競争になる状態も考えられる。設備過剰が企業再編の引き金になる可能性もある。
看板「スーパードライ」減少傾向
アサヒはビール構成比率が同業他社より高い。酒税一本化になれば相対的に有利とささやかれているが、看板ブランド「スーパードライ」の販売数量は消費者の好みの多様化などで、長らく減少傾向が続いている。
落ち込みをカバーするため派生商品を相次ぎ発売し、さらに16年3月にはビールとして実に7年ぶりの新ブランド「ザ・ドリーム」を投入した。糖質50%オフの機能性が特徴で、同時期にドライプレミアムも刷新。スーパードライは派生商品を売り出すなど「プレミアムとドライ、ドリームの中で差別化を図り、合計売り上げを伸ばす」(平野伸一社長)考えだ。
キリンは看板ブランド「一番搾り」を強化する。15年の「9工場一番搾り」に続き、16年には47都道府県それぞれの味の「一番搾り」を発売した。“おらが街”の地域性を武器に、居酒屋や自治体、商店街などに営業攻勢をかけている。さらに若者らに人気が高いクラフトビールで東京・代官山や横浜にミニブルワリーを開設した。「ビール市場底上げには若年層取り込みが必要。中長期視点で取り組む」(布施孝之社長)。
若者をどう取り込むか
米国では単調な味のビールに飽きた若者らのクラフトビールシフトが進んでおり、ビール市場内の構成シェアも十数%に高まっている。日本のクラフト比率は1%前後に過ぎないが、5%近くまで伸びれば各社がこぞって参入し、市場拡大の中で先行者利益を得られるはずだとの読みも働く。
「単調で画一的なビールの味に、日本の消費者は飽きている。米国のようにクラフト市場が拡大する可能性は十分にある」(磯崎功典キリンホールディングス社長)。コンビニエンスストア向けのクラフトビール「グランドキリン」も品ぞろえを強化している。
(キリンはイベントを通じてクラフト各社と協調)
サントリーは15年9月に新ブランド「ザ・モルツ」を発売した。「ザ・プレミアム・モルツ」が高価格帯だったのに対し、モルツは一般価格帯で、味もコクやうまみを強調。アサヒのスーパードライに代表される“キレ味のビール”との違いを鮮明にした。今年5月に中身をリニューアル、コクを強化したほか、缶体色もより鮮やかな銅色で、店頭で目立つように変えた。
サッポロは「黒ラベル」が昨年、販売数量で21年ぶりのプラス。16年1―8月も前年同期比3.1%増と好調が続いている。ギフト需要に強い、もう一つの看板ブランド「ヱビス」とともに、ビール路線を強化している。
(文=嶋田歩)
日刊工業新聞2016年9月29日